2025年新作時計より、傑作ムーンフェイズ表示モデルを紹介。月の満ち欠けを文字盤上で楽しもう

2025.12.20

2025年に発表されたムーンフェイズ搭載モデルの傑作を紹介しよう。一定周期で移り変わる月の満ち欠けを文字盤上に表現するムーンフェイズ表示は、古くから時計に取り入れられてきた機能のひとつである。時計の針や日付表示よりもゆっくりと移り変わってゆく月の様子を眺めることで、季節の移ろいを感じ取ることができる点は、ムーンフェイズの魅力のひとつだろう。

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
[2025年12月20日公開記事]


歴史的に多くのモデルに取り入れられてきたムーンフェイズ表示に注目

 今回は、2025年に発表されたムーンフェイズ搭載モデルのうち、筆者が傑作と感じた5本を紹介する。時計の歴史を振り返ると、時間を管理するための時計は、権力や権威の象徴として扱われていたことが往々にしてあった。製造技術の向上により、暦(暦を定められるのは権力者)に関わる天体現象も時計機能に取り込まれるようになり、月の満ち欠けを示すムーンフェイズ表示が作られるようになった。このようなシンボリックな背景に加え、それを実現する高い技術を工芸的な観点から楽しむ面と、明かりのない時代に夜間の視界と大きく関わる月の様子を確認する実用的な機能としての一面も、ムーンフェイズ搭載モデルは持ち合わせている。

 眺める場所が変われば、その表情を変える月のように、さまざまな面を持つムーンフェイズに今回は注目し、各ブランドのとらえ方や解釈について思いを巡らせてみてはいかがだろうか。


オリエントスター「M45 F8 メカニカルムーンフェイズ ハンドワインディング」Ref.RK-BW0001S

 1本目は、ムーンフェイズ搭載モデルが多いオリエントから選出しよう。すばる(プレヤデス星団)に着想を得たオリエントスター「M45」に追加された新作の「M45 F8 メカニカルムーンフェイズ ハンドワインディング」Ref.RK-BW0001Sをピックアップする。注目すべきは、クラシカルなデザインと、新開発の手巻きムーブメントの採用である。

オリエントスター「M45 F8 メカニカルムーンフェイズ ハンドワインディング」Ref.RK-BW0001S

オリエントスター「M45 F8 メカニカルムーンフェイズ ハンドワインディング」Ref.RK-BW0001S
手巻き(Cal.F8A62)。20石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ11.9mm)。3気圧防水。41万8000円(税込み)。(問)オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380

 M45の従来モデルである「M45 F7 メカニカルムーンフェイズ」のケース径が41.0mm、厚さ13.8mmであるのに対し、本作は直径39.5mm、厚さ11.9mmと、小径かつ薄い仕立てだ。また、文字盤はホワイトで、レイルウェイミニッツトラックとローマンインデックス、パワーリザーブ表示、そして6時位置のムーンフェイズ表示とシンプルである。このコンパクトさとシンプルなデザインはクラシカルなテイストを生み出し、本作の魅力となっている。

 そして、搭載されるCal.F8A62は、“ゆったりとした時間を演出する”ことをコンセプトに新開発された手巻きムーブメントだ。これは、自動巻き機構を単純に排除したムーブメントではなく、星の軌跡から着想を得た装飾を施した大型のプレートや、そこに施された三日月型の切り欠きなど、ムーンフェイズ表示のための仕様”が盛り込まれたものだ。手巻き式時計を買い求めるのは一部の熱心なファンだけといわれる現代において、審美性や独自性が高められた本作は、オリエントスターの新たな挑戦と言えるのではないだろうか。

Cal.F8A62

新開発の手巻きムーブメントCal.F8A62。手巻きモデルがなかなか売れないとされる現代において、わざわざ新開発したオリエントには恐れ入る。ストライプ模様が施された大型のプレートや、写真中央左寄りの三日月をかたどった切り欠きなど、見どころが多い。


ブランパン「ヴィルレ コンプリートカレンダー ムーンフェイズ」Ref.6654N 3642 55B

 続いて取り上げるのは、ブランパンの「ヴィルレ」である。ヴィルレは、1983年に同ブランドが発表した「シックス・マスターピース」をルーツに持ち、着実な進化を遂げつつも、長年にわたってケースデザイン、ローマンインデックスを用いたドレッシーな文字盤といった基本スタイルを変えずにラインナップされてきた名作ドレスウォッチコレクションである。コレクションのうち、ムーンフェイズ搭載モデルは代表的なもののひとつで、傑作選として見逃すことはできない。

 取り上げるのは、今年の新作の「ヴィルレ コンプリートカレンダー ムーンフェイズ」Ref.6654N 3642 55Bである。新作のリリースに合わせてケースデザインが見直されており、ベゼルのスリム化やリュウズの大型化、ラグの再設計などが行われた。その結果、エレガントさが際立つ仕上がりとなっている。

 新作のデザインテーマは“黄金の時間”だ。本作の文字盤にはマットなオパライン、同時発表のモデルではサンバースト仕上げのゴールデンブラウンカラーが採用されており、秋の日差しや紅葉を思わせる柔らかな色調が魅力である。12時位置にはふたつの窓で月と曜日を表示し、センターにポインターデイト、6時位置には本作のテーマであるムーンフェイズを備える。なお、本作のムーンフェイズ表示はセラミックス製に変更された。店頭で手に取る際は、こういった従来モデルから変化が加わった点にも注意してチェックするのが良いだろう。

ブランパン ヴィルレ

ブランパン「ヴィルレ コンプリートカレンダー ムーンフェイズ」Ref.6654N 3642 55B
自動巻き(Cal.6654.4)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGケース(直径40.00mm、厚さ10.60mm)。3気圧防水。452万1000円(税込み)。(問)ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233


チューダー「チューダー 1926 ルナ」Ref.M91560-0001

 ロングセラーに続いて、今度はブランド初のムーンフェイズ搭載モデルとしてリリースされたチューダー「チューダー 1926 ルナ」を取り上げる。モデル名の由来は、ロレックス創立者のハンス・ウイルスドルフの名義で「チューダー(The TUDOR)」が初めて登録された年である。このように、ブランドの起源がモデル名となっている本作には、チューダーらしさがあふれている。

 チューダーは信頼性の高いモデルの製造を続けており、それを支える技術の代表例は高い防水性能だ。本作では、ラウンドケースをベースとしたクラシカルさのあるデザインでありながら、ねじ込み式リュウズを採用した100mの防水性能を備える。ケース素材には医療用にも用いられる、316Lスティールを用いている。さらに、チューダーのブレスレットは完成度が高いことも知られており、本作では7列のリンクで構成されたブレスレットによって良好なフィット感を提供する。

TUDOR M91560-0001

チューダー「チューダー 1926 ルナ」Ref.M91560-0001
自動巻き(Cal.T607-9)。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.1mm)。100m防水。38万600円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570

 ピックアップするのは、輝く満月のようなシャンパンカラーモデルである。アラビア数字インデックスと楔形インデックスを組み合わせた、ややスポーティーな文字盤デザインに、立体的なリーフ型針を組み合わせている。ムーンフェイズ部は、本作ではブラックで仕上げられていて、夜空を想起させる。そして、そこに浮かぶ月に自然と目が向くデザインが魅力だ。


オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ メテオライト」Ref.304.30.43.52.06.001

スピードマスター ムーンフェイズ メテオライト

オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ メテオライト」Ref.304.30.43.52.06.001
手巻き(Cal.9914)。45石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.6mm)。50m防水。272万8000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087

 ムーンフェイズ表示は、月の満ち欠けという天体現象を手元に取り込み、宇宙へのロマンを膨らませることができる点が魅力である。次に取り上げるのは、宇宙との関りが深いコレクションに、宇宙から飛来した本物の隕石を文字盤に用いた特別な1本だ。

 その1本とは、オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ メテオライト」である。本作のメテオライト文字盤には、隕石の中でも鉄隕石が用いられている。鉄隕石は何らかの衝撃で飛散した天体の核の一部とされている。この中には、鉄の他にニッケルが多く含まれ、宇宙空間で極めて長い時間をかけて、ゆっくりと冷却されることで特有の結晶構造である「ウィドマンシュテッテン構造」が生じる。本作ではこの結晶構造を際立たせるため、ガルバニックグレーを施し、月を思わせるグレーの色調と、特有の表情を持つ文字盤を作り上げている。

 また、ムーンフェイズ表示を実現するために新開発された手巻きムーブメントのCal.9914が搭載されるkとも特筆すべき点だ。最新世代のオメガのムーブメント同様に、コーアクシャル脱進機を採用し、マスター クロノメーターの認定も取得している。ポイントとなる6時位置のムーンフェイズは、カボションシェイプの月隕石がふたつあしらわれ、南北両半球の月相を表示する点がユニークだ。さらに、ムーンディスクに背景として描かれる星空は、1969年のアポロ11号の月面着陸の際に、スイスのビエンヌに位置するオメガ本社から見上げた星空を再現したものとなっている。


エルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ ブルーグレームーン」

エルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ ブルーグレームーン」

©Anita Schlaefli
©Anita Schlaefli
エルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ ブルーグレームーン」
自動巻き(Cal.H1837)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。WGケース(直径43mm)。3気圧防水。3940万2000円(同時に発表された「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」3種セットでの販売価格)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300

 最後に取り上げるのが、時計全体で月の満ち欠けを表現するエルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ ブルーグレームーン」である。この特異なデザインは、時計に対するエルメスの哲学や考えが反映されたものである。エルメスは、時計を“時間を知る道具”とは捉えておらず、“時を詩的に再構築したもの”としてデザインしている。すなわち、エルメスの手掛ける時計は、時間という概念を形にしたオブジェと言うことができる。

 本作の文字盤のベースにはふたつの月があしらわれる。良く見ると月の表情が異なっており、12時位置には南半球から見える月が、6時位置には北半球から見える月が描かれている。そして、文字盤中心のリンクを介して、時分表示のオフセットダイアルと、日付表示ダイアルが配されている。そして、1日経過するごとに、ふたつのダイアルが公転して、59日で1周する仕組みである。この動きにより、各ダイアルは文字盤ベースの月の一部を隠し、北半球と南半球のムーンフェイズとして働くのだ。この作動の様子は、時がうつろいゆく様や、地球を中心に公転する月の存在などを想起させるもので、まさに、時間の概念を表現したものと言えるだろう。

 紹介するアルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ ブルーグレームーンは、ケースとストラップ、文字盤上の表示や月がモデル名の通りブルーグレーで仕立てられている。そして、文字盤のベース部分には、月の岩石である「ルナ・メテオライト」を使用している。夜空や、夜空で冷たく光る月を思わせるブルーグレーのカラーリングと、月からやって来た本物の岩石を用いた本作は、月をテーマとした本作にピッタリの仕上がりである。


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