ヤーゲンセンスタイルのムーブメントを搭載するYOSUKE SEKIGUCHIの「プリムヴェール」。2025年仕様としてシャンルベエナメル文字盤とクリームエナメル文字盤が新たに発表された。
Text by CCFan
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
YOSUKE SEKIGUCHI「プリムヴェール」
全てのインデックスを彫刻し、エナメルを流し込んだシャンルヴェ技法で製作した文字盤を持つ新作。文字盤素材は18KWGだが、ケースと文字盤の影響か地の部分も肉眼では赤みを感じる。手巻き(Cal.YS-Y1)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KRGケース(直径39.5mm、厚さ12mm)。30m防水。1540万円(税込み)。
(右)ヤーゲンセンスタイルの堅牢なブリッジにユニークな形状のバネコハゼが組み合わされたCal.YS-Y1。過度に装飾的ではなく質実剛健さとミニマルな美しさが調和する。面取りは一般的なR面取りよりも難易度の高いC面取りを施し、平面が特定の角度で光を捉えて鮮烈に反射する。工業的な見た目の緩衝装置はルビーでカバーし、古典的な意匠を実現している。
ル・ロックル在住の日本人時計師、関口陽介が手掛ける「プリムヴェール」。公私ともにアンティークに関わっていた氏が〝腕化〞し、毎日装着するほど気に入っていたヤーゲンセンの懐中時計に範を取った伝統的なムーブメントを搭載するモデルだ。同作は貴金属ケース、シャンルヴェ技法によって作られたグラン フー エナメルダイアルを組み合わせた王道中の王道スタイルの古典機である。
そんなプリムヴェールは、毎年ダイアル表現とケース素材を変えたイヤーモデルが各仕様本数限定で販売される。これらは「自分の名前を入れた作品である限り、人任せにはできない」と語る氏が、細かいムーブメント部品や針の仕上げまでを自ら行っている。設計図なし、手作業で製作したプロトタイプを協力するマイクロエンジニアが採寸して図面化、それを元に部品製作を行う、という異色の手法で作られたエボーシュは面取りすら行われていない〝切りっ放し〞の状態で氏の手元に到着。それをひとつひとつ手作業で〝仕事〞し、納得するまで磨き上げて仕上げる。

新作ではヌーシャテル州の個人作家が手掛けるエナメルダイアルを採用。彫り込まれた凹部にエナメルを流し込むシャンルベ技法は、厚みのあるエナメル層を形成し、深みのある色合いを表現している。新色のガーネットではローマ数字のアワーインデックスとドットのミニッツインデックス、そしてスモールセコンドダイアルのドットインデックスまでが彫刻で製作され、金属の光沢と深紅のエナメルのコントラストが楽しめる。
見れば見るほど、関口の求める〝完璧への飽くなき拘り〞が見えてくるプリムヴェール。妥協なき、という常套句を用いるのは簡単だが、とてもそれだけでは足りないだろう。機会があればぜひ実機で確認してほしい。
