時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2025。「ジュネーブで輝いた新作時計 キーワードは“カラー”と“小径”」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回は、ロレックスやグランドセイコー、ブルガリ等が打ち出した、優れた新型ムーブメントを紹介する。

広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]


ハイコンプリケーションから小型機まで、NEWムーブメント2025

 一見地味だった今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025。しかし子細に見ると、優れたムーブメントは少なくない。その筆頭は、ダイナパルス エスケープメントを載せたロレックスのCal.7135と、年差±20秒を実現したグランドセイコーのCal.9RB2。ここでは野心的な新作を、改めておさらいしてみよう。

ロレックス Cal.7135

ロレックス Cal.7135
約66時間という長いパワーリザーブに、3万6000振動/時の高振動を持つ新型ムーブメント。直径を拡大し、ムーブメントを薄く仕立てる設計は32系とは全く別物だ。その結果、スペースを取るが高効率のダイナパルス エスケープメントと、巻き上げヒゲではなく、シロキシヘアスプリングが採用された。

 2000年代以降進んだベースムーブメントの刷新。今年はひょっとして、その集大成と言うべき年かもしれない。その象徴が、ダイナパルスエスケープメントを備えたロレックスのCal.7135と、年差±20秒のグランドセイコーのCal.9RB2である。このふたつは、量産された自動巻きムーブメントとしては理論上傑出した精度を持つもの。加えて、いずれも約3日間前後の長いパワーリザーブを持っている。以降各社は、この新しいスタンダードに追いつくべく、ムーブメント開発を進めるに違いない。

Cal.7135

「パーペチュアル 1908」が搭載するCal.7130系をベースにしたCal.7135。劇的な性能向上の理由は、革新的な新技術にある。写真はセラミックス製(!)の天真。加工は極めて難しいが、長期間の使用でも摩耗への耐性があるため、テンプの振り角が安定する。なお、理論上は無注油での運用も可能だが、実際は注油しているとのこと。

ダイナパルス エスケープメント

写真はナチュラル脱進機をベースにした軽量で高効率のダイナパルス エスケープメント。従来のナチュラル脱進機と異なり、スイスレバーのように主ゼンマイを巻くだけで起動する。また歯先に工夫を凝らすことで耐衝撃性も高い。

 ベーシックなムーブメントも底上げされた。タグ・ホイヤーの搭載するCal.TH31-02は、AMTとの共同開発。約80時間もの長いパワーリザーブに、理論上はCOSCクロノメーター並みの高精度を誇る。サイズが大きいため搭載できるモデルは限られそうだが、このムーブメントは間違いなくタグ・ホイヤーの商品力を高めるだろう。同価格帯のブライトリングも、ベーシックな「トップタイム B31」に、新規開発のCal.31を搭載。コンポーネンツの一部をB19と共有することで、コストを抑えつつも高性能を実現している。約78時間のパワーリザーブに、フリースプラングテンプの組み合わせは、かなり野心的だ。

ヴァシュロン・コンスタンタン Cal.3655

ヴァシュロン・コンスタンタン Cal.3655
ヴァシュロン・コンスタンタンの「レ・キャビノティエ・ソラリア・ウルトラ・グランドコンプリケーション ‒ラ・プルミエール‒」が搭載する、史上空前のコンプリケーション。3面にわたって展開されるムーブメントの部品点数は1521。41の複雑機能に5つの天文機能、そしてウェストミンスターのリピーターを搭載する。それぞれの地板に機能を分割するというヴァシュロン・コンスタンタンの磨き上げた設計思想は、ついに腕時計サイズの大作を実現した。

パテック フィリップ Cal.86-135 PEND S IRM Q SE

パテック フィリップ Cal.86-135 PEND S IRM Q SE
今年、メインモデルとばかりに披露されたパテック フィリップの「コンプリケーテッド・デスククロック 27000M」。搭載するのは、もちろん新規開発のムーブメントだ。調速機や主輪列を既存の懐中時計から転用し、それを3つの香箱に収められた長さ5mの主ゼンマイで駆動する。そのパワーリザーブは約31日間。コンスタントフォースを組み合わせることで、公称日差はなんと±1秒。週表示まで付けた永久カレンダーを搭載している。これは傑作だろう。

 女性用の自動巻きも充実してきた。小径の09系をリリースしたショパールに続いて、ブルガリは自社製のCal.BVS 100 レディ ソロテンポを投入。堅牢な設計を持つこの自動巻きは、約50時間というパワーリザーブに、明らかに大きなテンプを備えている。同キャリバーは、今後LVMH各社でも採用されるとのこと。つまり、グループの女性用モデルは大きく進化するはずだ。ルイ・ヴィトンも小径の自動巻きを発表。採用はまだ一部の男性モデルに限られるが、そのサイズは明らかに女性を意識したものだ。こちらも長いパワーリザーブとフリースプラングテンプを備えている。

ルイ・ヴィトン Cal.LFT ST13.01

ルイ・ヴィトン Cal.LFT ST13.01
ルイ・ヴィトンの野心作。コンパクトなサイズは、明らかに女性用への搭載を狙ったものだ。良質な仕上げに約50時間という小径としては長いパワーリザーブ、そして緩急針を省いたフリースプラングテンプを持つ。また、抑えられたローター音や粗さのない針合わせなどは、老舗の高級機に比肩する。今後の飛躍を担うキャリバーだ。

 複雑系の白眉はふたつ。パテック フィリップの置き時計用ムーブメントと、ヴァシュロン・コンスタンタンのソラリアが搭載するCal.3655だ。古典的構成と多機能を巧みに両立させたのは、複雑機構の開発に長けた老舗ならではだ。

IWC Cal.82915

IWC Cal.82915
6時位置にフライングトゥールビヨンを備えたムーブメント。外周に配置したBMGガラス製のショックアブソーバー、ジョイント式のリュウズの巻き芯、極めて太いリュウズ回りのOリングなどで、最低1万G/msもの耐衝撃性を誇る。簡潔だが、IWCらしい考えられた機構だ。もっともスペースを取るため、他への展開は難しいだろう。
ブルガリ Cal.BVS 100 レディ ソロテンポ

ブルガリ Cal.BVS 100 レディ ソロテンポ
ブルガリが新たに開発した女性向けの自動巻き。長いパワーリザーブという要件から設計を始めた。ムーブメントに出た厚みは、ローターの形状を工夫するなどで、結果的に薄く見えるようにデザインされている。また、サイズに比して大きなテンワは、理論上このムーブメントに優れた携帯精度をもたらすだろう。


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