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時計修理の現場から

【不定期連載】時計修理の現場から/神戸のアンティーク修理工房より(1/1)

 不定期連載、『時計修理の現場から』。今回は、ウェブクロノスのシステム担当者の祖父が愛用していたアンティーク枕時計(アラーム機能はなし)を、神戸の修理工房へ持ち込んだ。文字盤に記されているのは「O.JOSEPHSON & Co CALCUTTA / FRANCE MADE」。20世紀初頭、枕時計はイギリスやドイツに先駆け、フランスにおいて多く製造されていた。この時計はフランスで作られ、インドのカルカッタの時計店へ納品されたものと思われる。
 その話を修理依頼者にすると、彼の祖父はかつて日本の貿易商社に勤めており、おそらく当時、入手したものだろうと言う。そして同時に彼はふと、祖父がその頃にカルカッタやサンフランシスコなど、多くの国に滞在していた幼少期に聞いた話を思い出していた。アンティーク時計はじめ、受け継がれるモノにはそういった記憶を留める力があるから面白い。

修理工房情報

水谷時計修理工房

住所:兵庫県神戸市中央区下山手通4-11-7-102
電話:078-391-6110

修理をお願いしたのは、こちらの方

水谷 康夫さん

 先代である父親の店「水谷時計めがね店」の手伝いとして中学生の頃から時計修理に関わる。30歳で父親が他界し、後を継ぐにあたり「水谷時計修理工房」と改名。時計修理に必要な技術のすべてを習得する前に先代が他界したため、その大半が「必死に独学で見つけてきた」ものだという水谷氏。その実力は広く認められ、大名時計をはじめとした和時計から、大航海時代のマリンクロノメーターなど史料価値のあるもの、高級ブランドのタイムピースまで幅広い時計の修理の依頼を受けてきた。関西を代表するアンティーク時計修理士のひとりである彼の店は、町の小さな時計修理工房として50年以上愛され続け、現在に至る。

不調や故障の原因を仮定して、分解を進める

 まずは故障原因を仮定するところから。巻き上げ機構に問題があればゼンマイを巻き上げる際に違和感があるはずだが、その点には問題がなかった。ゆっくりとゼンマイを巻いて動力を確保し、ピンセットでテンプに触れたところ、数往復動いたのちテンプは止まってしまった。このことより、どこかが故障しているのではなく、油の固着に問題があると仮定してオーバーホールを進める。
 ゼンマイの巻き上げには太い筒、時刻合わせ用には細い筒と、2カ所に必要な筒の太さが異なるため、付属の鍵には上下それぞれに筒が付いている。

 分解を進めるに際し、まずは主ゼンマイをほどいてエネルギーを抜き、動きを完全停止させる。写真で筒を差し込んでいる部分が香箱真にあたり、その香箱真が地板の外で円心を貫く歯車が角穴車、それを囲むのがコハゼとコハゼバネである。
 ゼンマイのストッパーであるコハゼと歯車が外れた瞬間に主ゼンマイが高速でほどけてしまうことを防ぐため、写真左のように、コハゼと角穴車をしっかり押さえながらゼンマイをほどく。その後、上部にある調速機構から分解を進める。

 左は、テンプを外した状態。アンクルとガンギ車に被さるテンプ受けは、土台の始点と終点部分が空洞になっており、ここにピンセットを差し込んで、ゆっくりとケースから受けを浮かして外す。右のように調速脱進機のすべてを外し、その部分の地板もネジを緩めて分解する。地板に2本残っているのは、アンクルの動きを規制するドテピン。

 左は、ガンギ車を横から見た写真。カナ部分は古い油が固着して真っ黒になり、所どころで塊になっている。もちろんガンギ車だけでなく、他の部品に使われる油も同様に古くなり固まっている。ちなみに、このガンギカナは上部の調速脱進機から地板を貫いて、ケース内側の輪列と垂直に噛み合うため、カナが長く作られている。右の写真の輪列を見た時に、その最も左にある、傘の外周がギザギザになったような形状の歯車と噛み合う。

 輪列受けを外した状態。

 すべてを分解し終えたら、ひとつずつ洗浄を行う。洗浄液に浸すだけでは固まった古い頑固な油は落ちないため、ブラシや尖った木の棒を使ってしっかり細かく磨く。洗浄液はトリクレン(トリクロロエチレン)。

  洗浄後、再び輪列を組み直す。汚れが落ちたため、輝き方が先ほどまでとは異なる。
 香箱車から中間車を介した2番車にあたる3番目の歯車のホゾ上部が時刻合わせの突起となり地板からはみ出る構造となる。その反対のホゾ下部に分針が取り付けられる。またこの下部にもうひとつ歯車が重なり、これが筒車として時針が付く。
 輪列機構を組み終えたらこの時点でザラ回し(確認のために大まかに輪列を回転させること)を行い、組み立ての確認を行う。ここまでで問題がなければすべての歯車がサラサラと回転する。

 調速脱進機の組み立てへ。ガンギ車を置いたら、アンクルを組む前に受けを被せて、もう一度ザラ回しの確認を行う。ガンギ車のカナと歯車がちょうど良い間隔で噛み合っているかを確認するためだ。ふたつの距離が近すぎたり遠すぎたりしてうまく噛み合わないときには、調速脱進機を載せる地板ごと位置を動かして、ガンギ車のカナの垂れる位置を調整する。
 なおアンクルの形を見ると、19世紀初頭より使われていたイングリッシュレバー脱進機が採用されている。 

 アンクルを組み合わせたらもう一度、確認作業を行う。ゼンマイを巻いて動力を溜め、アンクルの竿の部分をピンセットで軽くつついて動かす。ドテピンの間でアンクルがピッと移動すれば問題ない。確認後、注油作業。調速脱進機の穴石とテンプの穴石にオイラーを使って油を注す。

 テンプの振り石をアンクルのハコの間に収めれば、組み立てが完了。地板と歯車の接触部に油をさす。

 平ヒゲが地板に水平に組めているかを確認。問題ない。時計が再び、ゼンマイの力で動き始めた。

 外装を組み立てていく。側面2枚と底面の1枚、4本の柱にはそれぞれ「81」のシリアルナンバーが刻印されていた。それに対して側面には「276✳︎28」という数字と記号が刻まれている。これはおそらく過去に修理された時に、担当の修理士が自身の記録用に手彫りで記したものだろう。

 風防とレザーケースに使われていたガラス板も洗剤で水洗いし、完成。鏡のような輝きを取り戻し、時計は持ち主の元へ戻っていった。
 
 今回のオーバーホール費用は1万5000円。1日密着させていただいた水谷時計修理工房の水谷さん、ありがとうございました。

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