ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026で発表されたショパールの新作群を見ていくと、既存モデルの完成度をさらに高める方向に舵を切っているように見受けられる。その変化のひとつは「装い」だ。以前から取り組んできたニュアンスカラーを表現した文字盤に加えて、ショパールがこれまで挑戦したことのなかった「フィールドウォッチ」と「パティナ」というふたつのアプローチを打ち出した。さらに、「アルパイン イーグル」ではよりユーザビリティを向上させる工夫がなされた。これらの変化を新作モデルから読み解いていく。

Text by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[2026年4月17日公開記事]
さらに「深化」を遂げたショパールの新作
ついに始まった2026年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ。その会場においてショパールから新たな腕時計が発表された。それらの新作をひとことでまとめれば、「装い」の新解釈があると言えるのではないだろうか? 以前からショパールが取り組むニュアンスカラー文字盤の表現の幅はより広がり、マイルストーン的モデルである「L.U.C 1860」にも採用された。
加えて、「装い」における発想の転換を感じさせるモデルも登場した。ひとつは「L.U.C タイム トラベラー ワン」だ。ドレスウォッチの印象の強いショパールにおいて、文字盤にカーキカラーを採用することで、フィールドウォッチ感を強調したモデルだ。さらに、別の新作である「ミッレ ミリア クラシック パティナ」では、ショパールでは初となる経年変化を思わせる加工をケースに施した。
ショパールはこれらの新作で、今までのモデルに比べて、「装い」の新解釈を目指しているように捉えられる。その結果生み出された「色気」は、「高品質かつ高精度な機械式時計」という枠を超え、「装いの中で完成する存在」へと同社の腕時計を押し上げている。
また、「アルパイン イーグル」新作での、ユーザビリティを突き詰めることで完成度を高めた点も見逃すことはできない。耐磁性を備えた新型ムーブメントの採用や、マイクロアジャストメントを搭載したブレスレットは、腕時計を日常においてより着用しやすくしてくれる。
それでは、今回ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表されたショパールの新作の中から、特に注目したい新作モデルを紹介しよう。
L.U.C 1860
まずはL.U.C 1860の新バリエーションを紹介しよう。L.U.C 1860はジュエラーとしてすでに名声を確立していたショパールが時計業界に衝撃を与えたモデルであった。その理由は自社でゼロからムーブメントを設計し、そして製造したからだ。それも単に「作った」というだけではない。
1996年に発表されたこの自社開発・製造ムーブメントCal.1.96(現在はCal.L.U.C 96.01-L)は、極めて丁寧な装飾と仕上げを実現し、ジュネーブ・シールを取得。加えて精度も高く、初めてながらいきなり完成度の高いものとして誕生したのである。このムーブメントを搭載したモデルこそが、その翌年に発表されたL.U.C 1860だ。

自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティール™ケース(直径36.50mm、厚さ8.20mm)。30m防水。予価421万3000円(税込み)。
このマイルストーン的存在であるL.U.C 1860は、一度は一線から退いたものの、2023年に復活を果たしている。今回の新モデルは、6時位置に日付表示窓がないなど、2023年にサーモンカラーで発表されたモデルの新バリエーションと見てよいだろう。
だが、単に「新色が増えただけ」と解釈して良いのだろうか? この新作は、ショパール自身が「ニュアンスカラー文字盤」に対して示した、確固たる自信の現れのように思える。

というのも、前作の文字盤色のサーモンカラーは確かに微妙な色合いを見事に表現したものではあったが、時計製造では古典的な色のひとつであった。対して新作では落ち着いたブルーカラーは、マニュファクチュール付近を流れるアリューズ川からアリューズ・ブルーと名付けられた。
実は、注目すべきはこの地名にちなんだ色味にある。ショパールはアルパイン イーグルにおいて、アルプスという土地から名付けられた数々のニュアンスカラーをすでに発表している。
かつてショパールはムーブメントで精度を追求するものの、その文字盤色はブラックやシルバーなど、ストイックなものが多かった。しかし後に登場したアルパイン イーグルでは数々のニュアンスカラーに挑戦しその表現の幅を広げてきた。
そしてその流れが、フルリエのショパール マニュファクチュール創設30周年を迎えて、初めの一歩の象徴的存在であるL.U.C 1860に導入されたことは、ショパールがより「装い」に力をいれるということの、決意表明と受け取るべきだろう。
L.U.C タイム トラベラー ワン
今回発表された新作から、もうひとつ「装い」への強い意識を感じさせるモデルを紹介しよう。それがカーキカラーを文字盤に採用したL.U.C タイム トラベラー ワンだ。
このモデルに採用されている「セラマイズドチタン」は、チタンの表層を酸化させるプラズマ処理により、表面をセラミックス化し、小傷が付きにくい極めて高いビッカース硬さと、金属ゆえの割れにくさを両立させるという、いい所取りの素材である。
これまでショパールでは、セラマイズドチタンのケースを採用したモデルにおいて、腕時計全体にモノトーンに統一する傾向が見られた。まるでステルス戦闘機を思わせるように、ハイテクノロジーかつミステリアスな実験機としての印象を醸し出していたのだ。

自動巻き(Cal.L.U.C 01.05-L)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラマイズドグレード5チタンケース(直径42mm、厚さ12.09mm)。50m防水。世界限定250本。予価287万1000円(税込み)。
ショパールはこのセラマイズドチタンに新たな可能性を与えた。フィールドウォッチとしての装いである。本来、小傷に強いセラマイズドチタンはアウトドアで存分に使うべきケース素材だ。L.U.C タイム トラベラー ワンは新たにカーキカラーの文字盤をまとうことで、その可能性を実体化した。
ショパールは「素材の装い」のイメージチェンジを果たした。ドレスウォッチ以外でも勝負できる、それもダイバーズやパイロットウォッチでなく、陸をメインとしたフィールドウォッチでそれを実現したのだ。
そのような実用的デザインが採用された背景には、L.U.C タイム トラベラー ワンが利便性を考えて設計された腕時計だから、という理由もあるのではないだろうか? ワールドタイマーゆえの都市ディスクは、地球のマークがあしらわれたそれ専用のリュウズを用いて直感的に操作することができ、調整は簡単だ。

加えて、文字盤の視認性の高さも、その理由のひとつとして挙げられる。既存のL.U.C タイム トラベラー ワンでは、あふれる情報を区切るセクター仕様の文字盤とすることで、情報整理がなされていた。
新作ではそれがさらにアップデートされた。時針・分針はホワイトカラー、秒針は濃いイエローで色分けがされているため、感覚的に目当ての針を見つけることができる。特徴的な形状のフォントも、視認性の高さに貢献していると言えるだろう。細く、それでいて極めて精緻なこのフォントは、見やすさを妨げることがない上に、全体の雰囲気が引き締まりシックな印象を与える大きな要素であるのだ。
L.U.C XPS プルシアンブルー
そしてL.U.Cから最後にひとモデルだけ、新色のプルシアンブルーをまとった「L.U.C XPS」を紹介しよう。L.U.C XPS は、ケースの厚さはわずか7.2mmだが、そのムーブメントはCOSC認定クロノメーターを取得するほどの高精度を誇るドレスウォッチである。

自動巻き(Cal.L.U.C 96.12-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティール™ケース(直径40mm、厚さ7.2mm)。30m防水。予価192万5000円(税込み)。
現行モデルはモダンな印象を与えるセクターダイアルを備えるものであり、今までグリーン文字盤のみで展開されていたところに、新たにブルーカラーがラインナップされた。この色の追加は、より多様な「装い」に応えるための、新たな選択肢となるだろう。

サンバーストサテン仕上げが施された深いブルーのこの文字盤は、光の当たる角度によって色味が変化して見えるという特徴を持つとともに、その色の由来には興味深いものがある。
プルシアンブルーのプルシアとは、現ドイツの一部であったプロイセン王国のことを指す。なぜスイスの時計ブランドであるショパールがこの色を、と疑問に思うかもしれない。ショパールの自社工房の所在地であるフルリエが属するヌーシャテル州は実はスイスに属していながらも、1707年から1857年までの間、プロイセン王国の君主を元首とする公国でもあったという、特殊な歴史的背景を持つのだ。
さらに、プルシアンブルーは、実は日本との接点も持つ。近代的な初の合成顔料であるこの色は、プロイセンの首都ベルリンの藍、ベロ藍と呼ばれ江戸時代に日本に持ち込まれ、浮世絵の世界で大きな革命を起こした。それまでの浮世絵は緑や赤が多く用いられてきたが、ベロ藍のおかげで深い青を表現することが可能になったのだ。
かつて葛飾北斎が深いブルーのベロ藍で浮世絵の常識を変えたように、「L.U.C XPS」も光の加減で印象が変わる多層的なブルーで「装い」の世界を刷新するという意図が込められているのかもしれない。
アルパイン イーグル 41 AM
次はアルパイン イーグルの新作を見てみよう。日常使いでより使いやすく、ユーザビリティを向上させるモディファイが施された。そのひとつが「アルパイン イーグル 41 AM」だ。

自動巻き(Cal.Chopard 01.01-C)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。ルーセントスティール™ケース(直径41mm、厚さ9.75mm)。100m防水。予価242万円(税込み)。
現代社会は磁気があらゆるところにあふれている。パソコンにスマートフォンと身近なものほど危ない。ゆえに、腕時計を身に着ける際には細心の注意が必要となる。アルパイン イーグルの新作はそのことを気にせず、着用できる工夫がなされている。

この新作アルパイン イーグル 41 AMは、ヒゲゼンマイに非磁性素材を採用することで、その影響を約15分の1にまで低減させたという。文字盤上のU字型磁石に斜線を引いたマークがそのことを物語る。しかしながら、今のところその素材は明らかにされてはいない。続報に期待しよう。
また、ブレスレットは以前のものに比べてよりテーパーがかけられ、より今日的な雰囲気をまとった点にも注目してほしい。
アルパイン イーグル 41 XPS
「アルパイン イーグル 41 XPS」。超薄型(extra-plat)を意味するXPに、スモールセコンド(small second)を意味するSが名付けられたこのモデルは、アルパイン イーグルのフラッグシップと呼ぶべき存在だ。
というのも、L.U.C 1860にも搭載される高い精度を誇り、精緻な装飾が施された、ムーブメントCal.L.U.C 96.40-Lを搭載。加えてたったの8mmというケース厚を実現した、まさに格別なモデルだからだ。

自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティール™ケース(直径41.00mm、厚さ8.00mm)。100m防水。予価440万円(税込み)。
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026ではこのモデルに、マウンテングローと名付けられた繊細なシャンパンカラー文字盤の新作が登場した。上品な色合いに心が奪われそうになるが、注目点はそこだけではない。
それはブレスレットに「マイクロアジャストメント」が加えられたことだ。バタフライ式フォールディングクラスプの左右にある、コマとコマの間を伸び縮みさせることで、手首まわりのサイズの微調整を容易に行えるようになった。
コマ調整だけでは、すべての人の手首に必ずしも合うわけではない。さらに、人間の手首のサイズは時間帯によって変化さえもする。そこで、微調整をすることができれば、最高のフィット感を与えることができるというわけだ。アルパイン イーグルが実際に着用する人にとっての理想へと、より寄り添ったのである。
なお、このブレスレットも以前のモデルのものと比べて、テーパーが強くかけられている。また、同じく発表された「アルパイン イーグル 41 XP CSゴールド」にも微調整機構が採用された。
ミッレ ミリア クラシック パティナ
ショパール共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレとクラシックカーレース、ミッレ ミリアとのつながりを象徴する「ミッレ ミリア」コレクションにも「装い」の観点から注目すべきモデルが登場した。

自動巻き。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。ルーセントスティール™ケース(直径40.5mm、厚さ12.88mm)。50m防水。世界限定100本。予価180万4000円(税込み)。
それが「ミッレ ミリア クラシック パティナ」である。パティナとは経年変化のことを指し、時計の場合にはケースや文字盤に起こりやすい。その言葉が示すように、この新作腕時計のケース表面のかどは削れ、まるで長く愛用されたかのような印象を与える。

まずケースにブラックのDLCを施し、その後に振動するセラミック粒子によって表面を仕上げるトライボフィニッシュ加工を施すことで、かどの部分などが削れたような表現を実現した。結果、新品でありながらも、長く寄り添ったモデルであるかのような印象を与える。
ジュエラーを出自のひとつとして持ち、その極めて高度な表面仕上げを誇るショパール。そこに新たな表現がラインナップに加えられたことで、ショパールの時計製作における、広がりのある可能性を感じさせる新作である。なお、このような表現を試みた背景に、クラシックカーの世界において、あえて完全に修復するのではなく、経年変化を魅力として残すという美学があるという。
ルール・ドゥ・ディアマン
そして最後に、新発表されたショパールのレディースモデルの中から「ルール・ドゥ・ディアマン」を紹介しよう。本作は1960年代のアーカイブモデルに着想を得たデザインであり、文字盤からブレスレットへとシームレスに連なるフルーテッドゴールドリンクブレスレットが特徴的だ。

手巻き(Cal.Chopard 09.01-C)。27石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約42時間。18Kエシカルホワイトゴールドケース(縦33×横33mm、厚さ9.3mm)。30m防水。予価1679万7000円(税込み)。
縦33×横33mmという小サイズながら、機械式ムーブメントであるCal.Chopard 09.01-Cを搭載。現在のショパールの時計作りには、メンズ、レディース問わず「機械式時計への意欲」と「装い」の刷新への意識があふれていることが見受けられるだろう。
「深化」は決して偶然ではない
ニュアンスカラーの新たな挑戦、素材表現の拡張、そしてユーザビリティの向上。そのいずれもが、これまでショパールが積み重ねてきた歩みの延長線上にある。各モデルは個別のアップデートにとどまらず、ブランド全体の方向性をより明確に示すものとなった。より成熟を深めたショパールの現在地は、この「深化」によって静かに浮かび上がっている。



