銀座 虎あら(銀座)/この世ならぬ美味のクリエイター

2026.01.03

鰻の老舗料亭や日本屈指の茶懐石でじっくりと研鑽を積んだ物江英明氏が独立。慎ましくもグッと心をつかむような料理の数々で食通たちを魅了する。

鰻の押し鮨

鰻の押し鮨
厳選した鰻を炭火で白焼きにしてから山椒とともに二日ほど丁寧に炊き、魚沼産のコシヒカリのもっちりとした豊かな口当たりを活かしてシンプルに白酢のみで仕上げた酢飯を合わせている。物江氏いわく「蒲焼きはそれ自体で完成しているので、炊いた鰻をご飯と合わせることで日本料理として成立します」。一皿で供されることもあれば、八寸に盛り込まれることも。
外川ゆい:取材・文
Text by Yui Togawa
三田村優:写真
Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]


奥ゆかしくも記憶に刻まれる

物江英明

物江英明(Hideaki Monoe)
1979年、新潟県生まれ。高校卒業後、地元の老舗「料亭 一〆」で5年半研鑽を積む。上京し、「宗家 源 吉兆庵」銀座本店内の日本料理(現在閉店)の副料理長を経て、2代目料理長に就任。38歳で京都の「未在」にて茶懐石の世界に8年。2025年6月、「銀座 虎あら」を開業。

 鰻は、料理人・物江英明氏を象徴する食材だ。最初に門を叩いた地元・新潟にある老舗の「料亭 一〆(いちしめ)」が鰻の専門店だった。「まだ魚も触ったことがないのに、最初に覚えなくてはいけないのが鰻を裂くことでした。当時70歳を超えていたおやっさん(三代目の小島昌三氏)の下で修業させてもらい、徐々に自信がついてきたころのこと。隣に並んで黙々と仕事をしながら、自分の中で勝手に競争を始めたわけですよ。おやっさんより速く正確にさばくぞと。もちろん勝てなかったんですが、終わった時に『まだまだお前には負けないぞ』って。気付かれていたんですよね。その言葉は今でも鮮明に覚えています」。

 その後、「宗家 源 吉兆庵」銀座本店の日本料理の料理長を務めるのだが、やはり現場が好きという思いから、京都の茶懐石「未在」へ。8年の歳月を過ごし、主人である石原仁司氏より“おもてなしの神髄”を学んだと振り返る。物江氏は「銀座 虎あら」を開業したことはこれまでお世話になった方々への恩返しだと言い、今後の展望を尋ねると「お客様とともに進化し、お店づくりをしていきたい」と語る。そんな大切な方々を思いやる気持ちが根底にあるからだろうか。物江氏が生み出す料理は、凛とした姿にうっとりとさせられ、口へと運べば、心がじわりと潤うような感覚に。

 料理人が集大成として独立を果たす際、多くが自身の名を使う。物江という品格漂う苗字は「住職だった祖父が和尚さんから名付けられたもので、家族以外同じ苗字の方には会ったことがないです」という稀少な名。ならば「銀座 もの江」などと命名するのがいいのでは?などと勝手に考えてしまうが、そこをあえて「銀座 虎あら」、読み方もトラアラではなくコアラという愛らしい名を選ぶところにも物江氏の人柄が表れている。「茶懐石と聞くと構えてしまうかもしれませんが、作法にとらわれず思いのままお楽しみいただきたく」という想いからだ。食後に供されるお菓子は虎巻き。お客様ひとりひとりにお茶を点てるのだが、すべての抹茶碗にそれぞれ趣の異なる虎がデザインされている。そんなさりげない遊び心にも思わず笑みがこぼれてしまう。

銀座 虎あら(ぎんざ こあら)

銀座 虎あら

目の前で職人技を堪能できるカウンター席は9席。他に4名まで利用可能な個室も用意される。店名に冠した「虎」は縁起の良い意味合いを持つため、お祝いの席にも最適な一軒だろう。

東京都中央区銀座8-7-7 JUNO銀座誠和ビル3F
Tel.03-6263-8873
日曜・祝日定休+不定休
12:00~、18:00~、20:30~ ※一斉スタート
季節のおまかせ2万8000円(サービス料10%別)


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