巻き返しの準備が整ったか? ポラールVantageシリーズを使ってみた/本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2019.04.19
Vantage M

ポラール「Vantage M」
Vantageシリーズのミドルクラス機、「M」も2019年2月より日本で展開が開始された。「V」よりもバッテリー持続時間が10時間短い約30時間になったほか、タッチパネル操作やパワー計測機能が省かれているが、価格は半額近くに抑えられて、さらに重量も45gと軽量化を果たしている。230mAhリチウムポリマーバッテリー。トレーニングモード(GPSと手首型心拍計)で約30時間のバッテリー持続。SS(直径46mm、厚さ12.5mm)。45g。シリコン製ストラップ。30m防水。3万7800円(税別)。

安価かつ軽量なVantage Mが登場

 この新世代シリーズには、Vantage Mというミドルクラスの製品も発表されていたが、日本には投入されていなかった。Vantageシリーズの本体用ソフトウェアが日本語化されていなかったことも理由のひとつだという。

 しかし、2019年2月の本体用ソフトウェアのアップデートでいよいよ日本語にも対応。このアップデートに合わせて、日本でも発売されたというわけだ。同時に、先行して日本に入荷していたVantage Vも日本語に対応した。価格は3万7800円(税別)と同種の製品としては低めに抑えられている。

 Vantage Mは心拍計測を伴うトレーニングでのバッテリー持続時間が約30時間と短くなってはいるものの(Vは約40時間)、省電力な反射型液晶、ソニー製最新GPSチップなどは共通だ。タッチパネル操作やスマートフォンからの通知機能、内蔵スピーカー、パワー計測などは備えていないが、心拍センサーやGセンサーの精度は共通。ランニングや自転車、スイミングなどでの使用上の差異はほとんどない。

 その上、低価格かつ重量もバンド込みで45gと極めて軽量だ。両モデルとも試用してみたが、パワー計測の結果を日常的に記録しておく必要がないのであれば、Vantage Mで十分というのが率直な意見だ。タッチパネル非搭載は、むしろ誤動作を防げるという意味ではポジティブな要素とも言えるだろう。

 バッテリーは1日に1時間ほどのトレーニングを行いつつ、日常での心拍モニターを常時行うよう設定していても、少なくとも3日以上は無充電で利用できる。

 最近になって、スポーツクラブのプールでも、サポーターなどでカバーしていればスイミングセンサーの装着を許可する動きが広がっており、こうしたスポーツに特化した製品はその価値が高まってきたとも言える。

巧みな常時装着への誘惑

 Vantageシリーズは、Vにスマートフォンの通知機能などが装備されているが、スマートウォッチという分類とは少し異なる製品だ。スマートフォンと連動できるGPS搭載スポーツウォッチであり、純粋にアスリート向けと考えるべきだ。

 パワー計測機能以外に優位性として感じたのが、常時、Vatageシリーズでトレーニングと日常生活を記録することで、トレーニング計画をより綿密に行えることである。この機能はVatage Mでも利用できる。

 本機では「Polar Flow」というアプリ/クラウドサービスで検出したデータを管理するが、過去のトレーニング履歴から、肉体への負荷と心肺機能への影響度などを積算し、グラフで見せてくれる。

 例えば、肉体への負荷が高まっているときは、トレーニングで高まっている心肺機能が再び元に戻らない範囲で休息を取り、十分に身体が回復したあとでトレーニングすることで、けがのリスクを抑えながら効率よく心肺機能を高めていける。

Polar Flow

毎日の使用により蓄積したデータはPolar Flowで確認することができる。同サービス内の「トレーニングロード Pro」はこのデータから肉体の負荷と心肺機能への影響を計算し、教えてくれるというものだ。写真は同機能を用いて心肺機能向上用トレーニングをするための手助けになる「心肺運動負荷のビルドアップ」。赤の縦棒はトレーニングによる心肺への負荷、紫のグラフが肉体負荷の蓄積で、青いグラフは心肺能力を示す。このグラフを見ると、心肺機能が低下していく前に、肉体が負荷から回復していることが分かる。これを参考にすることで適切に休息日を入れ、けがのリスク(肉体負荷)を適度に抑えながら心肺能力を高めていくことができる。

「トレーニングロード Pro」と名付けられたこの機能を使いこなせば、効率的に心肺能力を高めていくことができる。

 実際に筆者がこの記事を書き上げるまでの間、一度もVantageシリーズを外さずに過ごしてみたが(Mを充電中はVを装着)、トレーニングの過不足を的確に指摘してくれる点はありがたい。

トレーニングロード Pro

トレーニングロード Pro

 残念なことに音楽再生機能を備えていないため、ランニング時には右腕にApple Watchを同時装着したが、左腕は常にVantageシリーズを装着していたくなった。外してしまうと、こうした負荷の積算をきちんと行えないためだ。

 実際、トレーニングロード Proのアドバイスに従ってトレーニングを繰り返したところ、ランニングインデックス(簡易VO2MAX:最大酸素摂取量)の値は、48だったものが56程度まで、最高60まで上昇した。

 こうした“トレーニング履歴の積算”によって、具体的な利点を体感してしまうと、腕から外したくなくなる。毎日使いたいと思う製品は、次の世代でも同じ製品を使いたいと思う。単に記録して振り返るだけではなく、履歴の積算によって結果が見えてくるというのは、巧みな常時装着への誘惑だ。

Polar Flow

Polar Flowで確認できる1週間のログ。いつ、どのようなトレーニングをどれほど行ったのかが一目瞭然だ。右下のアクティビティー効果では1週間の運動に対する取り組みを評価してくれる。

“狭い領域”に投入された“尖った製品”

 どうやらポラールの戦略は、10人のうち9人には刺さらなくとも、スポーツで身体機能を向上させたい“ひとりだけ”に訴求するというもののようだ。先達にはガーミンの製品があるが得意とする要素が異なる。

 一方で、まだ改良が施せる部分はありそうだ。

 本機はA-GPS対応のため、リンクしているスマートフォンと組み合わせれば、すばやくGPS信号をキャッチできるはずだが、筆者が使っている範囲内ではGPSのキャッチが遅く、なかなかランをスタートできないこともあった。

 また、日本独自のGPS衛星である「みちびき」にもまだ非対応。こちらはソニー製のチップが対応しているため、将来、ファームウェアのアップデートで対応できることを期待したい。このあたりは、もともとGPSを基本とした製品で伸びてきたガーミンの経験が他社にも生きている部分だろう。

 一方で心拍計測の精度、応答性は極めて高い。睡眠トラッキングの精度の高さ、トレーニングロード Proの存在など、スポーツに特化したウェアラブルデバイスを長年開発してきたノウハウが生きている部分でもある。

 かつての黄金時代を知る者からすると、長いスランプにあったポラールのスポーツウォッチだが、いよいよ巻き返しの準備が整ってきたと言えるだろう。

本田雅一

本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。

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