ロレックスは2023年に「パーペチュアル 1908」を発表し、クラシックウォッチの新たな指標を打ち立てた。そして翌2024年には、プラチナ製ケースとライスグレインモチーフのギヨシェダイアルを備えた新バリエーションが登場。この伝統技法による繊細な装飾は、これまでのロレックスには見られなかった意匠であり、同社による美的表現の新たな地平への挑戦を物語っている。

Text by Daniela Pusch
ロレックス:写真
Photographs by Rolex
岡本美枝:翻訳
Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
ギヨシェが刻むロレックスの新たな美学

2023年、ロレックスは「パーペチュアル 1908」コレクションを発表して話題を呼んだ。このクラシカルなウォッチは、ロレックスの豊かな歴史を次の時代へと継承すべく、ハンス・ウイルスドルフがブランドの礎を築いた年にちなんで名付けられた。ロレックスはパーペチュアル 1908で自身の起源に立ち返ることで、チェリーニコレクションの時代に終止符を打った。
1968年に生まれたチェリーニは、当時すでに伝説となっていた「オイスター パーペチュアル」に代表される機能性や堅牢性ではなく、エレガンスと審美性に焦点が当てられたモデルである。「オイスター」シリーズは、特別な用途に対応する専門ツールとして開発されたサブマリーナーやGMT マスター、コスモグラフ デイトナなど、ロレックスで最も知られたモデルの基礎となった。

だが、60年代初頭にロレックスがコレクションの多様化に乗り出したことで、ブランドの哲学は新たな方向へと舵を切ることになる。シーンに合わせてスタイルの異なる腕時計を複数所有するという考え方が支持されるようになり、ドレスウォッチとしてデザインされたチェリーニが登場する土壌が整えられたのである。
70年代になると、オイスターシリーズとは対照的な、ねじ込み式リュウズやねじ込み式裏蓋を必要としない非防水ケースのエレガントなモデルが数多く登場するようになる。ここではディテールが重視され、貴金属やきらめく貴石が使用された。機能性を追求するのではなく、審美性とクラシカルなデザインに注力されたコレクションが誕生したのだ。半世紀を経た今、ロレックスはこの路線における新たな章へと踏み出した。伝統的な時計製造スタイルを再解釈したのが、パーペチュアル 1908 コレクションである。

ロレックスはパーペチュアル 1908に、スモールセコンド、繊細なドーム&フルーテッドベゼル、シンプルな文字盤、そしてスリムなケースを与えることで、自社にとってのクラシックウォッチを再定義した。ここに搭載されているムーブメント、キャリバー7140は、意外なことにクラシカルな印象を与えるのに一役買っている。発表から1年後の2024年、プラチナモデルが発表され、新たな章が始動した。文字盤に伝統的な装飾が施され、息をのむほど印象的なこのモデルは、先に登場したパーペチュアル 1908よりも力強い印象である。

新たな次元のエレガンス

ロレックス愛好家なら、パーペチュアル 1908の新作では、真っ先にアイスブルーの文字盤に注目するだろう。この色は、ロレックスのプラチナモデルにしか使われない。ロレックス自身の言葉を借りれば、「最高級の腕時計にふさわしい最も高貴な金属であるプラチナを使用している」からだ。
価値の高いプラチナは、その銀白色の光沢と輝きが魅力的である。金属の中でも密度が高く、また重い金属であるプラチナは、優れた耐食性など、物理的にも化学的にも非常に優れた特性を備え、展性や延性に優れている。その一方で、研磨するには難易度が高く、加工を手掛ける職人には高度なレベルの技術が求められる。ロレックスはプラチナ含有率が95%のプラチナ950のみを使用しているが、こうした貴金属も卓越した技術を備えた自社工場で製造している。
魅力的なギヨシェ装飾

パーペチュアル 1908のアイスブルー文字盤はとりわけ、ライスグレインモチーフと呼ばれる繊細なギヨシェ模様が特徴的だ。伝統的な模様彫りであるギヨシェ装飾は、腕時計に生き生きとした立体感を与える。6時位置のスモールセコンドを起点に広がるこの模様は、ダイナミックなテクスチャーを生み出し、見る者を魅了する。2023年に発表されたパーペチュアル 1908も好印象だったが、今回のモデルは文字盤のライスグレインモチーフによって新たな次元に引き上げられた。文字盤全体に広がるギヨシェ模様により、これまでのモデルよりも活気に満ちている。ミニッツスケールの両側には別のギヨシェ彫りが施され、文字盤の仕上がりをさらに高めている。
新旧の意匠が調和した個性
ハンス・ウイルスドルフの画期的なイノベーションの数々は、主として腕時計の技術的特性に革命をもたらすものだったが、同時に、審美的なビジョンを追求した結果でもあった。1931年に登場した初代オイスター パーペチュアルのように、本作のケースと文字盤もクラシカルでありながらモダンな精神を反映している。
これまでデイデイトやコスモグラフデイトナといったモデルにしか採用されてこなかったアイスブルーの文字盤が特別感を与えている。3時、9時、12時位置に配されたアラビア数字インデックスとファセットを施したホワイトゴールド製のアワーインデックスが、両刃の剣のような形の分針とブレゲスタイルのエレガントな時針とともに見事な調和を生み出している。こうした新旧の絶妙な融合により、本作はクラシカルでありながら時宜にかなった個性を備えたモデルとなった。
タイムレスなケース
この腕時計に採用された直径39mmのプラチナ製ケースは、スリムなシルエットと優れたプロポーションが印象的である。ドームとフルーテッドを組み合わせたベゼルを備え、ポリッシュ仕上げのプラチナの表面が、シンプルでありながらも唯一無二のエレガンスを演出している。重いプラチナで出来ているにもかかわらず、この腕時計はその重さを感じさせない優れた装着感を実現した。これも、ロレックスが誇る最高峰の職人技を物語る特徴のひとつだ。厚さわずか9.5mmのこの腕時計は手首に心地よくフィットすると同時に、50mの防水性を確保するのに十分な堅牢性を備えている。
最先端の時計製造技術

本作の内部では、当コレクション専用に開発された自動巻きムーブメント、キャリバー7140が時を刻む。シリコン製のシロキシ・ヘアスプリングとクロナジー エスケープメントを搭載し、約66時間のパワーリザーブと、日差マイナス2秒/日〜プラス2秒/日以内という、COSC以上の高精度クロノメーターを約束する。サファイアクリスタルを採用したトランスパレントケースバックからは、ロレックスコート・ド・ジュネーブなどの装飾や、肉抜きした18Kゴールド製ローターなどを鑑賞することができる。通常、ロレックスの腕時計はクローズドバックなので、内部機構が見られるのは本作のハイライトと言えよう。

この腕時計が持つラグジュアリーで多様な特徴は、マットブラウンのアリゲーターレザーストラップをもって完成されている。このストラップはグリーンのカーフレザーで内張りされ、プラチナ製の二重折り畳み式のデュアルクラスプを備え、快適な着用感とフィット感を提供する。

高い職人技の証左
ロレックス パーペチュアル 1908のプラチナモデルは、腕時計作りの豊かな伝統へのオマージュなのである。エレガントなデザイン、精巧な職人技、最高品質の素材を使用したこの腕時計は、ロレックスが提供するクラシックウォッチの今後のベンチマークとなることだろう。本作は、ロレックスがブランドの伝統を守りながら、腕時計製造の未来を創出する姿勢を体現している。

パーペチュアル 1908のプラチナモデルは、素晴らしいの一言である。ロレックスがスポーツウォッチ専門の腕時計ブランドであるというイメージは捨てた方が良い。洗練されたクラシックウォッチである本作は、ロレックスにおけるクラシカルな腕時計を現代風に解釈した腕時計だからだ。
463万5400円という価格は、最上級のクラシックウォッチと主張するにはややインパクトに欠けるが、ブランドの代名詞であるプロフェッショナルウォッチの代わりではなく、ロレックスのエレガントな側面を備えた選択肢となることは明白である。卓越した職人技とロレックスの信頼性を兼ね備え、ギヨシェ彫りの文字盤が魅力的な腕時計。パーペチュアル 1908のコレクションが今後、どのような展開を見せるか、どのような傑作が派生するか、楽しみでならない。




