ルイ・ヴィトンが展開するフレグランスのビスポーク、「オート・パフューマリー」。顧客は同メゾンのマスター・パフューマーの南仏にあるアトリエを訪ね、調香師とともに自身の物語をたどり、調香師と話し合いながら、自分だけの香りを探していく。そんな贅沢な旅に思いを巡らす時間のお供として、“男の香り”を指南する麻生綾氏が、暑さが残る季節にぴったりの爽やかなフレグランスを提案する。
Text by Aya Aso
村山千太:写真
Photograph by Senta Murayama
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
世界でたったひとつ、自分だけの香りを求めていざ南仏へ

服も小物も、究極はビスポーク(オーダーメイド)。そしてこの「世界にひとつ」という状況に弱い御仁は少なくないように思う。さて、フレグランスにも究極のビスポークがあるのをご存じだろうか。ルイ・ヴィトンの「オート・パフューマリー」がそれである。
そもそもルイ・ヴィトンは1854年の創業以来、顧客の願いにとことん応えるスペシャルオーダーを伝統としてきた。フレグランスのパーソナライズもその延長線上にあり、ビスポークサービスの開設はごく自然の流れだったのだ。
世界でたったひとつ、自分だけの香りを探す旅は、文字通り南仏のグラースに渡り、メゾンのマスター・パフューマー、ジャック・キャヴァリエ・ベルトリュード氏のアトリエを訪ねるところから始まる。ジャック氏は「ロードゥ イッセイ」など数多の世界的名香を生み出したスター調香師で、2012年に現職に就任。ただ、そんな重鎮であるにもかかわらず、ご本人は至って気さくなエスプリに富んだナイスパーソン。究極にパーソナルなフレグランスづくりは、まずはそんな彼に自分の物語を開陳するところから始まる。
どんな幼少期だったのか、記憶に残る一番の思い出は何か……などなど。それは単に好きな香りの傾向を伝えるといった表層的な会話ではなく、その人の人生の軌跡をたどる伝記づくりに等しい作業かもしれない。そんなロングインタビューを経て、ジャック氏がいくつかのサンプルを調香。それらをもとに意見を交わし、香りがさらに研ぎ澄まされていくのだが、時を同じくして製作されるのがフレグランスを収める専用のトランクである。双方の完成まで約9カ月、ときには1年かかることも。参考価格は2500万円~。この価格を100mlボトル10本、100ml用のトラベルケース1個、トラベルスプレー1個、7.5ml用のトラベルスプレーレフィル16本、プラス、専用トランクの代金として高いと思うのか安いと思うのかは個々人の感覚だと思うが、何よりこの“伝記”が出来上がるまでの心躍る最高にラグジュアリーな体験、物語こそが“価値”ではないだろうか。
ちなみに完成した香りのレシピはルイ・ヴィトンに半永久的に保存され、追加オーダーも可能。例えば何かの記念日なりパーティーなりで、引き出物としてゲストに配ることもできる。
話に熱がこもってきたところで、リフレッシュメントとして写真のアイスティーを思わせる爽やかな香りの「イマジナシオン」をどうぞ。まずはこちらを嗜みながら、何もかもがエクストリームな南仏への旅に思いを馳せてほしい。



