機械式時計の価格が高騰する中、異例のヒットを記録しているモデルがある。シチズンの「ツヨサコレクション」だ。税込6万6000円(税込み)というエントリークラスの価格で登場しながら、その魅力は価格の手頃さにとどまらない。精度、装着感、デザインという三拍子がそろった完成度の高さが、多くの支持を集める理由だ。本稿では、『ウォッチタイム』アメリカ版編集者ロジャー・リューガーによる実機レビューを紹介する。

自動巻き(Cal.8210)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm×厚さ11.7mm)。5気圧防水。6万6000円(税込み)。
スポーティかつシックな新定番、「ツヨサ」が世界でブレイク
世界の時計愛好家たちは、シチズンによる一体型ブレスレットを備えた、非常に魅力的な価格帯の新しい機械式時計コレクションに注目し始めていた。2022年には、このスポーティかつシックなコレクションがヨーロッパで正式に発表され、以降、その他の地域にも展開された。
スイス・バーゼルの老舗時計店を営むパトリック=フィリップ・ヒューバーは、このモデルが初めて入荷した時のことを鮮明に覚えていた。「ウィンドウに展示してからわずか10分で、お客様が購入されました」と語る。興味深いことに、それはサンレイ仕上げのイエロー文字盤を持つモデルで、海外ではラインナップの中でも特に人気の高いカラーのひとつだ。
アメリカでの希望小売価格は、日本円で約6万6000円(税込み)だ。その価格設定が、従来とは異なる新しい購買パターンを生んだ可能性もある。シチズンの米国法人でマネージングディレクターを務めるエリック・ホロウィッツはこう述べる。
「腕時計においてカラーへのニーズは無視できません。『ツヨサ』が世界展開されたのは2022年後半ですが、その反響は驚くべきものでした。私たちは、この注目すべきタイムピースをアメリカ市場に導入する必要があると確信しました」。
ツヨサの文字盤は、鮮やかな色調を含めてカラーバリエーションが用意されているのが特徴だ。
70年代的ディテール

自動巻き(Cal.8210)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm×厚さ11.7mm)。5気圧防水。6万6000円(税込み)。
シチズン、ツヨサの文字盤にはサンレイ仕上げが施され、ラグジュアリースポーツを思わせる1970年代風のデザインと絶妙に調和。バーインデックスのうち、12時位置と6時位置のものは2本ずつ配置されており、時分針にはホワイトの蓄光塗料が塗布されている。

自動巻き(Cal.8210)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm×厚さ11.7mm)。5気圧防水。6万8200円(税込み)。
快適な装着感と実用的なスペック
ケースは直径40mmで、厚さは11.7mmだ。ヘアライン、ポリッシュ、面取りの仕上げを使い分け、ラグの角度も絶妙である。多くの人に快適な装着感を提供する設計だ。加えて、4時位置のリュウズが装着時の見た目をスリムな印象を与えるが、残念ながら操作性はやや劣る点もある。
風防にはフラットなサファイアクリスタルが採用され、3時位置にはサイクロプスレンズ付きのデイト表示を備える。裏蓋はシースルー仕様で、5気圧防水性能も備える。
信頼性の高いミヨタ製ムーブメントCal.8210
搭載されるムーブメントはCal.8210。シチズン グループの企業であるムーブメントメーカー、ミヨタからの供給である。ミヨタの創業は1959年にさかのぼり、その年シチズンは長野県御代田町にムーブメント工場を設けた。ミヨタブランドは1980年から始まり、世界中のブランドにムーブメントを供給してきた。
今回採用されたCal.8210のサイズは直径約26mm、21石、毎時2万1600振動となっている。片方向の巻き上げ方式を備え、日差-20秒から+40秒となっており、完全に巻き上げられた状態で約42時間のパワーリザーブを保持。手巻き対応も可能で、秒針停止機能も搭載されているものだ。ムーブメントは裏蓋より観察することができ、ローターなどゴールドカラー仕上げの部分もあるが、それ以外に装飾は施されていない。
ブレスレットの作り込みも抜かりなし
ブレスレットは3連構造で、サイドリンクがヘアライン、センターリンクがポリッシュ仕上げ。プレス加工のフォールディングクラスプはダブルプッシュ式で、3段階の微調整が可能な穴を備える。
エンドリンクの幅は実測値で9.1mmと短めで、若干の遊びがカジュアルさを醸し出す。今回試した個体ではコマの調整がほとんど不要で、ブレスレットとヘッドの重量バランスの良さが際立った。
エントリークラスモデルの理想形。ツヨサは「買い」か?
スマートウォッチの参入や機械式時計に対する人気の高まりから、多くの時計ブランドはここ数年、本数を限ったり、価格を上げたりと自らの腕時計をさらに特別なものとしようとしてきた。幸いなことにシチズンのようなメーカーは10万円以下の機械式時腕計の戦場を舞台として生き延びてきただけではなく、予算の限られる買い手が妥協しなくても良いように努力をし続けてきたのだ。
ツヨサコレクションは特に控えめな6万6000円(税込み)という価格をもって、このエントリークラスでのベストなモデルのひとつとなっている。この腕時計は手首に乗せるとシンプルである上に、感覚的そして視覚的に素晴らしい腕時計と思えるのだ。スポーツウォッチとしてよくできているだけでなく、沢山の楽しみを与えてくれる。
シチズンのエリック・ホロヴィッツは、「自社グループ内の機械式ムーブメントの専門性とトレンドを取り入れたデザイン、そして手の届きやすい価格を組み合わせることによって、新規そして既存顧客の両方の期待を上回る時計を提供したいと考えたのです」と語っている。
この点において、ツヨサは確実に的を得た製品だ。Cal.8210に対して、クロノメーター認証レベルのパフォーマンスを求めないのであれば、まずは自分が手にいれる腕時計が、どの文字盤カラーにするか悩む準備をした方がよい。
次の休暇用の素晴らしい腕時計を探しているコレクターであろうと、機械式時計に足を踏み入れようとしている初心者であろうと、本作は非常にお薦めだ。客観的にリュウズはもう少し操作しやすいようにできたのではないか、そしてサイクロプスレンズの好き嫌いは分かれるのではないかという点はあるが、それを除くと、このモデルは多くの要件を満たしていることは事実だ。