2025年に登場した「インヂュニア・オートマティック 42」は、ケースブレスレットにセラミックスを採用し、ムーブメントにはペラトン自動巻きが特徴的なCal.82110を搭載した意欲作だ。『ウォッチタイム』ドイツ版のリュディガー・ブーハーがその魅力を解説する。

Text by Rüdiger Bucher
© WatchTime Germany
Originally published in WatchTime Germany
Reprinted with permission.
[2026年2月18日掲載記事]
サイズアップを感じさせない軽快さ。専用ムーブメント搭載のフルセラミックモデル
現行のインヂュニアコレクションが華々しいデビューを飾ってから3年、2025年にIWCは同シリーズにおける次なるハイライトを投入しのだった。「インヂュニア・オートマティック 42」は、シリーズ初のフルセラミックモデルである。すなわち、ケースを構成する3つのパーツ、ミドルケース、ベゼル、ケースバックのすべてがブラックセラミックス製であることを意味する。
さらに、リュウズやリュウズガード、そして一体型のブレスレットもこの素材で作られている。使用されているのはブラックの酸化ジルコニウムで、これは1986年に発表されたIWC初のセラミックウォッチである「ダ・ヴィンチ」に採用されたものと同じ素材である。
この目標を達成するために、IWCはケース構造に変更を加える必要があった。ベゼルとケースバックの両方の、それぞれ5本の飾りではないネジによって、チタン製のインナーリングに固定されるという構造が選ばれた。また、インナーリングはムーブメンを固定する役割も果たす。

自動巻き(Cal.82110)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックケース(直径42mm、厚さ11.5mm)。10気圧防水。320万3200円(税込み)。
この構造上の制約により、IWCは従来のインヂュニア・オートマティック 40のサイズ(直径40mm、厚さ10.8mm)を維持することができなかったように思われる。新作のサイズは直径42mm、厚さは11.6mmとやや大きい。しかしながら、着用時にそれを感じることはない。セラミックス製のため腕時計自体が非常に軽く、ステンレススティールモデルを隣に並べない限り、大きくなったサイズを感じることはほとんどないからだ。
これは、IWCがプロポーションを保ったままスケールアップさせたことによるものだろう。ジェラルド・ジェンタがデザインした、1976年の有名なインヂュニアのRef.1832を参照し、2023年に創出されたデザインのディテールはサイズがアップされてもそのまま維持されている。
硬質ながら心地よい
そもそもセラミックスは、非常に快適な着け心地をもたらす素材だ。軽量であり、体温に素早く馴染むため、肌の上ですぐに温かみを感じるようになる。この素材の利点を真に実感できるのは、ブレスレットまでセラミックス製である場合だ。

今回のインヂュニアがまさにそうで、その装着感を確かめるのは実に楽しい体験である。セラミックスは非常に硬く、酸化ジルコニウムの場合、約1300ビッカース硬さに達する。そのため傷に極めて強い一方で、加工は困難を極める素材だ。
焼結炉から取り出された後、意図した通りの仕上げを施すにはダイヤモンド工具が必要となる。IWCは自社において、ケースとブレスレットの仕上げを手がけるのだ。各部品はまずサテン仕上げが施され、次にサンドブラスト処理、そして最終的にエッジ部分がポリッシュ仕上げされ完成へと向かう。
洗練された文字盤
セラミックスがインヂュニア・オートマティック 42を触覚的な体験にしているとするなら、視覚的な主役は文字盤だ。2023年世代の初期モデルと同様の、チェス盤のようなグリッド構造を備えている。1976年のジェンタデザインによる最初のインヂュニアも似た模様の文字盤を持っていたが、今日のものほど精巧ではなかった。光の当たり具合によって、微細なラインと正方形で構成されたパターンが、時に鮮明に、時に控えめに浮かび上がる。

さらに文字盤には、1955年の初代インヂュニアRef.666を飾った歴史的な「稲妻」のロゴと、ブランドロゴが配されている。光の反射を計算した文字盤構造ながら、あらゆる角度から時刻を読み取ることができ、暗所では夜光塗料のスーパールミノヴァがそれを補助する。
ペラトン自動巻き機構搭載のCal.82110
2023年に発表されたステンレススティール製やチタン製のモデルとは異なり、IWCはこのフルセラミックウォッチに別のムーブメントを搭載した。IWC特有のペラトン自動巻き機構を備えた自社製ムーブメントCal.82110である。Cal.32111の代わりにこれが採用されたのは、ムーブメント内にもセラミックス製パーツが使用されているためで、ケースやブレスレットとの理念的な結びつきを持たせるという粋な演出だ。

パワーリザーブは約60時間を誇り、振動数は毎時2万8800振動。ステンレススティールおよびチタンモデルとは違い、IWCはこのセラミックス製インヂュニアにシースルーバックを採用した。
裏面のサファイアクリスタルにはスモーク加工が施されている。これはブラックセラミックスと腕時計全体のクールな印象にマッチしているが、一体型ブレスレットが重なっていることもあり、ムーブメントの視認性は限定的だ。
結論
一体型ブレスレットを備えたインヂュニアは、オーデマ ピゲやパテック フィリップのアイコンウォッチに対するIWCからの選択肢である。最初の中央コマは可動式に設計されており、手首に心地よくフィットする。
価格に関しては、IWCは従来よりもかなり高い設定だ。320万3200円(税込み)である。直径40mmのステンレススティールモデルが192万1700円(税込み)、チタンモデルが239万6900円(税込み)である。したがって、この新しいフルセラミックスインヂュニアは決して安価な買い物ではない。しかし、一度手首に乗せてみれば、そのすべての長所が相まって、価格のことを忘れさせてくれるに違いない。



