ライバル不在を示した新型Apple Watch。ライフスタイルを変える存在に近付く

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2019.09.12

“ディスプレイ常時点灯”でバッテリー駆動時間が変わらない理由

 series 5には電子コンパスが搭載され、それ以外にもさまざまなデバイス回路(たとえば常時点灯を実現するOLEDドライバなど)が置き替えられたり、内蔵フラッシュメモリ容量などが異なったり(16Gバイトから32Gバイトに倍増)している。

 これらをひとつに封入したシステムパッケージは、S4からS5と名称を変えているが、動作速度はまったく同じだ。

 また、GPSと電子コンパスによって、スマートフォンの助けを借りずに自分の位置や向いている方向を検出できるようになった。電子コンパスは時計を向けている方向も検出するため、例えば今いる位置から見える星座を教えてくれるアプリや、近くにある評判の店がある方向を教えてくれるアプリなどにも使うことができる。

 しかし、最も注目されているのは約18時間という連続駆動時間をそのままに、常時盤面ディスプレイを表示可能になった点だ。そのために低温多結晶酸化物(LTPO)という新素材を用いた新しいディスプレイを採用したとアップルはアナウンスしているが、実はseries 4から同じ技術を採用し続けている。

 もっとも、LTPOと書かれてもピンと来ない読者も多いだろう。

 それもそのはずだ。LTPOとはディスプレイ方式ではなく、OLEDや液晶ディスプレイを動かす際に使われる薄膜トランジスタ(TFT)に使う素材である。一般的なTFTに比べ、LTPOは低消費電力という特徴があるが、昨年採用されたLGディスプレイ製のパネルは期待したほど低消費電力にはならなかった。

 そこで、どうやら今年は日本製のディスプレイに置き換えられたという(おそらくジャパンディスプレイ製だろう)。低消費電力のLPTO TFTを用いたOLEDは、毎秒1回まで書換速度を落とす(上げることもできる)ことで、大幅な消費電力の削減を実現した。

Apple Watch series 5

 ちなみにこれまでならばブラックアウトしていた、いわば“休み時間”は書換サイクルを1Hzまで落とす。なお、この時は秒針表示も行わない。滑らかな秒針の動きが再現できないからだ。加えて設定されているのが明るい盤面であっても、この休み時間では黒ベースの点灯画素が少ないデザインへと切り替える。

 なぜなら、OLEDは画素ひとつひとつが光源であるため、光っている画素が少ないほど、また暗いほど電力消費を減らせるからだ。このためにwatchOS 6の盤面には、通常時と休止時の両方のデザインが組み込まれている。

ヘルスケア領域に踏み込むアップル

Apple Watch series 5

 このように盤面の常時表示という、これまでのディスプレイ型スマートウォッチにはなかった機能の実現を達成したアップルは、従来のseries 4をカタログから落とした上で、series 3を購入しやすいエントリーモデルとして残した。

 もっとも、この発表会でアップルが伝えようとしたのは、ハードウェアの更新よりも、コラボレーションによって新しい価値が生まれようとしていることだ。常時、心拍を計測、記録しながら動作しているコンピューターがあることで、人々の健康についてより多くの情報が集まり、時に命を救う存在になっている。

 もともとのApple Watchは、活動量を記録しながら健康アドバイスを送る「ウェルネス」領域の製品だった。それが心拍計を搭載し、さらに省電力化で常時計測を始めると、心疾患の予防に役立つ情報が得られるという、アップル自身も開発時には想像してなかった効果を知るようになった。

 発表会ではApple Watchのユーザーから寄せられた手紙が紹介されている。

 妊娠中に心拍が222にまで上がり、警告が発せられたことで感染症による心拍上昇を知ることができた女性は今、お子さんと元気に暮らしているという。

 1年先に心疾患を患う可能性をECG(心電図)計測で知らされ、ドクターの診断を受けて事前に自分の持つリスクについて知ることができた男性もいる。昨年サポートされた転倒検出により助かったという方も、もちろんいることだろう。

 ヘルスケア領域はもちろん、ECG計測機能を持つようになることでApple Watchはメディカル(医療)の領域にまで踏み込もうとしている。

 そんなスマートウォッチが、すでに数1000万という人の手首に巻かれている。そこで「Apple Health Study」というアプリを、まずは米国で提供。このアプリでは、心電情報、騒音による聴覚障害、女性の月経サイクル、心拍の変化など、さまざまな切り口から体調変化を記録。各ジャンルのオーソリティである研究機関や大学にデータを提供することで、病気の予防や検出を可能にしようという取り組みを行っていく。

Apple Watch series 5

 上記のうち一部は“機能”としてもwatchOS 6に組み込まれており、騒音の大きな環境での警告や月経管理のアプリは標準で利用可能となっている。今後もApple Health Studyでの研究成果は、毎年のアップデートの中で生かされていくことになるだろう。