ブランパンのドレスウォッチを代表する「ヴィルレ」。最新作に見るコレクションの進化と真価

2025.12.11

ブランパンのエレガンスを体現するコレクション「ヴィルレ」は、1983年から数年かけて製作された、機械式腕時計復権の象徴となった「シックス・マスターピース」の流れを受け継ぐモデルである。外観は一見変わらないように映るが、最新作では文字盤の造形やローター、ケースに至るまで細部を見直し、静かでありながら印象深い刷新を遂げた。伝統を守りつつ現代へと進化したタイムレスなエレガンスがここにある。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

ヴィルレ コンプリートカレンダー
ゴールデンブラウンの文字盤には、シックなサンレイ仕上げが施されている。ケースと統一したゴールドの時・分・秒針はポリッシュの光沢がきらめき、異なる仕上げによってトーン・オン・トーンでも視認性を損なわない。自動巻き(Cal.6654.4)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ10.6mm)。3気圧防水。452万1000円(税込み)。
柴田充:取材・文
Text by Mitsuru Shibata
岡村昌宏:写真
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]


ディテールの現代的な刷新が静謐な新しさをもたらす

 ヴィルレというモデル名は、2003年に登場した、ブランドのドレスウォッチを代表するコレクションだ。その名は、創業地であるスイスのジュラ山脈に位置するヴィルレに由来する。

 そのスタイルは、クォーツ式の全盛から休眠状態にあったブランパンが機械式時計の復権を掲げて、1983年から数年にわたって開発した伝説のコンプリケーション「シックス・マスターピース」のデザインを継承する。ブランドの誕生と機械式時計の伝統を守るべく再始動を経て、現在に至る軌跡をそこに刻むのである。現在では、ミニッツリピーターやトゥールビヨン、パーペチュアルカレンダーといったコンプリケーションから、手巻き2針といったシンプルなモデルまで充実したコレクションをそろえる。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

ムーンフェイズのディスクは、セラミックスにゴールドの月を組み合わせ、立体感を演出している。

 本稿で取り上げる「ヴィルレ コンプリートカレンダー」をはじめ、「ヴィルレ ウルトラスリム」と「ヴィルレ デイト ムーンフェイズ」の計3型が今回新作として発表された。ケースサイズは、直径40mmと直径33.2mmで現行モデルと変わらず、搭載するムーブメントも継続になる。一見したところ、外観の印象も大きくは変わらないが、細部を見ていけばその違いは歴然だ。

 コレクションのシンボルであるケースのダブルステップ・ベゼルは、よりスリムになり、控えめながらもエレガントな洗練を増した。ラグのシェイプは力強さとストラップへのラインを強調し、モデルによっては大型化したリュウズは、実用性も向上している。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

12時位置にはJBロゴを掲げ、ゴールドのアプライドインデックスは、クラシックなセリフ体からモダンなサンセリフ体に変更された。インデックスはサテン仕上げの表面に、ポリッシュで面取りが施されたもの。

 文字盤でまず目を引くのは、ローマ数字に代わり、12時位置に掲げられた創業者ジャン=ジャック・ブランパンのイニシャル、「JB」のロゴ。これまで秒針のカウンターウェイトには用いられてきたが、インデックスへの採用はブランドでも初の仕様になる。他のローマ数字は、従来のセリフ体からファセット仕上げのサンセリフ体に変わり、シャープな印象を与える。それに合わせて、時分針もこれまでのリーフ型からドーフィン型になり、スケルトン仕様からスーパールミノバ仕様に変更。これもドレスウォッチでは珍しい実用的な仕様だ。

 そして注目すべきは、愛嬌ある月の顔でファンの多いムーンフェイズ表示だ。ネイビーセラミックスのディスクにサテン仕上げのゴールドの月を別体で備え、従来のプレートからレリーフになり、上質感が漂う。また、ユニークなサーペント針のカーブとも美しく調和している。

Cal.6654.4

搭載するCal.6654.4には、JBロゴのオープンワークを施した新たなローターが設けられている。1983年に発表された当時最小のコンプリートカレンダームーンフェイズのCal.6395を起点として発展した系譜にあり、現行のCal.6654.4は単一の香箱で、約72時間の駆動時間を誇るというもの。ラグ裏にはカレンダー表示が容易に調整できるアンダーラグコレクターを備える。

 文字盤はサンレイ仕上げのゴールデンブラウンと、グレイン仕上げのオパリンがあり、それぞれの個性を演出している。ブランドのメティエダール部門のチームが担当し、装飾技法とノウハウが存分に注がれた結果だ。

 ヴィルレ コンプリートカレンダーはコレクションを代表するモデルである。初代が懐中時計のスタイルをモチーフにしたのに対し、新作は腕時計としてよりモダンに魅力を研ぎ澄ませたと言えるだろう。変わることなく変わっていく。そんなタイムレスエレガンスが伝わる。

 ブランパンは2025年に創業290周年を迎えた。それを声高に語ることはなく、世界最古級の時計ブランドにとっては、それも節目に過ぎないという見解からだろう。だがその矜恃はヴィルレの新作に息づいている。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

ヴィルレ コンプリートカレンダー
細かなグレイン仕上げを施したオパリンの文字盤は、柔らかなオフホワイトの美しさが際立つ。人気の高い実用的な機構に手の届きやすいベーシックなSSケースをそろえるところに、ブランドの誠実さが伝わる。自動巻き(Cal.6654.4)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.6mm)。3気圧防水。256万3000円(税込み)。



Contact info:ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233


「ヴィルレ」から見る、ブランパンの非凡なドレスウォッチ

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ブランパン/ヴィルレ Part.1

正統な系譜に裏付けされたブランパン「ヴィルレ」コレクションを探求する

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