刀剣の意匠を随所にまとった工芸品的G-SHOCK。「MRG-B2000KT 鐵鐔(くろがねつば)」を実機レビュー

2025.12.13

大人のための高品質なタフネス時計として、世界に多くのファンを持つG-SHOCKの「MR-G」。今回は、その新作である「MRG-B2000KT 鐵鐔(くろがねつば)」を実機レビューする。本作は、2025年5月に古来の武具に使われていた鉄の色からインスパイアされた、「MRG-B2000BK 鐵色(くろがねいろ)」に続く、注目のモデル。“鐵シリーズ”の頂点となる渾身の作り込みと完成度を誇る、世界に800本のみの限定モデルである。

G-SHOCKが送り出す「MR-G」“鐵鐔(くろがねつば)”は、現代の護符となるか?

FEATURES

長谷川剛:文・写真
Text & Photographs by Tsuyoshi Hasegawa
[2025年12月XX日公開記事]


「現代の名工」による渾身の彫り込みベゼルに注目

MRG-B2000KT 鐵鐔

「MT-G」は日本に根差す職人技と最新のテクノロジーを融合させ、G-SHOCKの中でもとりわけ独創的かつ高品質なモデルを打ち出すシリーズだ。2025年5月にリリースされた「MRG-B2000BK 鐵色(くろがねいろ)」は、日本の古式甲冑の素材である鉄を熱した際に現れる、深い青緑色をイメージしたチタン外装に特徴がある。そして11月に新たに登場した、本作「MRG-B2000KT 鐵鐔(くろがねつば)」では、その世界観の下、さらに武具のイメージを突き詰め、和の意匠や日本刀に施された独自装飾をふんだんに取り入れた意欲作となった。数多くの見どころを持つ個性派だが、一番のポイントは何と言っても伝統職人による彫金ベゼルにある。

MRG-B2000KT-3AJR

G-SHOCK「MRG-B2000KT 鐵鐔」Ref.MRG-B2000KT-3AJR
吉兆を表わす瑞鳥(ずいちょう)として尊ばれる鳳凰を、日本を代表する彫金師・小林正雄氏がベゼルに彫り込んだ限定モデル。「MR-G」らしいハイグレードな素材使いに加え、優れた機能と耐衝撃構造を備える。タフソーラー。フル充電時約26カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(縦54.7×横49.8mm、厚さ16.9mm)。20気圧防水。93万5000円(税込み)。

 本作は800本の限定生産モデルだが、なんと1本1本すべてのベゼルにおいて、手作業で彫刻が施されている。でありながら、もちろん「MR-G」の耐衝撃性やソーラー充電、Bluetoothによるスマートフォンとの連携など、先進の利便性をしっかり網羅。つまり、工芸品的なクォリティと最高峰の機能性を両立させた腕時計ということ。これは本当に興味深い。

MRG-B2000KT 鐵鐔

本作の見どころであるチタン製ベゼルの装飾。「現代の名工」にも選ばれた小林正雄氏が手彫りに入れ込んだ鳳凰は、工芸品的な仕上がり。

 まずは外装から見ていこう。とにかく目を引くのがチタン製の装飾ベゼルだ。瑞鳥(ずいちょう)のひとつである鳳凰の要素を2カ所に彫り込んでおり、非常に印象深く美麗。しかもこれは「現代の名工」として黄綬褒章も受けた錺師(かざりし)、小林正雄氏の手によるもの。改めてつぶさに観察すると、鳳凰の羽毛の流れなど、肉合彫(ししあいぼり)なる職人技法が駆使されており、立体的な味わいがリアルに実感できる仕上がり。オートメーションのプロダクトとは一線を画す有機的な造形美は、まさに一見の価値がある。

MRG-B2000KT 鐵鐔

純チタンに再結晶化処理を加えることで、刀剣の刃紋のごときムラ感を表現したケース。サイドには2025年の限定モデルを示すプレートが付く。

 本ベゼルは刀剣における鐔(つば)にならった装飾とのことだが、ケースも同様に刀剣特有の美観を模している。刀剣の刃紋に見られる沸(にえ)をイメージし、純チタンに再結晶化処理を施しつつ、さらにブラウンAIPを加えることで、刀の“拵え(こしらえ)”を思わせる銅色をも実現させているのだ(編集部注:拵は、日本刀の外装を指す用語)。

 当時の武士が護身具に特別な装飾を求めたのは、それが魂の拠りどころであったから。では現代の武士たるビジネスマンは、どの持ち物に自らの矜持を託すのか。色々あろうが時間厳守の“武器”となる時計を特別視し、愛着を寄せる人はきっと多いはずである。

ベゼルのビスに埋め込まれたラボグロウンのエメラルド。奥まった位置に配されているがファセット面を持ち、さり気なく抑えた輝きを放つ。

 さらに本作は、ベゼルに配された4つのビスに、ラボグロウンのエメラルドを配している。エメラルドは古来より叡知の象徴であり、真実を見抜く力を持つという。21世紀の武具には鋭利な刃先よりも、正しい道筋を示す加護のほうが所有者に利をもたらすのだ。


強い存在感と同時に優れた使い勝手や先進機能を装備

 次にチェックするのは装着感や操作性。前作の「MRG-B2000BK 鐵色」は、チタン製のブレスレット仕様で、総重量は150gであった。そして本作「MRG-B2000KT 鐵鐔」は、ラバーベルト仕様で138g。縦54.7×横49.8mm、厚さ16.9mmというケースサイズを考慮したなら、それなりに重量はあるものの、ヘビーすぎる装着感ではなかった。

フッ素ラバー素材であるデュラソフトを使ったベルトも、本作のコンセプトに合わせて、深みのあるグリーンカラーが採用された。

 厚めのデュラソフトラバーベルトはしっかりコシがあり、迫力ある大ぶりのケースを安定的に支えており、適切にフィットしていれば腕を振り回してもブレなどは起きない。ケースと同色のDバックルは着脱もスムース。ボタンも力を込めずに軽やかに開閉が行える。チタン製バックルの仕上げはツヤを抑えたサテン調。ケースに採用された沸(にえ)風の処理は施されず、モダンで落ち着きある雰囲気となっている。

着脱が容易なDバックル。ケースと同様のブラウンAIPにより、渋味ある銅色をまとう。ベルトの長さ調整機能付き。

 リュウズは大ぶりで、側面にクル・ド・パリに似た刻み付き。一般的な水平筋状の刻みに比べて、操作時に滑りにくいように思われる。リュウズガードも付くが、そこまで大ぶりではなく、面取りもなされているのでリュウズに被ることがなく、つまみ行為を阻害するものではない。

 リュウズはねじ込み式で、2段階に引き出して各操作を行う仕様。引き出し時、巻き真のガタは少なく、また、引き出す際に余計な力を必要としない。軽やかで、かつクリック音にて引き出しの確認がとれるので、構えることなく調整が容易に行える。

側面に刻みが入れ込まれた大型のリュウズは操作性も抜群。正面には「MR-G」の文字の彫り込みあり。

 各プッシュボタンは単体でなく円形のガードで囲われるため、指の腹でのプッシュでは押しきれない場合がある。思い通りに操作しようと考えるなら、爪先で押すのがベターだ。つまり、このガード付属だからこそ安心してハードに使えることを理解するなら、できるだけ深爪は避けておきたい。

各種操作を行うプッシュボタンの天面はポリッシュ仕上げが与えられた。細かな部分に手を加えるのが、いかにも高級機らしい。

 さすがカシオ製品と思わせるのが、デュアルコイルモーターによる運針である。時・分・ワールドタイム針の高速運針は、胸がすくほど素早い調整を可能とする。機械式ではかなわぬのは言うまでもなく、電池式でもここまでスピーディーなのは素晴らしい。

MRG-B2000KT-3AJR

文字盤5.5時位置付近に配されたスーパーイルミネーター。十分な輝度にていかなる暗所でも時刻確認が可能。

 電池式ならではの恩恵という意味では、高輝度を誇るスーパーイルミネーターの存在も見逃せない。完全な暗所でもボタンひと押しにて文字盤が発光するため、確実に時刻確認ができる。押している時間だけ光るのではなく、ワンプッシュにて一定時間点灯し、段階的に消灯する趣向も、個人的に好ましい。


視認性と審美性をバランス良く追求した文字盤デザイン

 次に、実装してのインプレッションに進もう。筆者は普段、ケース径35mmくらいのヴィンテージ時計を愛用する。そのため直径5cm弱の本作は、手首に載せるとそれなりに大きく感じる。しかし、しなやかなデュラソフトラバーストラップはフィット感も良く、腕を振って歩く散歩時も、いつしか着けているのを忘れるほど。ただしバックルは9mmほどの厚みを持ち、装着しながらのPC作業時には、少々デスクに当たるなどの違和感を覚えた。

大きめのケースではあるが、装着していて特別な違和感をもたらすことはない。手首を曲げても本体が強く当たることもなかった。

 各機能をセレクトするファンクションボタンは8時位置に付けられており、ひと押しするとストップウォッチモードとなる。その時、電子音にてモードチェンジを知らせるが、ストップウォッチの開始時に音は鳴らない。ステップ運針のため、ストップウォッチがスタートしたかどうか瞬時迷うことがあった。

 また、ストップウォッチモードから通常の時計モードに戻す場合、ファンクションボタンを3回押すのだが、時計モードに戻る時のみ電子音のトーンは少し高いものとなる。恐らくノールックでの操作を考慮したサウンド変更と思われるが、このハイトーンが生活音に紛れやすく、聞き取れなかったことが数度ある。ただしこれは筆者の“老耳”のためかもしれない。

 視認性についてであるが、これは申し分ない。強い太陽光の下でも矢羽根紋様に仕上げた文字盤により、ギラつき過ぎず時刻の読み取りが行える。立体的なインデックスは上面にカーブが施され、光を受けて滑るように輝く様も美しい。また、文字盤外周部はあえて反射を意図したデザイン。光を受けると鏡のごときキラメキを放ち、華やかさを添えてくれる。そして、暗所での視認性については先述通り。


ラギッド要素のみに突っ走らないのが大人のコーディネイト

 さて、「MRG-B2000KT 鐵鐔(くろがねつば)」は現代の名工が手技にて入れ込んだ彫金ベゼルを筆頭に、沸(にえ)ケース、矢羽根文字盤にエメラルドポイントなど、見どころを詰め込んだ限定ピースである。それらを今回はファッション的にも着けこなしたいと考え、以下の装いを組んでみた。

 武具をイメージした本作だけに、着こなしのテイストはミリタリー系がマッチする。とはいえ米軍実物であるM65などの軍用ジャケットでは、さすがに厳つすぎる。ラギッドな要素を街着に落とし込んだスタイルの方がMR-Gにはリアリティーがある。そこでメインとして選んだ一着が、ミリタリーグリーンと軍装のディテールを取り入れたダウンベスト。

ミリタリーなどラギッドなウェアと相性の良い「MRG-B2000KT 鐵鐔」。ただし“大人のG-SHOCK”であることを踏まえるなら、ハードに走りすぎないほうがベター。ローゲージのニットの合わせはリラックス感も演出できる。ただし肘当て付きの一着を選んで、要素をそろえてみた。

 また、沸(にえ)ケースに寄せたベージュのショールカラーセーターにて初冬の季節感をプラス。パンツはブルージーンズでもグレースラックス、チノーズでもシーンに合わせて選べば良いだろう。問題となるのは足元。都心に出るならドレスタイプの短靴を選ぶべきだが、今回はインプレッションの場を郊外公園にも広げたためブーツを選択。米国ブロウニングのブーツはハンティング等に用いる一足ゆえ「鐵鐔」とも相性悪くない。

 
 
編み上げブーツはハンティング用の一足。グリーンレザーは言うまでもなく「鐵」の深緑色に合わせてのチョイス。経年により重なる革材のシワも「MRG-B2000KT 鐵鐔」の持つ無骨さにマッチする。

 と言うか、デコラティブに主張する個性派時計に合わせる足元は、これくらいハードなものの方がバランスも良いはず。そう、MRG-B2000KT 鐵鐔を軸にコーディネイトするなら、アクティブ寄りなオフのカジュアルスタイルがベストなのだ。

 最後にもう一度、この「MRG-B2000KT 鐵鐔」を眺め回したところ、一定の着用を経て本体随所にホコリや塵が確認できた。やはり各種装飾や凹凸を持つモデルは、そういった異物を拾いやすいのかも知れない。凸凹などの隙間に入り込んだ塵は、眼鏡拭きといった布では除去しづらい。そこで思い出されたのが、時代劇等でお殿様が居室にて愛刀を抜いて、ポンポンするシーン。

 調べてみると、あれは「打ち粉」というものらしく、刀剣に付着した古い油を落とす、お手入れ方のひとつとか。時計清掃にそのまま流用はできないが、塵や埃を落とす時計専用の「打ち粉」があっても良いはずだ。もちろん本式の「打ち粉」のように砥石の粉を封入する必要はなく、ブラシ機能があればソレで十分。幾日か「鐵鐔」を着用した後に、書斎でひとりじっくり「打ち粉」作業にポンポンといそしむ。美観のキープにもなるだろうし、改めてその緻密な仕上がりを愛でる機会ともなる。所有する喜びが一層深まると思うが、いかがだろう。



Contact info:カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925


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