この世ならぬ美味のクリエイター - 命への敬意と果てなき雄心

2018.07.20

命への敬意と果てなき雄心

松濤に静かに佇む、紹介制の一軒家レストラン。 狩猟免許を持つ料理人が手掛ける肉尽くしのコース、 その背景とフィロソフィーに迫る。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
蝦夷鹿のローストと エレゾ肉の盛り合わせ
手前のふたつは2歳の牡鹿のヒレ。奥は1歳の牝鹿の心臓。フランス産のセップ茸とジロール茸と共に、ブランデーとグリーンペッパーが 高貴に香るポワプルベールのソースでいただく。ムニエルにした鹿のセルヴェル(脳みそ)は、クリーミーで白子のよう。鹿のセルヴェルやヒグマ、蝦夷雷鳥などの稀少食材を使った料理は、入荷によるが、希望する場合は予約時に記載を。

 目の前で注がれる澄んだ蝦夷鹿のコンソメスープから始まり、ピュアでなめらかなブーダンノワール、自社で製造するシャルキュトリの盛り合わせなどが続く。メインディッシュでは「2歳牡鹿のヒレと1歳牝鹿の心臓」といった性別や月齢、部位の異なる蝦夷鹿や短角牛、放牧豚などが2種以上登場し、食べ比べを堪能できる。「皿を通して、もう一歩踏み込んだ食体験をしていただきたい」と語るのは、エレゾ社の創業者であり、料理人でもある佐々木章太氏。

 始まりは2004年に遡る。佐々木氏は、北海道の帯広にある実家の店を手伝うために帰郷。その時、ハンターが持ってきた蝦夷鹿に感銘を受けたことを機に、エレゾ社を立ち上げる。十勝・豊頃町にラボラトリーを建設し、肉の狩猟、流通、加工をすべて自社で行う体制を整えていく。社員全員が料理人兼ハンターであり“食肉料理人集団”の異名をとることに。

創業時に、佐々木氏が書いた1枚の紙がある。そこには、自社一貫生産管理体制の詳細が書かれていて、各部門の役割からジビエの種類に至るまで、まるで現在を説明したものにもとれ、およそ10年前の目標を着実に具現化してきたことがよく分かる。すべては、命ある肉への敬意を信条に、本質を追求した結果。そこに、料理人としての技術が加わり、語るべき背景を持つ皿が生まれた。「エレゾハウス」は“命ある状態から、皿の上までのすべてを担う”という独自のスタイルを表現する場でもある。

 豊頃町の高台に立ち、大津港を見渡しながら佐々木シェフは語る。淡々と物静かに、それでいて強い意志が伝わる口調で「食をベースに過ごせるオーベルジュを、この場所につくります」と。

 これからの10年も着実に思い描く夢を実現していくだろう。それは、日本の食肉文化においても大きな意味を持ち、掛け替えのない役割を果たしていく。

佐々木章太 Shota Sasaki
1981年、北海道生まれ。料理専門学校卒業後、都内の有名フランス料理店などで研鑽を積む。2003年に帰郷し、2005年に十勝にてエレゾ社を創業。「生産狩猟」「枝肉熟成流通」「シャルキュトリ製造」「レストラン」の4部門から構成され、肉における自社一貫生産管理体制のもと運営する。2016年、東京都渋谷区松濤に紹介制レストランを開業。

目の前でシェフが料理を仕立てる様子を楽しむことができる1階のメインカウンター。最大8人まで座れ、5人以上で貸し切りに。庭に面した個室や8~10名で利用できる重厚感あふれる個室も完備。


エレゾハウス
住所および電話番号は、紹介制のため非公開
不定休
ランチ:木~土12:00一斉スタート
ディナー:19:00一斉スタート
ランチコース:1万7000円~、ディナーコース:2万5000円~
(稀少食材希望の場合はご提示金額に追加3000円)
共にワインペアリング付き、消費税・サービス料込み