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誰のための、何のためのバーゼルワールド?(1/1)

ウォッチジャーナリスト渋谷康人の 役に立つ!? 時計業界雑談通信

誰のための、何のためのバーゼルワールド?

Text & Photographs by Yasuhito Shibuya

2018年3月21日、プレスデイでまだ人の少ないホール1のメインエントランス。まさか、こんな風になることはないでしょうが……。


 スウォッチ グループが去った世界最大の時計宝飾フェア「バーゼルワールド2019」が、いったいどんなフェアになるのか。疑心暗鬼の時計関係者は多いはずだ。本稿の執筆時点(12月上旬)で2019年3月21日の開催初日まで約4カ月を切ったが、その中身は依然としてハッキリしない。

 バーゼルワールド直後の5月にマネージング・ディレクターが交代し、7月には18ブランドを擁するスウォッチ グループが撤退を表明。この「事件」でドミノ倒しが起こり、バーゼルワールドの最高責任者だった親会社MCH社のCEOが辞任する事態に至り、時計業界に激震が走ったのはご存じの通り。バーゼルワールド事務局は出展社数の減少で約1億スイスフラン(約113億円)の赤字を出したとの報道もあった。
事務局はその後、独立時計師を厚遇する、会場の中央にジュエリーブランドのためのショーステージを設ける、高級レストランやケータリングブースの設置、ホテル業界との料金協定など、多様な「改革」をニュースレターで告知。また最近は大手時計ブランドのトップからプレスまでさまざまな人物が登場し、新形態のバーゼルワールドへの期待を表明している。

 しかし事務局からのこうした情報を総合して浮かぶ最大の疑問は、バーゼルワールドが「いったい誰のための、何のためのものか?」が相変わらず曖昧なことだ。

 ファッションでも何の見本市でも、いま問われているのはこのふたつ。新作プレゼンテーションの方法が多様化し、出展がステイタスになる時代が去った今、高額な出展料を払って見本市にブースを構える理由はない。「誰のために、何のために存在しているのか」、またどんなメリットがあるのかを明確にする必要がある。バーゼルワールドの場合、バイヤーやプレス、顧客のニーズはそれぞれに異なる。そのそれぞれに「高い航空運賃とホテル代を払ってもやはりバーゼルワールドに行かないとダメだ。絶対に行かなければ」と思わせる魅力が必要だ。

 ニュースレターでプレスのひとりが少し言及していたが、25年近く旧バーゼル・フェアおよびバーゼルワールドに毎年プレスとして足を運んできた筆者にとって、バーゼルにしかない魅力は「昨年とは違う、新しい何かに出会えるワクワク感」と、そのワクワク感を生み出す出展社の多様性だった。ラグジュアリーな一流時計宝飾ブランドの新作プレゼンテーションももちろん不可欠の要素だが、この多様性から生まれるワクワク感こそバーゼルワールドの神髄。このふたつの要素の共存こそ、バーゼルワールドの懐の深さであり最大の魅力だった。その意味で2017年、事務局が掲げた「ラグジュアリーブランド重視」としか読めない「再構築宣言」は、これまでの歴史を無視した唐突で無理なものだったし、自滅への道だと思う。超高額な出展料を劇的に下げ、出展ブランドの合意と協力の下で、この「共存」をハッキリとバーゼルワールドのコンセプトに掲げてくれたらいいのに。そう思うのは筆者だけだろうか。


バーゼルワールドで最大級のブースを構えてきた「スワロフスキー」も撤退を決めた。一方、中堅時計ブランドの中には、多数のブランドの撤退で「これまでより存在感が高まる」と期待するところもある。
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