今年創業270周年を迎えたヴァシュロン・コンスタンタン。その周年を記念した展覧会のために来日したサンドリン・ドンガイに、ジュネーブで発表された周年記念モデルの醍醐味を聞いた。
Photograph by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
270周年を迎えたメゾンを象徴する新シグネチャー

ヴァシュロン・コンスタンタン プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクター。フランス生まれ。グルノーブル エコール デ マネジメント(GEM)卒業。香水メーカーを経て、ボーム&メルシエに入社。マネジメントとコミュニケーションのディレクターを務めた後、ヴァシュロン・コンスタンタンに転籍し、プロダクトとマーケティングのディレクターに就任。2022年より、それらに加えてメティエ・ダール部門も統括し、プロダクトに精通する。
「トラディショナル・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダーが特に印象的ですね。これは2018年発表のペリフェラルローター式自動巻きトゥールビヨンのキャリバー2160をベースに今回、永久カレンダーを追加した新キャリバー2162 QP/270を搭載しています。文字盤側に永久カレンダーモジュールを搭載しながらもムーブメントの厚さは6.55mmとかなり薄くできました。加えて、文字盤にはマルタ十字と幾何学模様の特徴的なパターンを施しています。これは270周年記念モデルに共通したデザインコードとして新たに考案したものです。さらに、ムーブメントにはコート・ユニーク仕上げを見ることができます。これも周年記念モデル共通です」
まさに、ヴァシュロン・コンスタンタンの現代性や新しいテーマ、ムーブメントの小型化、そして古典的な審美性とのバランスの良さを象徴的に表現した新作だと、ドンガイは明言する。
「マルタ十字をモチーフとした文字盤の意匠は、20年以上働いているインハウスのデザイナーが考案したものです。文字盤の7時から8時の間にマルタ十字を配し、そのマルタ十字を起点として幾何学的なパターンが展開されるのですが、その際、文字盤にどのように“光”を取り込むかも考えて、さまざまなパターンを提案。その後、メティエ・ダール工房のギヨシェ職人がその提案を試しに彫ってみて、どのパターンが最適かを決めました。つまり、デザイナーとギヨシェ職人とのコラボレーションと言えます。もともとヴァシュロン・コンスタンタンは1880年から、このマルタ十字をモチーフとして、文字盤やリュウズなど、さまざまな場面において〝遊び心〞を加えながら、採用してきた歴史があります」

トゥールビヨンと永久カレンダーを搭載した、270周年記念モデル。ムーブメントは、2005年発表の250周年記念モデル「サン・ジェルヴェ」をオマージュした新設計。そのベースは18年登場のペリフェラルローター式自動巻きのCal.2160で、さらなる薄型化が図られた。自動巻き(Cal.2162 QP/270)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径42mm、厚さ11.1mm)。3気圧防水。世界限定127本。4620万円(税込み)。
もうひとつの共通コードであるコート・ユニークは、1世紀以上も前に同メゾンで生み出されたものを、2021年に「アメリカン 1921」100周年を記念し、オリジナルを復刻させた際によみがえらせた仕上げだ。それを周年記念モデルにも使用したのはなぜか?
「実は、その復刻の際に、数年後に控えた270周年記念のために、何か特徴的なものがあればいいなと思っており、このコート・ユニークこそ、周年記念の特別な限定モデルにふさわしいと考えました」
結果、ジュネーブにも関連があり、ブランドの過去とのつながりのあるシグネチャーとして、メゾンの新たな象徴となった。



