ゼニス「エル・プリメロ」が変革したクロノグラフの歴史

FEATUREWatchTime
2020.10.14

100分の1秒計測を可能にしたデファイ エル・プリメロ21

デファイ エル・プリメロ

デファイ エル・プリメロ21はクロノグラフによる計測が100分の1秒単位で可能になった。写真はチタンケースモデル。自動巻き(Cal.エル・プリメロ9004)。53石。3万6000振動/時(通常輪列)。パワーリザーブ約50時間(通常輪列。Ti(直径44mm)。10気圧防水。117万円(税別)。

 2017年のバーゼルワールドで、ゼニスは約10分の1秒ではなく、約100分の1秒の経過時間の計測ができる時計を発表した。もともとこの機構はクォーツウォッチにのみ搭載されていたものだが、ゼニスの「デファイ エル・プリメロ21」はそれを、Cal.エル・プリメロ9004を搭載することによって実現した。この入念に作り上げられたムーブメントは、通常輪列のほかに、100分の1秒クロノグラフ計測用の36万振動/時という高速振動専用輪列を組み合わせたものである。

 ゼニスはここでもオリジナルモデルが持つアイデンティティーに対して忠実であった。すなわち、通常輪列側の振動数は1969年から続くオリジナルバージョン同様、3万6000振動/時なのだ。なめらかな秒針の動き、高精度の時間計測、独特な駆動音など、このケースに内包される機械式ムーブメントの存在感は、より一層大きくなった。

 なお、クロノグラフは振動数が10倍なら、ゼンマイがほどけきってしまうスピードも10倍である。つまり約50分の駆動時間でそのパワーリザーブを消耗してしまうのだ。そして通常輪列用と高速振動専用輪列の香箱は、それぞれリュウズによって巻き上げが可能である。時計回りに巻き上げるとクロノグラフ用(=高速振動専用輪列)の主ゼンマイを巻き上げ、反時計回りに巻き上げると、通常の時刻表示用の主ゼンマイを巻き上げるのである。

エル・プリメロ9004ではクロノグラフ機能、時刻表示機能それぞれが専用の輪列を保持する。

 100分の1秒を計測するクロノグラフ針は、文字盤センターに配され、秒積算計は6時位置のサブダイアルで表示される。クロノグラフ用輪列のパワーリザーブは約50分しか持たないため、1969年発表のオリジナルのエル・プリメロにはあった12時間積算計は外されている。オリジナルモデルと今回のモデルに見られる、デザイン上の共通点は否定しようがない。秒針は9時位置に配され、ケース径は44mmと拡大した。

 50年を経て、ゼニスは再び、この価格帯における量産タイプの毎秒10振動ムーブメントを搭載し、自動巻きクロノグラフにおいて、ほかにライバルはいないことを証明してみせた。エル・プリメロは、69年以来その基準を守り続けてきたのである。今後発売されていく新バージョンも理論的に、この伝統を踏襲するであろう。このようにして時計のムーブメントそれ自体が、多くの熱心なコレクターから支持される、伝説となり得たのである。3万6000振動/時以上の振動数を持ったクロノグラフがほとんどないというこの状況こそが、エル・プリメロを時計コレクションに「なくてはならない」存在としているのであろう。

クロノマスター エル・プリメロ フルオープン グランドデイト

クロノマスター エル・プリメロ フルオープン グランドデイトでは文字盤側からムーブメントの様子が見て取れる。130万円(税別)。