8go(八重洲)/この世ならぬ美味のクリエイター

2025.09.13

リジェネラティブな未来の実現に向けた新たなスペース「8go(エゴ)」が東京・八重洲に誕生した。料理人・野田達也氏が提案する、8年後を見据えた食の在り方とは?

ゴミのスープ
風味と色味を残すよう40℃以下の低温で乾燥させた野菜の端材などを、サイフォンで3回ほど煮出し、塩のみで味を引き立てた逸品。サステナブルな「ARAS」のプレートや、近隣で廃業した鮨屋から譲り受けたお猪口を使用し、食を取り巻くすべてにおいて未来への循環を大切にしている。今秋~冬頃にスタートするコースの中で、提供予定(日本橋馬喰町にある「nôl」でも味わうことができる)。
外川ゆい:取材・文
Text by Yui Togawa
三田村優:写真
Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]


調和と循環が導く食の未来と可能性

野田達也

野田達也(Tatsuya Noda)
1985年、福岡県生まれ。半導体エンジニアから料理人へ転向。専門学校卒業後、都内フランス料理店を経て2012年に渡仏。「Passage53」の佐藤伸一氏の薫陶を受ける。フリーランスとして多様な活動をする傍ら「kitchen spacenôl」のディレクターを務めミシュラン一つ星、ミシュラングリーンスターへと導く。

「トマトの皮やハーブなどが夏らしい爽やかさを感じさせてくれ、日本在来のスパイスである黒文字は甘やかな印象に。筍やヤングコーンの皮、スナップエンドウのヘタとスジが主要な味の構成になり、思いのほか旨味たっぷりの仕上がりです」と語るのは、料理人の野田達也氏。季節の移ろいを伝えてくれるなんとも優美なこちらのスープだ。口へと運ぶと、身体の隅々までじんわりと染み渡っていく。しかしながら、そのメニュー名は「ゴミのスープ」と衝撃的。今から7~8年前、野田氏がパリのレストランで腕を振るっていた頃から作り続けているもので、常連だったアーティストの村上隆氏が命名した。「新型コロナウイルス禍を機に日本でも徐々に受け入れられるようになり、ゲストの反応から世の中の価値観の移り変わりを感じた料理です」と振り返る。

 野田氏が、最初にフランスに渡ったきっかけは、本屋で手に取ったミシュラン二つ星「Passage 53」の佐藤伸一氏(現Restaurant Blanc Paris)が手掛けた料理の写真だった。突き動かされ、半年後には佐藤氏の下で働き始めた。「今でも料理を創作する時などは、軸として佐藤シェフのエスプリが大きく反映されています」と語る。また、料理人という仕事、そして現在のようにひとつのレストランに留まらないスタイルを選んだ理由を尋ねると、料理人の働き方やその選択肢を増やすため、そして社会との接続を促すべく活躍できる領域を広げ、「食」の担い手を未来に紡ぎたいからだと教えてくれた。

 そんな野田氏が、昨年から携わっているのが「Tokyo Living Lab」だ。世界屈指の美食科学のアカデミアであるバスク・カリナリー・センターと連携したカリキュラムを提供する初の国際拠点「Gastronomy Innovation Campus Tokyo」と、Innovative Kitchen「8go」のふたつで構成されている。

「純粋に食体験を楽しみに来てください。我々の方で未来へのインスピレーションになるようなフックをご用意していますので」という野田氏の朗らかな言葉の通り、多彩な要素が詰まった施設ながら非常に居心地がよい。「8go」を訪れると、8年先の食に想いを馳せ、小さな何か(例えば、野菜の種を蒔くとか)を始めてみたくなる。そんなきっかけをくれる場所だ。

8go(エゴ)

8go

店名「8go」は、8年後という現実的な未来、偏ったエゴを見つめ直すこと、そして八重洲に拠点を構えることに由来。昼はカフェスタイル、夜はネオ・タパスというバルスタイルで営業する。

東京都中央区八重洲1-4-16八重仲ダイニングB2F
Tel.070-8970-5274
土曜・日曜・祝日定休
カフェ11:00~17:00、ランチ11:30~L.O.14:30、ディナー17:30~23:00
ドリンク500円~、フード1500円~


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