ローラン・フェリエに新しくCEOが就任したという。名前はフローラン・ペリション。前職はチェルッティのCEO(!)というから、どう見てもラグジュアリー畑の人材で、ニッチなこのブランドとは合いそうもない。なぜ彼はローラン・フェリエに加わったのか?
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
ブランドは人よりも強くなければならない

ローラン・フェリエCEO。パリ工科大学で学位を取得後、文字盤メーカーのスターンで時計業界におけるキャリアをスタートさせる。後に各国のタグ・ホイヤーやデビアスでディレクターとして6年間勤務。その後、服飾メーカーのチェルッティでCEOを務め、ブランドの再建を果たした。ローラン・フェリエでは2013年から取締役を務め、25年1月より現職。
「いや、最初に勤めたのは文字盤会社のスターンだったんだ。リシュモン グループが買収する前のね。当時はオーデマ ピゲやロレックスに文字盤を供給していた。その後、タグ・ホイヤーに入社し、LVMHグループによる買収後にコマーシャルディレクターとなり、その後はデビアスに勤めた。前職はチェルッティのCEOだった」。ペリションに時計のバックグラウンドがあることは分かった。しかし、なぜローラン・フェリエだったのか?
「創業者のローラン・フェリエとフランソワ・セルヴァナンには2012年に会い、それから社外取締役を務めていたよ。それで今の職になった。彼らも80歳近いから、若い血を入れたかったんじゃないかな? 一応私は、彼らより若いからね(笑)」
現在、ローラン・フェリエはかなり順調だ。では、何を変えたいと思うのか?
「今の良い状態を続けたいね。そして安定した成長とファミリービジネスの感じを残すことが大事だね。私たちは独立しているし、過剰に利益を求めてはいない。デザインや複雑機構によって、価値を顧客に伝えたいんだ。でも、大きな変化は期待しないでほしいね。今や私たちには40人のスタッフと、35のリテーラーがいるからね」

モダンクラシックを標榜するローラン・フェリエの新作は、自然に触発されたホライゾンブルーを文字盤にあしらったもの。極端に切り詰めたデザインは、CEOのフローラン・ペリションの言う「簡潔さの力」を体現するが、近年のローラン・フェリエらしく、水平にカットしたデイト窓など、ユニークさが盛り込まれた。自動巻き(Cal.LF270.01)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.94mm)。3気圧防水。ピンバックル仕様:841万5000円(税込み)。フォールディングクラスプ仕様:869万円(税込み)。
では、今の時計市場をどう生き残っていくのか?
「現状は怖くない。というのも、私たちはまだ中国では展開していないからだ。中国はもちろんすごいマーケットだし、可能性はあるので将来は参入する。ただし、まだだ。将来に関しては100%ポジティブに考えている。私はラグジュアリーのビジネスに携わり、いろんな状況を見たし、いろんな国も回った。ローラン・フェリエのユニークさは他にはないものだよ」
今後の継続性はどうしていくのか? ローラン・フェリエ自身はすでに80歳近い。
「私たちのスタイルは出来上がったし、そもそもすべてのマーケットを喜ばせる必要はない。私たちの強みは簡潔さにあると思っている。一部の時計メーカーはリシャール・ミルを追いかけているがそれは愚かだ。ローランは78歳でまだまだ活躍している。でも同時にDNAコードを残さないといけないと思っているよ。ブランドはね、人より強くないといけないんだよ。そのためにやることは、スタッフに『ワクチン』を打つことだ」



