ブランパンの傑作ドレスウォッチ「ヴィルレ」の新境地

FEATUREその他
2025.12.19

ひと頃の“ラグスポ”ウォッチブームは落ち着き、代わって名門ブランドの手掛けるドレスウォッチの人気が高まっていることはご承知だろう。中でも好事家たちの間で、改めて熱く注目されているのが、現存する最古の時計ブランドと称されるブランパンが大切に作り続けてきた「ヴィルレ」だ。そんなヴィルレの人気モデル「ヴィルレ コンプリートカレンダー」と「ヴィルレ ウルトラスリム」から、久々に新作が登場した。伝統のデザインコードを踏襲しつつ、随所を細やかにブラッシュアップしたことで、モダンな色気もたたえている。傑作コレクション、ヴィルレのプロフィールを今一度振り返りつつ、新作の見どころを解説しよう。

ブランパン「ヴィルレ」

岡村昌宏:写真
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
吉田巌:編集・文
Edited & Text by Iwao Yoshida
[2025年12月19日公開記事]


卓越した技術と純粋なスタイルを受け継ぐ伝統のコレクション

 2025年に創業290周年を迎えた、現存する最古の時計ブランドと称されるブランパン。現在、スイスのル・ブラッシュとル・サンティエに製造拠点を持つが、始まりはジュラ山脈にある小さな村、ヴィルレだ。

 その創業地の名を冠するだけに、「ヴィルレ」は単なるドレスウォッチではなく、メゾンの輝かしい歴史が凝縮されたコレクションだ。名称自体の使用は2003年からだが、コレクションのルーツはブランパンが1983年から1989年にかけて発表した6つのコンプリケーションウォッチにある。すなわち、1983年のムーンフェイズ付きの「コンプリートカレンダー」、1984年の「ウルトラスリム」、1985年の「パーペチュアルカレンダー」と「ミニッツリピーター」、1989年の「スプリットセコンドクロノグラフ」と「フライングトゥールビヨン」の6本だ(なお1991年には6つの機能を集約した「グランド・コンプリケーション」Ref.1735も発売)。

 時計界をクォーツウォッチが席巻する最中に登場したこれらは、「シックス・マスターピース」と呼ばれ、当時休眠状態にあった名門ブランパンの復興を強力に後押ししただけでなく、機械式時計復権の嚆矢(こうし)となったことでも知られる。

1983年から1989年の間に、ブランパンは写真の6つの傑作時計(左上から時計回りに「ウルトラスリム」「コンプリートカレンダー」「フライトングトゥールビヨン」「ミニッツリピーター」「スプリットセコンドクロノグラフ」「パーペチュアルカレンダー」)をリリースし、時計業界に大きな衝撃を与えた。ヴィルレのルーツはこの「シックス・マスターピース」である。

 ヴィルレの美しく優雅なスタイルは、このシックス・マスターピースで確立されたものだ。

 薄くてコンパクトなラウンドケースはもちろん、柔らかな丸みを帯びたダブルステップベゼル、セージを切り取ったような時分針などの特徴は、40年以上変わらないことになる。もっとも、ブランパンの看板ドレスウォッチにふさわしく、メカニズムやディテールは時代に合わせて進化を遂げてきた。だからこそヴィルレは常に審美眼ある人たちの心を捉えてきたのだ。

 新作も、傑作ドレスウォッチを次世代に確実に継承するために、随所が細やかにブラッシュアップされた。結果、クラシカルな気品や格調高さはそのままに、どこかモダンな色気さえ漂う。この計算された進化は、目の肥えた時計好きほどたまらないはずだ。以下では刷新されたポイントを深掘りしてみる。


古典的なフルカレンダーモデルに時代が求める審美性をプラス

 ヴィルレコレクションの中で、特に高い人気を博すのが、「ヴィルレ コンプリートカレンダー」だ。基本デザインと機能は、1983年に発表されたシックス・マスターピースの第1作に準じ、日付、曜日、月のトリプルカレンダーに加え、ムーンフェイズ表示を備えている。

ブランパン「ヴィルレ」

1983年に発表された、月・日・曜日のフルカレンダーにムーンフェイズ表示を合わせたコンプリートカレンダーモデル。これぞシックス・マスターピースの第1作である。写真のモデルは1985年製。

 新しいヴィルレ コンプリートカレンダーのケースは、リッチな18KレッドゴールドとSSケースから選択でき、それぞれサンバースト仕上げのゴールデンブラウンダイアルと、柔らかな乳白色のオパリンダイアル(SSモデルはゴールドでアクセントをつけている)を用意。ヴィルレの文字盤はピュアなホワイトを主体に展開してきたせいか、どちらもぐっと新鮮な印象だ。ヴィンテージな風格を高めつつ、どこかモダンさも感じさせる絶妙なカラーチョイスと言えよう。

 ブランパン ヴィルレ
 ブランパン ヴィルレ
 ブランパン ヴィルレ
 ブランパン ヴィルレ
ブランパン「ヴィルレ コンプリートカレンダー」
ヴィルレの看板モデルとも言えるコンプリートカレンダーの新作。自動き(Cal.6654.4)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGまたはSSケース(ともに直径40mm、厚さ10.6mm)。3気圧防水。18KRGモデル:各452万1000円、SSモデル:各256万3000円(いずれも税込み)。

 ハイライトであるムーンフェイズディスクも、巧みにアップデートがなされた。ぷっくり膨らんだ月と星々はセラミックス製のディスクに18Kゴールドを植字して製造されており、ダイアル面での存在感が一層増している。ブランパンのムーンフェイズ表示は天体を擬人化した先人たちへの敬意から、伝統的に月に顔を描くが、その表情もより立体的に表現された。おなじみの“流し目”のチャームポイントも、より印象的に見える。

ブランパン「ヴィルレ」

ムーンフェイズ表示のセラミックス製ディスクには、18Kゴールド製の月と星が配されている。ディスク周りの文字盤開口部は、しっかりと面取りされている。

 ヴィルレの特徴であるセージの葉をかたどった時分針もアップデートされた。新作ではよりシャープなデザインに造形され、前作ではスケルトンとしていた中央部にスーパールミノバをインサート。夜間での視認性が高められた。

ブランパン「ヴィルレ」

蓄光塗料が塗布されたという違いはあれど、美しく仕上げられた針は健在だ。

 18Kゴールド製のローマ数字インデックスも大きく改められている。12時位置は「Ⅻ」ではなく、創業者ジャン=ジャック・ブランパンのイニシャルである「JB」ロゴに変更。各数字の書体も装飾なしのすっきりしたデザインとなった。天面とそこから続く斜面を細かなヘアライン仕上げ、側面をポリッシュ仕上げとしたことで、手首のちょっとした所作により、今まで以上にキラキラと光を放つ。

細かな変更だが、インデックスの新デザインはモダンな印象をヴィルレにもたらした。

 40mm径のケースは、一見した限りでは前作と変わらないように見えるが、実はダブルステップベゼルがスリムになっている。加えてケース厚も若干抑えられた。前作との違いはわずか0.3mmだが、リュウズが大きく造形されたことで、相対的にケースの薄さが際立つ印象だ。再設計されたラグにより、実際の装着感も向上している。

 搭載するムーブメントは、引き続き自社製のCal.6654.4。コンプリートカレンダー機能を有し、なおかつ約72時間のパワーリザーブを備えながら、厚さ5.32mmに仕立てられた名機だ。ヒゲゼンマイには耐磁性に優れるシリコンを採用している。

ブランパン ヴィルレ

トランスパレントバックから丁寧に装飾されたムーブメントを鑑賞できるのも、ヴィルレの魅力のひとつである。ちなみにラグ裏の、ケースバックと接している突起が、カレンダーを調整するアンダーラグコレクター。

 前作では18Kゴールド製のローターにはギヨシェが施されていたが、新作では大胆なオープンワークがなされ、ムーブメントの隅々まで鑑賞できるようにしたのもうれしいポイントだ

 なお、通常の機械式時計は一定の時間にカレンダーを早送りすると故障につながるが、ヴィルレはいつでも修正可能。しかも本作は2004年に特許を取得したアンダーラグコレクターにより、特別なツールを使わずとも、指で押すだけで簡単にカレンダー調整を操作できる。

ブランパン「ヴィルレ」

右は1985年製のコンプリートカレンダーで、左が最新のヴィルレ コンプリートカレンダー。ケース径が34mmから40mmに拡大され、ディテールも現代的にアップデートされているが、基本デザイン、何よりブランパンらしいクラシカルな気品を忠実に継承していることが分かる。

 1983年にシックス・マスターピースの第1作として登場して以来、ブランパンのアイコンウォッチの座にあり続けてきたコンプリートカレンダーモデル。その美しいデザインを一切崩さず、時代が求める審美性やプロポーション、機能性を与えたのが、最新の「ヴィルレ コンプリートカレンダー」と言えよう。古典的な複雑機構を備えながら、現代らしく袖口を飾り、長きにわたってタイムレスに愛用できるモデルの入手を願う人には、最良の選択となるはずだ。


ピュアな美しさが一層際立つ、新たな「ヴィルレ ウルトラスリム」

 一方、ヴィルレらしさをよりシンプルに堪能したい向きには、やはり新作の「ヴィルレ ウルトラスリム」をおすすめしたい。

 ブランパン ヴィルレ
 ブランパン ヴィルレ
 ブランパン ヴィルレ
 ブランパン ヴィルレ
ブランパン「ヴィルレ ウルトラスリム」
ブランパンを代表するハイエンドなドレスウォッチ「ヴィルレ ウルトラスリム」からも新作が登場。こちらもケースは18KレッドゴールドとSSの2タイプから選べ、それぞれゴールデンブラウン文字盤とオパリン文字盤が用意される。自動き(Cal.1151)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約100時間。18KRGまたはSSケース(ともに直径40mm、厚さ8.7mm)。3気圧防水。18KRGモデル:各341万円、SSモデル:各165万円(いずれも税込み)。

 こちらも先に紹介した「ヴィルレ コンプリートカレンダー」と同じく、ローマ数字インデックスの書体や仕上げが変わり、時分針にはスーパールミノバをインサートするなど、ディテールが刷新されている。もともと簡潔なダイアルのためか、クラシカルなドレスウォッチでありながら、どこかモダンという、再解釈されたヴィルレのデザインコードがより鮮明に感じられる。インデックス12時位置部分の「JB」ロゴもひときわ目立つ。

ブランパン ヴィルレ

小さなパーツまで丁寧に仕上げを施すブランパンの仕事は、インデックスにおいても例外ではない。また、天面と側面で仕上げ分けをすることで、薄いながらも立体感が与えられている。

 搭載するムーブメントはCal.1151。基本設計は1993年で、振動数も毎時2万1600振動と高くないが、今なお第一線級のポテンシャルを備えた自動巻きと好事家が認めるムーブメントだ。直径27.4mm、厚さ3.25mmというコンパクトさにもかかわらず、ダブルバレルにより、約100時間ものパワーリザーブを実現。近年、シリコン製ヒゲゼンマイとフリースプラングテンプが採用されたことで、耐磁性や等時性も向上した。

ヴィルレ コンプリートカレンダーと同じく、トランスパレントバックからムーブメントを鑑賞できる仕様に。また、新作モデルにはストラップにインターチェンジャブル式が採用されたため、工具なしでストラップ交換することができる。

 3針+日付表示のシンプルな構成の薄型ドレスウォッチは、フォーマルなシーンや、クラシックなスーツスタイルに合わせるものと思われがちだが、絶妙にモダンさがプラスされたことで、ヴィルレ ウルトラスリムはより幅広いスタイルに映える1本となっている。別格のオーラたたえるドレスウォッチを日常的に着用したいのなら、絶好のモデルだ。


ブランパンの世界観を体感できる6つのブティック

 フランパンの時計に興味を覚え、伝統と革新が共存する精緻な時計作りについて理解を深めたくなったのなら、ブランパンブティックを訪問するのが一番だ。ブランドの世界観を反映した店内には、本記事で紹介した「ヴィルレ」のみならず、「フィフティ ファゾムス」「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」「エアコマンド」など、主要なコレクションを豊富に取りそろえ、知識と経験を持つスタッフの案内の下、ゆったりと好みのモデルをチェックできる。

 ここでは現在日本国内で展開する6つのブティックを紹介する。

ブランパン ブティック 銀座

住所:〒104-0061
東京都中央区銀座7-9-18 ニコラス・G・ハイエック センター4階
電話番号:03-6254-7233

ブランパン ブティック 大阪心斎橋

住所:〒542-0081
大阪府大阪市中央区南船場3-11-18 Osaka Metro心斎橋ビル1階
電話番号:06-6281-1735

ブランパン ブティック 日本橋三越本店

住所:〒103-8001
東京都中央区室町1-4-1 日本橋三越本店 本館6階 ウォッチギャラリー
電話番号:03-6281-9953

ブランパン ブティック 銀座三越

住所:〒104-0061
東京都中央区銀座4-6-16 銀座三越 新館4階 ウォッチ
電話番号:03-3562-1111(銀座三越大代表)

ブランパン ブティック 伊勢丹新宿店

住所:〒160-0022
東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店 本館5階 ウォッチ
電話番号:03-6380-1818

ブランパン ブティック 阪急うめだ本店

住所:〒530-8350
大阪府大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店 9階 ウォッチギャラリー
電話番号:06-6313-0749

 ブティックを含む、全国のブランパンの取扱店は、以下のURLから検索できる。

https://www.blancpain.com/ja/sabisu/fanmaidian

 また、ブランパンの公式LINEが新しく開設されたので、友だち登録のうえ、最新情報をチェックしよう。

https://lin.ee/kXsefeY

Contact info: ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233
商品ページおよびブティックの予約はこちらから。


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