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ピム・コースラグが語る、フレデリック・コンスタントの未来(1/1)

自社製のCal.FC-945を搭載したモデル。自社製ムーブメントを開発した理由は「テンプを6時位置に見せるため」(ピーター・C・スタース)。緩急針にトリオビスを使うなど、仕様も凝っている。脱進機と振り座はシリコン製である。「ハートビート マニュファクチュール」。自動巻き(Cal.FC-945)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。5気圧防水。アリゲーターストラップ。74万円(税別)。
広田雅将(クロノス日本版)
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

 フレデリック・コンスタントのムーブメント開発を支えてきたピム・コースラグ。決して目立つ存在ではないが、同社のマニュファクチュール化は、彼なくして進まなかった。いわば、フレデリック・コンスタントの躍進を支える陰の立役者と言えるだろう。

「今回来日した目的は、セールス向けのプレゼンを行うため、そしてメンテナンスをシチズンに移管するためです。これからは、マニュファクチュールムーブメントも日本国内で修理可能になりますよ」。滞在中、彼は4名の時計師に、メンテナンスの手ほどきをした。「日本の時計師が持つ資質は非常に高いですね。ですから、自社製ムーブメントの特徴を伝えただけです。まずは3針からですが、次はクロノグラフ、やがて永久カレンダーも日本で直せるようになります」。

 2016年、シチズンホールディングス(現シチズン時計)は、フレデリック・コンスタントを傘下に収めた。シチズンの主な狙いは、フレデリック・コンスタントの持つ“高級”なリテール網だったが、買収のシナジーは進んでいる。

「シチズンの工場も訪問しました。正直かなり驚かされましたね。スイスはマニュアルに従って作業をするのです。対してシチズンの生産ラインはオートメーション化されていて、大変に効率的ですね。私個人は、シチズンによる買収の影響をポジティブに考えています。シチズンは自由にやらせてくれていますし、自分たちのブランドアイデンティティーも変わっていません」

 では、2017年の1月1日に施行された新しいスイスネス法の影響はどうなのか? 改正の前までは、ムーブメント製造にかかるコストの50%以上をスイス国内に投じれば、“SWISS MADE”を名乗れた。しかし1月1日以降、ムーブメントと、外装(ストラップとブレスレットを除く)にそれぞれ60%以上のコストをスイス国内で掛けなければ、“SWISS MADE“を名乗れない。多くのスイスメーカーが対策に奔走しているが、フレデリック・コンスタントは問題ないのか? 「私の見た限りでは影響を受けてないですね。ムーブメント、外装ともスイスメイドの基準は十分満たしていますよ」。基準を満たしているならば新規に部品を起こす必要はなさそうだ。であれば、猶予期間を過ぎた2018年の12月31日以降も販売価格が上がることはないだろう。

1981年、オランダ生まれ。クリエイティブ・アート・スクールを卒業後、アムステルダム時計エンジニア学校に入学。在学中、フレデリック・コンスタントの社長であるピーター・C・スタースと出会い、ムーブメント開発に協力。独立時計師であるグローネフェルドの下でインターンシップを行いながら、自社製ムーブメントである“FC-910”の開発に着手。2004年には量産化された。卒業後はジュネーブに移住し、フレデリック・コンスタントのムーブメント開発を指揮する。08年には、スタース及びロバート・ヴァン・パッペレンダムと共同で高級時計ブランド「アトリエ・ド・モナコ」を立ち上げる。

 世界中で高セールスを記録するフレデリック・コンスタント。今後、自社製ムーブメントの拡充予定はないのか? 彼はシリコンウエハーの板を見せてくれた。「私たちは2006年以降、シリコン素材を脱進機に使っています。ダルニコ材(脱進機などに使われる鋼の一種)に比べて重さが5分の1と軽量なため、性能が上がりますね。最近は、振り座もシリコンに変更しましたよ。表面が滑らかなため、フリクションが大幅に減ります」。しかし、ここまでシリコンを使っておきながら、ヒゲゼンマイはニヴァロックス製、あるいはその同等品だ。

「現在は、特許の問題でシリコン製のヒゲゼンマイを使えません。ですが、4年後に採用するかもしれません」。シリコン製ヒゲゼンマイに関する特許が切れる4年後には、多くのスイスメーカーがシリコン製のヒゲゼンマイを使うようになるだろう。しかし、シリコン製のヒゲゼンマイを載せるには、緩急針ではなく、フリースプラングテンプに改める必要がある。ヒゲゼンマイを挟む緩急針は、しばしばシリコン製のヒゲゼンマイを痛めてしまうからだ。現に、今市場にあるシリコンヒゲ採用モデルは、すべてフリースプラングテンプ付きだ。

「フリースプラングテンプは、テンワにマスロット(回転錘)を載せていますね。これを回して緩急を調整する。しかしマスロットの突起は空気抵抗を増やすので、パフォーマンスは下がります。私たちはマスロットのないスムーステンプを好みますね」。テンプにかかる抵抗の3分の1は摩擦、3分の1は空気抵抗だ。スムーステンプのほうが振り角は落ちない、という理屈は確かに正しい。

「マスロットがないスムーステンプだけでは、緩急は変えられません。ですから、私たちはヒゲゼンマイの長さを調整して精度を出す、新システムを採用します」。これは緩急針そのものだが、まったく違う、とコースラグは強調する。

「私たちのシステムは、緩急針にあたる部品ではなく、ヒゲ持ちを移動させるのです」。図面を見て合点がいった。確かに緩急針ではなく、ヒゲ持ちが移動する仕組みになっている。まだ兄弟ブランドの「アトリエ・ド・モナコ」が採用するのみだが、今後この新しいシステムが、フレデリック・コンスタントの“武器”となるに違いない。少なくとも、耐衝撃性は大幅に改善されるはずだ。

 環境の大きな変化にもかかわらず、地道に進化を続けるフレデリック・コンスタント。コースラグの話を聞きながら、筆者は、社長のピーター・C・スタースのコメントを思い出した。「私たちとシチズンは親和性が高いのです。というのも、物をきちんと作るというカルチャーをどちらも持っているからです」。

アトリエ・ド・モナコが採用する、新しい緩急装置。緩急針ではなく、ヒゲ持ちを移動させて精度を調整する。今後、フレデリック・コンスタントにも導入予定だ。
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