CHANEL THE NEW J12

FEATURE本誌記事
2019.04.04

The New J12 Exterior Made by G&F Châtelain

J12に成功をもたらした要因のひとつは、フルセラミック製のケースとブレスレットにある。その製造を担うシャネル傘下のG&F シャトランは2004年以降、その製造技術をいっそう磨き上げ、ついに、セラミック製の一体型ケースを与えることに成功した。

J12 ブレスレット

完成したセラミック製ブレスレットの洗浄工程。研磨工程を経た外装部品は、ひとつひとつ洗浄された後、組み立て工程に回される。入念な洗浄が必要なのは、ポリッシュの工程において洗浄液と人工ダイヤモンド粉を混ぜた溶液の中で、すべての外装部品を研磨するため。少しでも洗い残しがあると、部品に傷が付いてしまう。

 セラミック製のケースとブレスレットを完全に内製するのが、ラ・ショー・ド・フォンにあるG&F シャトランだ。2019年版のJ12が一体型ケースに進化した理由は、先述したように、G&F シャトランのセラミック製造技術がいっそう向上したためだった。

 アルノー・シャスタン氏が述べたように、2000年から04年までのJ12は、切削によるセラミックケースを持っていた。しかし、それ以降はインジェクション成型に替わり、今や、裏蓋を含めて、ケースを一体成型できるまでになった。加熱すると約30%収縮するセラミックは、一体型ケースを作るのが難しいとされる。切削で一体型ケースを製作するのは可能だが、コストがかかってしまう。対して、インジェクション成型での一体型ケース製造は、コストを抑えられる半面、原型を精密に成形し、むらなく加熱する必要があった。G&F シャトランには、幸いにも均一に熱を加えるノウハウがあった。それこそが、一体型ケースの採用に踏み切れた理由である。

 ケース構造は変わったが、J12の個性でもある優れた装着感は何ら変わっていない。例えば、セラミック製のブレスレット。ステンレススティール製の高級なブレスレットに比べるとコマ間の遊びはやや大きいが、かつてブレスレット専業メーカーだったG&F シャトランらしく、その味付けは絶妙だ。セラミック製のブレスレットは、コマ同士の間隔を詰めすぎると、接触して欠ける可能性がある。そこでG&F シャトランは、コマの間にあえてクリアランスを設けて、優れた装着感と、高い耐久性をもたらしたのである。また、2019年版のJ12は、ブレスレットのコマの湾曲を強くし、より腕なじみを改善した。通常であれば、旧作のブレスレットをそのまま流用するのが定石だが、シャネルはそれを良しとしなかったわけだ。

(左)つなぎとなる有機バインダーと混ぜ合わせた状態の素材。セラミックの製造工程は、汚れやゴミなどが入らないよう、基本的には人の手を介さずに行われる。これはブレスレットのコマ。
(右)SS製ベゼルに磨きを施す工程。


(左)セラミック製ケースの研磨。磨き粉にあたるポーターと水を混ぜて適切な温度で撹拌し、磨き上げる。
(右)特殊な溶剤に浸して有機バインダーを抜く工程。この処理は数時間かけて行われる。

 G&F シャトランのお家芸であるセラミック製のケース製造も従来に同じだ。ケースの素材となるのは、酸化ジルコニウムの塊を潰して粉末状にした粒子である。そこに有機バインダーを混ぜてペースト状にして、このペーストを40t/㎠の圧力で金型に注入して固める。その後、溶剤に浸して有機バインダーを取り除いて焼結させれば、大まかな外装の完成となる。バリ取り、正確なサイズを与えるための研削、研磨、そして艶出しを経て、セラミック製の外装は完成する。これらの作業には2日間を要するが、最も重要な艶出しには10時間から12時間かかるとG&F シャトランの関係者は語る。「大事なのは磨き粉にあたるポーターと水、そして温度。ノウハウだから重要な部分は言えない」。詳細は不明だが、J12のセラミック製の外装が貴金属のような光り方をするのは、このノウハウがあればこそ、である。

 バネを内蔵したシンプルなフォールディングバックルも、J12の大きな個性だ。以前のものに比べてプレートが短くなり、やや厚みを増したが、ホールド感は高まり、細腕にもなじみやすくなった。以前と比べて、支えるバネが硬いように感じたが、シャネル曰く、「3万回の開閉テストに耐えられるだけのバネ力を与えたため」。シンプルで使い勝手が良く、そして耐久性が高いというのは、まさにJ12のキャラクターそのものと言える。

 次項では、〝変わらない〞J12の最も大きな変更点である、マニュファクチュールムーブメントについて述べる。

(左)J12の特徴である三重の折りたたみバックル。底に通した1枚の金属板が、バックルを固定するバネの役割を果たす。
(右)ブレスレットの組み立て工程。剛性はあるが、決して剛直でないのは、ブレスレットのコマに絶妙な遊びを持たせたため。


(左)ケースの防水検査。
(右)針の取り付け工程。文字盤と針のクリアランスを詰めてあるため、針の取り付けはすべて人の手で行われる。