ブレゲ創業250周年を飾るハイライト、ブラッシュアップされた「クラシック 7235」「クラシック 7225」

2025.12.08

2025年の時計業界で、最も話題となっているブランドは間違いなくブレゲである。「クラシック スースクリプション 2025」を皮切りに発表される数々の創業250周年限定モデルは、良い意味で私たちの想像を超えてきた。そこに追加されたのは、デザインを強く打ち出した「クラシック 7235」と、超精密時計の伝統を忠実に受け継いだ「クラシック 7225」だ。「過去の焼き直しはしない」とCEOのグレゴリー・キスリングが語った通り、いずれのモデルもブレゲの傑作に範を取りつつも、今の高級腕時計として、高度にブラッシュアップされたものだ。

奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuzo Takeishi, Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]


完成度とまとまりを突き詰めた「クラシック 7235」

クラシック 7235

ブレゲ「クラシック 7235」
ブレゲ・スタイルを完成させた、1794年販売の懐中時計「No.5」を腕時計に仕立て直した新作。基本的なデザインは「クラシック 7137」を踏襲するがディテールはさらに詰められた。文字盤中央にはケ・ド・ロルロージュ模様のギヨシェ彫りが施される。猫足状のラグなどがもたらす装着感も秀逸だ。自動巻き(Cal.502.3.DRL)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18Kブレゲゴールドケース(直径39mm、厚さ9.9mm)。3気圧防水。世界限定250本。1094万5000円(税込み)。

 瞠目するような新作群で愛好家を驚かせてきた創業250周年のブレゲ。記念すべき年にふさわしく、いずれも過去の遺産を昇華させたモデルばかりだ。同社が、7作目の記念モデルとして発表したのが「クラシック 7235」である。デザインのモチーフは、1794年に販売された懐中時計の「No.5」。副社長のエマニュエル・ブレゲは「ブレゲが文字盤に初めてギヨシェを採用したのがNo.5」と説明する。その経緯もあってショーメ兄弟の下で再興を果たす際に、ブレゲはまず、No.5の腕時計版であるRef.3130をリリースした。本作はたちまち同社のアイコンとなり、トランスパレントバックの3137、そして直径を39mmに改めた7137へと進化を遂げた。

Cal.502.3.DRL

Cal.502.3.DRL
ムーブメントの基本構成は、1980年代のRef.3130に同じ。これは当時ブレゲに在籍していたダニエル・ロートによる付加機構を、フレデリック・ピゲ製の薄型自動巻きである71に重ねた傑作だった。基本設計こそRef.3130と変わっていないが、最新作には耐磁性の高いシリコン製のヒゲゼンマイが採用されたほか、ブレゲが工房を構えたケ・ド・ロルロージュ界隈の様子が、手彫りの「テュルゴー地図」で施されている。

 この7137を受け継いだのが、創業250周年を寿ぐ本作だ。意匠は7137を受け継いでいるが、6時位置の日付表示が省かれ、代わりにオフセットされたスモールセコンドが設けられた。またケースの造形も「クラシック スースクリプション 2025」に同じく、猫足状のラグを持つエンパイアスタイルに改められた。このモデルで見るべきは、詰められたディテールだ。ケース素材に合わせて、文字盤もブレゲゴールドに、ムーブメントの地板と受けも同色となった。

 加えて、ギヨシェを施した文字盤も、わずかに傾斜を付け(!)、外周を0.4mm薄くすることで、立体感を強調し、見返しの高さを抑えた。往年のNo.5に見られる狭い見返しこそが、ブレゲの個性のひとつと思えば、これも原点回帰の表れだ。また、ケース側面にストレートエンジンのギヨシェ機械で施されたケ・ド・ロルロージュ模様も、250年もの歴史と本作の立体感を強調する。外装にもかかわらずギヨシェの角が残っているのは、おそらくバフをほとんどかけていないため。ブレゲは文字盤同様の緻密な立体感を外装にも求めたわけだ。

No.5

クラシック 7235のモチーフとなった、1794年3月14日に販売された「No.5」。
クラシック 7235

シークレットサインが施された文字盤は、ケースに同じくブレゲゴールド製。中心に対して外周の厚みを0.4mm減らすことで、見返しの高さを巧みに抑えた。ムーンフェイズのデザインはNo.5に倣ったものだ。

 老舗の力量を感じさせるのは、腕時計としての巧みなパッケージングだ。ストラップに採用されたのは、今までに同じく、竹斑模様のアリゲーター。しかし、豪奢にも丸斑のアリゲーターが裏側に張り込まれたほか、芯地を薄くすることで、かつてない曲がりの良さを得た。今までのブレゲが装着感に無頓着だった、とは言わないが、本作と後に紹介する7225の着け心地の良さは、従来のモデルとは一線を画したものだ。パッケージングのうまさは、「色」にも見て取れる。インデックスやロゴなどに採用されたのは、ムーンディスクや針、そしてストラップに合わせた濃いブルーだ。これだけ細ければ、印字はブラックでも問題なさそうだが、色を揃えることで、時計としての統一感をいっそう詰めている。しかし、あのブレゲが、しかも創業250周年という記念すべきモデルで色を変えるとは、誰が予想しただろう?

 ブレゲの歴史を踏まえつつも、今の腕時計としての完成度とまとまりを突き詰めたクラシック 7235。次は、ブレゲならではの機構、つまりはトゥールビヨンを換骨奪胎した現代のギャルド・タン、つまり超精密時計に触れることにしよう。

クラシック 7235

ケース側面には、ケ・ド・ロルロージュ模様のギヨシェ彫りが施される。切り立ったエッジはギヨシェならでは。
クラシック 7235

創業250周年モデルにふさわしく、裏蓋のサファイアクリスタルにはレーザーエッチングでシークレットサインが刻まれる。


歴史的なアイコンを仕立て直した「クラシック 7225」

 時計の心臓部に当たる脱進調速機を強制的に回転させるトゥールビヨン。言うまでもないが、発明したのはブレゲの創業者である稀代の時計師アブラアン-ルイ・ブレゲだ。彼はこの機構が重力の影響をキャンセルできること、そして脱進調速機の油切れが起こりにくいという利点を謳ったが、製作が極め付きに困難だったことは否めない。ブレゲ本人が手掛けたトゥールビヨンは、わずか35個に過ぎなかった。

クラシック 7225

ブレゲ「クラシック 7225」
1809年のNo.1176をベースとした新作。2時位置にスモールセコンド、6時位置にパワーリザーブ表示、10時位置に計測用のフライバック式スモールセコンドが配されるほか、21世紀のトゥールビヨンと言うべきマグネティック・ピボットが採用された。新規格のブレゲ・シールにより日差±1秒以内が保証される。手巻き(Cal.74SC)。54石。7万2000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18Kブレゲゴールドケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。1261万7000円(税込み)。

 このトゥールビヨンを搭載したモデルのひとつが、1809年のギャルド・タン(超精密時計)こと、No.1176である。購入したのはポーランドのスタニスワフ・コストカ・ポトツキ伯爵。ナポレオンの下でポーランドの教育制度を整備した彼が、ブレゲの、しかも精密時計を手にしたのは納得がいく。

 2025年に創業250周年を迎えたブレゲは、この歴史的なアイコンを腕時計の「クラシック 7225」に仕立て直した。しかし搭載したのはトゥールビヨンではなく、「21世紀のトゥールビヨン」と言うべきマグネティック・ピボットだ。磁石を使い、天真を一方向から保持することで、マグネティック・ピボットを載せたムーブメントは、ほとんど姿勢差誤差が生じない。同社は2013年の「クラシック 7727」にこの機構を搭載し、ブラッシュアップした上で7225に採用した。

Cal.74SC

Cal.74SC
ギャルド・タンの精神を今に蘇らせたムーブメント。搭載するマグネティック・ピボットは、天真の上下を残留磁束密度約1.3テスラのマイクロマグネットで保持することで、テンプにかかる重力の影響をキャンセルするもの。7万2000振動/ 時という高振動と合わせて、日差±1秒以内という高精度を実現した。また、簡易式の60秒フライバック秒針を備えるほか、受けには現在のロリエント工房が彫金で描かれる。

 ブレゲでシリコン製ヒゲゼンマイとマグネティック・ピボットの開発を手掛けた役員はこう語る。「前作との違いは磁石ですね。中心に磁束が集まるように改良することで、姿勢差誤差はいっそう減りました。また、生産性も改善していますよ」。あくまで参考だが、と前置きしたうえで、彼はクラシック 7225の精度を教えてくれた。「テンプの振り角は全姿勢で270度から290度。そして精度は±1秒以内(実際はもっと良い)ですね」。ブレゲは超精密時計であるギャルド・タンを、見た目だけでなく、その精神とともに復活させたわけだ。

No.1176

本作のモチーフとなったのが、1809年に発売されたNo.1176である。4分間トゥールビヨンを搭載した最初の4本のうちの1本であり、さらにフュゼとナチュラル脱進機を備えていた。
クラシック 7225

「クラシック 7225」から採用されたのが、精度と仕上げの新規格であるブレゲ・シールだ。その模様は、往年の箱に刻まれた紋章によったもの。精度に加えて、耐磁性も保証する規格は極めて珍しい。

 これに伴い、ブレゲは、ブレゲ・シールという規格も設けた。まだ全容は明らかでないが、役員はその一部を開示してくれた。曰く、高精度な「サイエンティフィック」は日差が±1秒以内、民生用の「シビリアン」が±2秒以内、そしてドレスウォッチの「イブニング」がマイナス2秒からプラス6秒以内。加えて、ブレゲ・シールを取得したモデルは最低600ガウス、つまり4万8000A/mもの耐磁性能が保証されるという。「もともとはハイエック・シニアのアイデアだったんですよ。ジュネーブ・シールを取ろうという案もありましたが、私たちのルーツに帰ろうということで、今のCEOであるグレゴリー・キスリングの下、正確さと装飾に関する独自の規格を考案し、発表しました」。彼が装飾の一例として挙げたのはネジである。「ブレゲ・シールの規格では、ネジの溝にすり割り(斜面)を入れるようになりました」。

 ブレゲ・シールという野心的な新規格とともに、21世紀のギャルド・タンを高らかに謳い上げたクラシック 7225。ブレゲの引き出しの深さ、そして圧倒的な底力には、ただただ感服だ。

クラシック 7225

創業250周年モデルならではの遊び心。本作のシリコン製脱進機は、回転するとアニメーションのように1775と2025という数字を表示する。
クラシック 7225

再び日の目を見たマグネティック・ピボット。テンワの慣性モーメントが2.5mg・㎠と小さいのは、7万2000振動/時という高振動と、天真を磁気で支えるためだ。もっとも姿勢差誤差はほとんどなく、携帯精度も極めて良い。



Contact info:ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


毎時7万2000振動トゥールビヨン! ブレゲの「エクスペリメンタル1」は、機械式のリニアモーターカーだ!

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2025年、ブレゲが発表した創業250周年モデルとは? 「スースクリプション」など全種類を紹介!

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ブレゲ「クラシック トゥールビヨン シデラル 7255」250年の歩みを凝縮した簡潔にして非凡な大作

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