松山猛の台湾発見/オーダー天国

LIFE松山猛の台湾発見
2019.03.16

「近過去・近未来」

点心の名店、「鼎泰豊(ディンタイフォン)」。現在では日本を含む国外にも広く進出している。写真は台北の本店で松山氏が撮影したもの。キッチンの一部がガラス張りになっており、店内から小籠包を作る様子を見ることができる。

 急激に変化する台湾社会。そこには伝統の味も残されれば、新しい生活感覚に根ざした新型大書店が登場しもする。台北はすでに我々が考える以上に国際化している。英語を自在に操る新台湾人たちのアイデアがきらめくのだ。豪華な食事もいいが朝からというわけにはまいらぬ。朝や昼にはそれなりの美味求心という人にお薦めなのが台北一と呼び声の高い点心の店、「鼎泰豊(ディンタイフォン)」なのである。中国の粉食は名高いが、ここ「鼎泰豊」の小籠包や蒸餃子、焼売は実に実にうまい。さらに各種麺類や名物の元盅鶏湯、牛湯の奥深い味を知れば、もう立派な台北通=老台北の仲間入りができよう。
 昔は食用油を商う商店だったが、サラダ油の登場のために転業。しかしそれが大当たりであった。よそに比べて小型の小籠湯包などは親指大で、そのために製作に時間がかかる。しかし、どのメニューも上品にして、滋味があって、粉食好きの心をよく捉える味を出しているのである。
『ニューヨーク・タイムズ』の食のコラムで、世界十大美食のひとつ、と紹介されてからは、さらにその人気は世界的となった。相変わらず小さな店だが、少し待つ気なら必ず食べられる。小麦粉の皮が軽快であり、蒸す時間も絶妙で、こんなにと思うくらい食べられる。毎日でも行きたくなる魅力でいっぱいの、台北お薦めスポットのひとつである。
 腹に満足を与えたら自動車製造の「国産汽車」や建設、不動産、投資会社などを有する台湾有数の大企業の鴻禧グループが開いた私設美術館、鴻禧美術館へ行ってみよう。
 会長の張添根さんは約50年の美術品コレクターである。張さんの三男、張秀政さんが建てた、仁愛路沿いの大ビルディングの地下に、この美術館はある。故宮へ行きたいが時間がないといった忙しいビジネスマンの中にも、出張の折のひと時、ここを訪れる人が多いらしい。  
 会長が70歳の時、コレクション保全のために開館することを決めたとか。今や台北の新名所となった。
 明、清代の書画、陶磁の精品や近代の人では張大千の画が多くコレクションされていて見応えあり。
 地下なのに吹き抜けの庭園もあって、賑やかな市街から一歩ここへ入ると、別世界が広がる。館長は英国人だが、副館長の慶さんはキャリア豊富な女性だ。  
 中国は古くて新しい、それが実感できる空間である。

松山猛プロフィール

1946年8月13日、京都市生まれ。
1964年、京都市立日吉が丘高等学校、美術工芸課程洋画科卒業。
1968年、ザ・フォーク・クルセダーズの友人、加藤和彦や北山修と共に作った『帰ってきたヨッパライ』がミリオンセラー・レコードとなる。
1970年代、平凡出版(現マガジンハウス)の『ポパイ』『ブルータス』などの創刊に関わる。
70年代から機械式時計の世界に魅せられ、スイスへの取材を通じ、時計の魅力を伝える。
著書に『智の粥と思惟の茶』『大日本道楽紀行』、遊びシリーズ『ちゃあい』『おろろじ』など。