制約を魅力に変えて。シチズンの光発電エコ・ドライブ50周年記念モデル「Eco-Drive PHOTON」を深掘り

2026.10.06

シチズンが、光発電技術「エコ・ドライブ」の誕生50周年を記念して発表した「Eco-Drive PHOTON」。スリットを設けた多層構造のダイアルは、光の性質を示す「二重スリット実験」から着想を得たものだ。エコ・ドライブに不可欠な光を取り込むという機能をデザインへと昇華させた、ユニークな記念モデルを深掘りする。

野島翼:文
Text by Tsubasa Nojima
[2026年10月6日公開記事]


50周年を迎えた、光を動力に変える「エコ・ドライブ」

 シチズンが2026年新作として発表した「Eco-Drive PHOTON」。本作を理解するためには、まずシチズンを代表する技術である「エコ・ドライブ」について振り返っておきたい。その原点は、1976年に発売された世界初のアナログ式光発電時計、「クリストロンソーラーセル」である。太陽光を電気エネルギーへと変換し、その電力によって腕時計を動かすという仕組みは、その後も改良が重ねられ、1994年にはエコ・ドライブという名称が誕生。翌1995年にはリチウム二次電池の採用によって、フル充電から約6カ月間駆動するモデルを発表している。1996年には、腕時計として初めてエコマーク商品に認定されるなど、シチズンの象徴的な技術として普及していった。現在のエコ・ドライブでは、太陽光だけでなく室内のわずかな光でも受光してエネルギーに変換する、高い発電効率を実現している。

「クリストロンソーラーセル」

1976年に発売された世界初のアナログ式光発電時計「クリストロンソーラーセル」。ダイアル上に配置された太陽電池によって光を電気エネルギーへと変換する、現在のエコ・ドライブにつながるシチズンの光発電技術の原点だ。

 エコ・ドライブの原点である光発電時計を起点に、半世紀にわたる進化の中では、長時間駆動や薄型化といった性能だけではなく、デザインの自由度も追求されてきた。光発電時計は、発電のための光を取り込む必要がある。一般的なエコ・ドライブでは、ダイアルの下にソーラーセルを設け、そこに光を透過させることで発電する仕組みを持つ。そのためダイアルには、時計の顔としてのデザイン性と、発電に必要な光を通すという、ふたつの役割が求められるのだ。同社はこれまでにも、金属のような質感を表現したダイアルや、光を透過する和紙などを用いることで、発電性能とデザイン性の両立を図ってきた。

 しかし今回の新作で採用されたのは、これまでとは少し異なるアプローチだ。光を透過させる構造をあえて見せることで、それ自体を時計のデザインとして利用したのである。

エコ・ドライブ50周年を記念する「Eco-Drive PHOTON」

 こうして誕生したのが、エコ・ドライブ50周年記念モデルEco-Drive PHOTONだ。「CITIZEN CREATIVE LAB」から登場する本作には、シルバーカラーを基調とした「Ref.BJ6560-53W」と、ブラックとアンバーイエローを組み合わせた「Ref.BJ6569-59X」の2種類が用意される。それぞれ世界限定5000本が用意され、2026年10月1日より発売されている。

シチズン エコ ドライブ フォトン

シチズン「Eco-Drive PHOTON」Ref.BJ6560-53W
エコ・ドライブ50周年を記念して誕生した「Eco-Drive PHOTON」。二重スリット実験から着想を得た多層構造のダイアルを採用し、光を取り込むというエコ・ドライブの機能そのものをデザインへと昇華している。光発電クォーツ(Cal.E036)。フル充電時約1年駆動。Tiケース(直径39.6mm、厚さ9.9mm)。5気圧防水。世界限定5000本。14万8500円(税込み)。

シチズン エコ ドライブ フォトン

シチズン「Eco-Drive PHOTON」Ref.BJ6569-59X
ブラックとアンバーイエローを組み合わせたモデル。スリットの奥から構造色フィルムの鮮やかな色彩がのぞく。パープルの秒針もアクセントとなり、シルバーカラーモデルとは異なる表情に仕上げられている。光発電クォーツ(Cal.E036)。フル充電時約1年駆動。Tiケース(直径39.6mm、厚さ9.9mm)。5気圧防水。世界限定5000本。17万8200円(税込み)。

 モデル名の「PHOTON」とは、光のエネルギーが量子としてやりとりされる際の単位を意味する。その名の通り、今作では光そのものを中心に据えたデザインが与えられている。
Ref.BJ6560-53Wは、シルバーカラーの外装とダイアルをベースに、イエローの秒針でアクセントを効かせたモデルだ。スリットの奥からのぞく構造色を除けば、全体的に落ち着いた色使いにまとめられ、複雑な多層ダイアルの造形が際立って見える。

 Ref.BJ6569-59Xは、デュラテクトDLCによるブラックと、デュラテクトアンバーイエローを組み合わせた華やかな仕様だ。構造色に加えてパープルの秒針を組み合わせることで、同じ造形でありながら、シルバーカラーモデルとは大きく異なる印象を作り出している。

 ケース径は39.6mm、厚さは9.9mm。大胆で力強い外観に対して、コンパクトな寸法にまとめられている。ムーブメントには新開発の光発電エコ・ドライブCal.E036を搭載。一度のフル充電で約1年間駆動するだけでなく、回路設計を見直すことで、光発電でありながらも重い針を動かすことも可能となった。

二重スリット実験から着想を得たダイアル

 PHOTONのダイアルを特徴付けるのが、幾重にも重なったスリットだ。そのデザインの着想源となったのは、光の性質を示す実験として知られる二重スリット実験。本作では、光を透過させるスリットを設けた2枚の金属製ダイアルを重ね、その下に構造色を用いたフィルムを配置した。構造色とは、色素によって着色するのではなく、微細な構造によって光が反射・干渉することで発色する現象だ。さらにダイアルカバーにもスリットを加えることで、幾重にも層が重なった立体的なダイアルを作り上げている。

シチズン「Eco-Drive PHOTON」

PHOTONの多層ダイアルを示した分解図。スリットを設けた2枚の金属製ダイアルを重ね、その下に構造色フィルムを配置する。スリットを通過した光は、さらに下に配されたソーラーセルへと届き、発電に利用される。

 金属製のダイアルに刻まれたスリットは単純なパターンではなく、それぞれ異なる方向に設けられた線が重なり合うことで、光の干渉によって生じる縞模様を表現している。見る角度によって表情が変化し、その隙間から構造色フィルムによる色彩が現れるなど、平面的なダイアルでは得られない奥行き感が生まれているのだ。

 この構造は、機能的にも重要な役割を果たしている。スリットから光を取り込むことで、構造色フィルムの下に配されたソーラーセルに受光させ、エコ・ドライブを発電させることができるのだ。エコ・ドライブを搭載した多くのモデルでは、ダイアル自体に透過性を持たせることで発電する。かつ、そのことを外観上意識しにくいほどに、ダイアルの素材や質感を進化させてきた。しかし本作の場合は、光を透過させなければならないという制約を隠すのではなく、デザインと融合させ、エコ・ドライブの新たな表現に挑戦しているのである。

シチズン「Eco-Drive PHOTON」

多層構造のダイアルでは、異なる方向へ伸びるスリットを重ね合わせることで、光の干渉によって生じる縞模様を表現。隙間からのぞく構造色とイエローの秒針が、モノトーンの外装に彩りを添えている。

多層ダイアルを包み込む、独創的なチタン外装

シチズン「Eco-Drive PHOTON」

チタン製ケースおよびブレスレットのデザインからも、本作がシチズンの意欲作であることを感じさせる。なお、昨年はシチズンが、世界初の量産型チタン製腕時計をリリースしてから55周年を迎えた節目であった。

 強烈な個性を放つダイアルに目を奪われがちだが、外装にもPHOTONならではの見どころがある。ケースは八角形をベースとしており、そこからブレスレットへと滑らかにつながる一体感のあるフォルムを採用する。多角形ケースらしいエッジを残しながらも、全体を柔らかな曲面によってまとめることで、ダイアルの幾何学的かつ複雑なスリットとは対照的な、滑らかなシルエットを作り出している。

 ケースとブレスレットの素材には、シチズン独自のスーパーチタニウム™を採用した。これはチタニウムに独自の表面硬化技術であるデュラテクトを施したものであり、チタニウム特有の軽さを保ちつつ、輝きと耐傷性を向上させている。ブレスレットはひとつひとつのコマを短くすることでケースから滑らかにつながり、外装全体をひとつの造形としてまとめている。

 さらにバックルには、工具を使わずに長さを3段階、最大約7mm調整できるフィットアジャスターを搭載。風防には無反射コーティングを施したデュアル球面サファイアガラスを採用し、そこにロゴをプリントすることで、まるでロゴが浮遊しているかのようなデザインを実現している。防水性能は5気圧を確保し、日常生活での使用にも対応する。

シチズン「Eco-Drive PHOTON」

八角形をベースとしたケースからブレスレットへと滑らかにつながる、一体感のあるフォルムもPHOTONの特徴だ。ケースとブレスレットには、軽量なチタンにシチズン独自の表面硬化技術デュラテクトを施したスーパーチタニウム™を採用する。


光を通すというエコ・ドライブの制約を魅力に変える

 腕時計において、機能とデザインは密接に関係する。カレンダーやクロノグラフなどの付加機構が搭載されていれば、ムーブメントによってダイアルのレイアウトが制限される。ダイバーズウォッチであれば、防水性能を高めるためにケースや風防には一定の強度と気密性が必要になる。同様に光発電時計では、発電のために光をソーラーセルへ届けなければならない。一般的には、これらの技術上の制約を過度に感じさせることなく1本の腕時計へとまとめ上げることができるかが、デザイナーの腕の見せどころだろう。

 しかし本作では考え方を変え、制約を生かすという手法を選択した。すなわち、光を透過させているということを、見た目にも分かるようにしたのだ。加えて、二重スリット実験という光にまつわるモチーフと、その奥に配した光の反射・干渉によって発色する構造色を組み合わせることで、光という存在を最大限に生かしたデザインに仕上げている。

 PHOTONは、光発電時計であることを隠さない。むしろ、光を取り込まなければならないというエコ・ドライブの機能上の制約を積極的に見せることで、デザインへと転換している。エコ・ドライブの歩んできた50年間を振り返るだけではなく、その技術を支える光という存在を改めて見つめ直すことで、新しい腕時計の姿を提示したモデルなのである。

シチズン「Eco-Drive PHOTON」

ケースバックには、エコ・ドライブ50周年の記念ロゴと数量限定を示す番号を刻印。本作は各色世界限定5,000本で販売される。



Contact info:シチズンお客様時計相談室 フリーダイヤル Tel.0120-78-4807


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