「Z」を超える「プロジェクト Z12」 / HARRY WINSTON

2018.10.05

プロジェクト Z12
吊り橋の主塔を模したブルーのブリッジを挟み、上の半円で12時間、下の半円で60分をレトログラード式で表示。さらに外周に日付表示を配し、すべてが同心円を成す。ムーブメントも専用に開発された新型を搭載。自動巻き(Cal.HW3306)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ザリウム™(直径42.2mm)。10気圧防水。世界限定300本。285万円。

マンハッタン・ブリッジが導く新たなレトログラードのかたち

 時計産業では異例の特殊なハイテク素材「ザリウム™」でケースを作り、独創的なオフセンター表示のダイアルを採用して2004年にファーストモデルが誕生した「プロジェクト Z」シリーズ。その12作目は、ダイアルに一段と斬新な趣向を凝らす。レトログラード式の時間および分表示と日付表示を同心円にアレンジするという、シリーズでは異例の手法である。ひとつひとつが異なる個性を有する稀少な宝石のように、この時計もまたハリー・ウィンストン流のユニークネスの表現だ。

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
菅原 茂:文 Text by Shigeru Sugawara

 ニューヨークに本店を構える世界屈指のジュエラー、ハリー・ウィンストンは、時計の創作でも宝石と同様に、ふたつとないユニークネスに価値を見いだす姿勢が徹底している。1作ごとに異なる驚異的な複雑時計によってシリーズを構成してきた「オーパス」や「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン」はその象徴だ。

 ブランドを代表するラグジュアリースポーツウォッチ「プロジェクト Z」もそうだ。14年前に始まり、今年12作目が誕生したシリーズに共通するのは、「Z」すなわちアルミニウムとジルコニウムの合金でチタンより軽く硬質なハイテク素材「ザリウム™」。この独自に開発した特殊合金の採用により他と明確に一線を画す。シリーズ初作からオフセンターの時刻表示やレトログラード、特異なアラームやデュアルタイムなど、機能面で変幻自在に趣向を凝らし、さら10作目からは大胆なオープンワークでダイアルにダイナミックな立体感を生み出すなど、どのモデルも独自の個性を持つ。

HWオーシャン・ビッグデイト オートマティック42mm
2017年に発表された「プロジェクト Z11」の建築的なデザインと自動巻きムーブメントをそのまま用いながら、ケース素材をザリウム™からゴールドに置き換えた派生モデル。貴金属ケースやダイヤモンドの装飾により一段とラグジュアリーな趣が高まった。自動巻き(Cal.HW3206)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ケース直径42.2mm、10気圧防水。上は18KRG。450万円。下は18KWG、バゲットカット・ダイヤモンド91個。世界限定20本。1245万円。

 今年の「プロジェクト Z12」は、従来のスタイルをさらに超えた、極めて特異な個性の持ち主だ。まさにハリー・ウィンストンらしい「創造的進化」の真骨頂である。マンハッタン・ブリッジを支える鋼鉄製の主塔を思わせるブルーのアーチの下に展開するのは、ルーレットのように同心円を描く二重の数列と、赤いポインターを配した2本の針だ。多層構造の複雑なフェイス、そして最近の作に顕著なオープンワークの意匠を見れば、紛れもなく「Z」の伝統的なコードを踏まえていると認識できるが、同シリーズでこれほどのシンプルかつ完璧なシンメトリーなデザインは前例がない。

 前例がないといえば、時刻表示も同じ。針の1本は時針、もう1本は分針だが、これらは360度を描く通常の回転運動のように見せかけて、それぞれ140度のセクターで反復するレトログラード式。従来のオフセンター表示を採用しない代わりに、自ら得意とするレトログラード機構によって視覚を欺くイリュージョンを仕掛けた。意表を突く離れ業もさることながら、それと表裏一体になった遊び心が大いに魅力的である。

 さらに、ハリー・ウィンストンは、昨年発表した「プロジェクト Z11」のデザインをベースとした、素材違いのモデルによってクリエーションの幅を広げた。「Z」の名を持たない絶妙なスピンオフとも言うべきものだが、これも、終わりなき「Z」の創造的進化を語る新作だ。ここにも、似ていながら同じではない、ユニークネスの法則が見て取れる。



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