4月にジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダーズではあえて発表しなかった最新作「フリーク X ゴールド エナメル」を携えて、ユリス・ナルダンを率いるソーウインドグループCEOのパトリック・プルニエが来日した。今回の新作で採用した、ギヨシェ彫りとエナメルを組み合わせたフランケエナメルに代表されるメティエダールの技法を今後、「フリーク」以外のコレクションにも積極的に活用していくことはあるのか?
Photograph by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
革新と伝統を巧みに組み合わせたコレクション戦略

ソーウインドグループCEO。1972年、フランス生まれ。アルコール飲料の会社からキャリアをスタート。その後、LVMHグループ各社で要職を歴任。2014年、Apple Watchの起ち上げに携わる。2017年にユリス・ナルダンのCEOに就任。2018年からはジラール・ペルゴのCEOも兼任する。2022年1月より、ケリング・グループから独立したソーウインドグループのCEOを務める。
「ユリス・ナルダンでエナメルを使用しているコレクションとしてはクラシコやマリーンなどがあります。ダイバーなど、今のところスポーツラインではまだエナメルを使ってはいないのですが、基準としてどのラインだけとは決めてはいません。ユリス・ナルダン傘下のドンツェ・カドランはエナメルで有名ですが、エナメルといっても、クロワゾネやシャンルベなど、技法はいろいろあります。シャンルベはまだフリークでは使用していません。シャンルベを採用したのはこれまででクラシコだけですね」
近年、特にフリークに注力しているが、今後、ユリス・ナルダンの柱となるコレクションは何か?

「フリーク」らしく、文字盤全体を回転させて時刻を表示するフライングカルーセルを踏襲しつつも、3時位置にリュウズを設け、操作性も改善した「フリーク X」。その最新作は、回転するアワーディスクにギヨシェ彫りを施し、その上に深いブルーエナメルを焼成した個性派である。自動巻き(Cal.UN-230)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRG×Tiケース(直径43mm、厚さ13.38mm)。50m防水。世界限定120本。766万7000円(税込み)。
「今のコレクションは、大きく歴史的なコレクションと革新的かつコンテンポラリーなコレクションの2軸で構成されています。前者の代表がマリーンで、後者の筆頭がフリーク。そして、フリークに次ぐ革新的なコレクションがブラストです。昔のダイバーは歴史寄りだったのですが、今はコンテンポラリー寄りに変わってきています。グループ化すると今のダイバーを含め、ダイバー、ブラスト、フリークが革新性を追求した現代的なコレクションです。一方で、ブランドには基本的なコレクションが必要です。そのベースとなるのが歴史的なコレクションであるマリーンに当たるわけです。とはいえ、コンテンポラリーなコレクションで使われている革新的な技術、例えばシリコンパーツなどは、マリーンでも使われています。つまり、歴史的なコレクションをベースにするといっても、このふたつの軸のコレクションは互いに影響を与え合い、共存し合っていくからこそ、ワンブランドとしての力強さを生み出していくのです」
昨年発表した「フリーク S ノマド」ではアワーディスクにローズエンジン旋盤によるギヨシェ彫りを施し、今年の最新作「フリーク X ゴールド エナメル」では、アワーディスクにギヨシェ彫りとエナメルを組み合わせたフランケエナメルを採用したユリス・ナルダン。近年、フリークを主軸として、革新と伝統を巧みに組み合わせてきた商品展開の背景には、これほど明確なブランドのコレクション戦略があったのだ。



