優れた視認性を誇る腕時計5本を紹介する。フィールドウォッチやパイロットウォッチ、ダイバーズウォッチなど、極限の状態で活動するプロフェッショナルたちに愛され、進化を遂げてきた名作には、視認性の高さという共通点がある。シンプルなデザインを好むユーザーから老眼の進んだ時計オタクまで、幅広くおすすめできるモデルを取り上げている。
Text by Tsubasa Nojima
[2025年7月29日公開記事]
時計としての性能をシンプルに突き詰めたプロフェッショナルウォッチ
腕時計の本質が時刻を確認するための道具だとすれば、視認性はその良し悪しを判断するための最も大きな要素のひとつだと言えるだろう。特に、一瞬の油断が命取りとなる戦場や、高速で飛行する航空機の操縦中においては、手元に目をやる時間が少なく済むことが望ましい。また、登山や極地探査、海中にあっては、十分な酸素を得られずに頭がぼんやりすることも起こりうる。極限の状態では、いかに短い時間で容易に時刻を確認できるかが重要なのである。
これらのシーンは、現代の多くの人にとって日常ではないだろう。しかし、プロフェッショナルたちに愛用され、研ぎあげられたフィールドウォッチやパイロットウォッチ、ダイバーズウォッチなどには、日常生活の中でも十分に活躍する視認性が備わっている。
今回紹介するのは、そんなルーツを持つ優れた視認性を誇る腕時計たちだ。時計としての性能をシンプルに突き詰めたこれらのモデルは、幅広いシーンで着用しやすく、また老眼が進んだ時計オタクの良き相棒にもなってくれるはずだ。
パネライ「ルミノール マリーナ」Ref.PAM03312

海中での視認性を確保すべく、大型のダイアルにアラビア数字とバーを組み合わせたインデックスを配した「ルミノール マリーナ」。サンドイッチ構造によって、インデックスが暗所で強く光る。自動巻き(Cal.P.980)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径44mm、厚さ14.6mm)。50気圧防水。132万円(税込み)。(問)オフィチーネ パネライTel.0120-18-7110
かつての“デカ厚”ブームを牽引したパネライ。しかし、トレンドが小径ケースに回帰しつつある昨今においても、その人気に陰りは見られない。恐らく、その大きさが一過性の流行を追ったものではなく、ほの暗い海に潜むイタリア海軍のダイバーを支えたという正統な歴史的意義があるからだろう。
直径44mmのクッション型ケースを採用した「ルミノール マリーナ」は、そんなパネライらしさを存分に味わうことのできるモデルだ。大型のアラビア数字とバータイプのインデックスを組み合わせたダイアルは、サンドイッチ構造によって暗所で蓄光塗料が強く光る。ケースサイドに取り付けられたリュウズプロテクターは、レバーによってリュウズを押し付け、防水性を確保するパネライ独自の特許機構だ。
ムーブメントは、約72時間のパワーリザーブを誇る自動巻きのCal.P.980を搭載する。ヘアラインを主体としたローターや受けなど、ツール感あふれる仕上げをシースルーバックから楽しむことが可能だ。
オメガ「レイルマスター」Ref.235.10.38.20.06.001

2025年にリニューアルを遂げた、オメガの耐磁性に優れた腕時計、「レイルマスター」。初代モデルを彷彿させるシンプルなダイアルは視認性抜群。自動巻き(Cal.8806)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.7mm)。15気圧防水。84万7000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087
「シーマスター」や「スピードマスター」と同じく1957年に誕生した、オメガの耐磁性能に優れた腕時計が、「レイルマスター」だ。常に磁気に晒される環境にありながら、正確な時刻を把握する必要がある鉄道員をターゲットとしたレイルマスターには、まさにプロフェッショナルユースにふさわしいストイックなデザインが与えられている。
2025年に登場した最新モデルでも、初代モデルから続く、アラビア数字とくさび型のインデックスを組み合わせたシンプルなダイアルが受け継がれている。インデックスは植字ではなく、蓄光塗料を塗布したもの。強い衝撃が加わっても脱落することがない。さりげなく個性を演出するグレーのグラデーションが心憎い演出だ。
ツイストしたラグや、ヘアラインとポリッシュを組み合わせたケースは、「シーマスター アクアテラ」に共通するデザイン。ケースバックからは、マスター クロノメーター認定を取得したハイスペックな自動巻きムーブメント、Cal.8806を楽しむことができる。
IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」Ref.IW329306

鮮やかなグリーンダイアルと直径43mmのケースを採用した「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」。ビッグ・パイロット・ウォッチでありながら、デイリーユースにもぴったり。自動巻き(Cal.82100)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.6mm)。10気圧防水。137万5000円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
2021年、IWCはそれまで直径46mmであった「ビッグ・パイロット・ウォッチ」を小径化した43mm径ケースモデルを発表した。1940年代にドイツ空軍向けのパイロットウォッチとして誕生したモデルをモチーフとしたビッグ・パイロット・ウォッチには、極限状態における瞬時の視認性を発揮すべく、アラビア数字インデックスとローザンジュ型の時分針が組み合わされている。12時位置に配されたトライアングルマークは、時計の向きを一目で判別するためのものだ。
直径43mmのケースは、ビッグ・パイロット・ウォッチでありながらも日常使いに適したサイズ。10気圧の防水性と相まって、幅広いシーンで活躍してくれることだろう。円錐型のリュウズは、パイロットがグローブを着用したままでも操作できるように大きく作られている。戦場で磨き上げられた緊迫感が伝わるようなディティールだ。
また、現行のビッグ・パイロット・ウォッチには、豊富なバリエーションが展開されていることも魅力。クラシカルなブラックダイアルだけではなく、ブルー、グリーンの鮮やかなカラーダイアルも存在し、ラバーストラップやステンレススティールブレスレット、レザーストラップなど、ベルトの種類も多くラインナップする。ベルトにはEasX-CHANGE®システムが搭載され、ワンタッチでケースから取り外すことが可能だ。
ゼニス「パイロット オートマティック ブルー」Ref.03.4000.3620/51.I003

6時位置に“PILOT”の文字が輝く、ゼニスの「パイロット オートマティック ブルー」。シンプルながらソリッドなデザインが、パイロットウォッチらしいタフさを感じさせる。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3620)。26石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm)。10気圧防水。108万7900円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
ゼニスの中でも、シンプルなスポーツウォッチがラインナップする「パイロット」コレクション。今回紹介する「パイロット オートマティック ブルー」は、深いブルーのダイアルが特徴のブティック限定モデルだ。
水平方向のパターンが与えられたダイアルには、ホワイトの蓄光塗料を充填したアラビア数字インデックスが並び、6時位置にはデイト表示が配されている。直径40mmのステンレススティールケースは、ヘアラインを主体に仕上げられ、ソリッドな印象だ。フラットで幅広のベゼルがスポーツウォッチらしい力強さを感じさせる。
ベルトはダイアルのカラーに調和したコーデュラ・エフェクト ラバーストラップが装着され、そのほかにブラウンのカーフレザーストラップが付属する。好みやシーンに合わせて付け替えを楽しむことが可能だ。
ムーブメントは、毎秒10振動のハイビートを誇るCal.エル・プリメロ3620を搭載。クロノグラフ機構は廃されているが、高振動がもたらす外乱への耐性によって、アクティブなシーンでも安心して使用することができる。
チューダー「レンジャー」Ref.M79950-0001

ツールウォッチ然とした佇まいが魅力の「レンジャー」。シンプルな見た目ながら、“T-fit”クラスプやマニュファクチュールムーブメントの搭載によって、優れた機能性を誇る。自動巻き(Cal.MT5402)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39mm、厚さ12mm)。100m防水。50万7100円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
1950年代に行われた英国海軍の北グリーンランド遠征で、チューダーが提供した「オイスタープリンス」に着想を得て誕生した「レンジャー」。過酷な環境に適応すべく一切の無駄を排したデザインには、ツールウォッチに必要なエッセンスが凝縮されている。
マットブラックのダイアルには、アラビア数字インデックスとバーインデックスが配され、高いコントラストが優れた視認性を発揮する。やや黄色みを帯びた蓄光塗料やドーム型サファイアクリスタルなど、ヴィンテージ感を思わせる要素も魅力だ。
ステンレススティール製のケースは、直径39mm。ラグやベゼルも含め、全体をヘアライン仕上げで統一している。3連タイプのステンレススティールブレスレットが組み合わされ、独自の微調整機構である“T-fit”を搭載したダブルロッククラスプによって快適に装着することが可能だ。
ムーブメントは、傘下のケニッシが手掛けるCal.MT5402を搭載する。COSC公認クロノメーターを取得した高い精度やシリコン製ヒゲゼンマイによる優れた耐磁性など、十分な実用性が備わっている。