LVMHグループ参画以降、時計部門が極めて好調なティファニー。牽引するのは時計部門の責任者、ニコラ・ボーである。非常にうまくいっている理由は、ジュエリーとのシナジーにあるようだ。現職就任後、ボーは膨大なジュエリーのアーカイブをひもとき、それを新しいティファニーのデザインコードにしようと決めた。
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]
私たちはアメリカとヨーロッパのカルチャーを引き継ぐ存在

ティファニーオルロジュリー部門の副社長。ISG経営大学院卒業後、カルティエに入社。ボーム&メルシエでマーケティングと製品開発の責任者を務めた後、2002年にシャネルに移り、J12コレクションを質・量共に充実させた。その経験を買われて、2021年にティファニーに入社。ジュエリーとのシナジー、製造体制の見直しなどで、時計部門を再離陸させることに成功した。
「ティファニーには数多くのアイコニックなジュエリーがある。そのデザインアプローチと精神を時計に落とし込むことだと思いました。復刻ではなく、再解釈ですね」
ボーは、かつて全く切り離されていたジュエリーと時計の製造工程を連携させただけでなく、ジャン・シュランバージェなどの傑作ジュエリーを、腕時計として横展開させた。結果、時計部門の成長率は2桁になった。成功は喜ばしいが、時計をジュエリーの入り口とする、というティファニーの方針に反するのではないか?
「ティファニーの時計部門の顧客の40%が新規なのです。つまり、時計がブランドにとっての入り口となっている。そして男性のお客様も、私たちのハイジュエリー ウォッチを買われるようになりました」
ジュエリーと時計の融合を実現したのは、新しい組織にあるとボーは語る。
「ティファニーの工房は、非常にフラットなのです。デザイナーと時計師は簡単に話せる。だから、さまざまなクリエーションを作りやすいのです。そして、クォリティのサークルを作りやすい」

1853年にニューヨーク本店のファサードに設置された「アトラスクロック」に着想を得た「アトラス ウォッチ」が刷新され、今まで以上にアイコン的な要素を強めた。モダンに改められた立体的なローマンインデックスと、ティファニー ブルーの文字盤が、同社の向かう方向性を示す。自動巻き(セリタベース)。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径38mm)。100m防水。82万5000円(税込み)。
LVMHに加わって以降、ジュエリー ウォッチへの傾倒を明確にしたティファニー。しかし、間口の広さは決して忘れていない。それを示すのが、新しいティファニー アトラスだ。
「私が思うに、本当の意味でアイコンと呼べる時計は、世界に10個ぐらいしかないでしょう。アトラスはアイコニックなクロックではありますが、ティファニーにアイコニックなデザインのウォッチはありませんでした。つまり、全く白紙だったわけです」
時計をアイコンとするには20年、30年、50年かかると語るボー。アトラスの文字盤にあしらわれた鮮やかなティファニー ブルーは、同社が本作を新しいアイコンに育てていくという意思の表れだろう。
「ヨーロッパのジュエラーは過去を見ますが、私たちは未来的である。そして、ヨーロッパのものも扱ってきた私たちは、アメリカとヨーロッパのカルチャーを引き継ぐ存在だと思っています」
ジュエリーベース、そしてモダンという明確な方向性を打ち出したティファニー。今後が楽しみなブランドのひとつだ。



