飽きを感じさせない巧みなリバーシブル/コニサーズ・チョイス

2019.11.06

飽きを感じさせない巧みなリバーシブル

英国王室御用達のアウターブランド、グレンフェルから登場したのは、リバーシブル仕様のコート。ありそうでなかった伝統的な素材を組み合わせたコートは、着る者にさまざまな恩恵をもたらしてくれる。

押条良太(押条事務所):取材・文 Text by Ryota Osujo
吉江正倫:写真 Photograph by Masanori Yoshie

グレンフェル スターリング

グレンフェル スターリング
定番ステンカラーコート「キャンベル」がリバーシブル仕様にアレンジされた「スターリング」。今シーズン、そのスターリングがリモデルされ、「スリム キャンベル」モデルに進化を遂げた。ハウンドトゥース柄のハリスツイードとベージュのグレンフェル・クロスが組み合わされており、スタイリングや気分に合わせて着ることができる。モデル名の由来は、英国の伝説的なレーシングドライバー、スターリング・モス氏から。シルエットは現代的なスリムにアレンジされているが、ジャケットの上から着ても窮屈さを感じない程度のゆとりが確保されている。18万円。

 脳科学の世界では「人間の脳は一定の刺激に対し、7年間で飽きを感じるクセがある」といわれていている。この「飽きる」ということ実は脳の偉大な才能であり、人間は定期的に変化を繰り返すことで生存の可能性を高めてきたのである。事実、ファッションの世界にも「一生モノ」と呼ばれる 数々のアイテムがあるが、長年使っているうちに飽きを 感じ、着なくなってしまうものも少なくない。

 では真の一生モノとは? 1923年に英国で創業したグレンフェルがリリースした「スターリング」は、その答えのひとつとなる逸品だ。ベースは「キャンベル」と呼ばれる定番モデル。トレンドに左右されず、かつ幅広い着こなしにマッチするステンカラーという点もさることながら、注目すべきは素材使いにある。

 一見したところ、クラシックなハウンドトゥース柄なのだが、実はリバーシブル仕様になっており、ひっくり返すとグレンフェル・クロスになっているのだ。

 この組み合わせはまさに絶妙といえる。ブラウンを基調としたハウンドトゥース柄の素材はスコットランドで生産されたハリスツイード。柄といい、風合いといい、着るだけで旬のブリティッシュテイストを演出できる。そして裏側に用いられたグレンフェル・クロスといえば、1923 年に開発された同ブランドの代名詞的素材。細番手の綿糸で織り上げられた高密度のコットン生地は卓越した防水性とタフネスを併せ持つ。合わせる着こなしを選ばないベージュの無地ながら、がっしりとした生地が醸し出す雰囲気は抜群だ。

 また、リバーシブルを謳うウエアの中には片面にインパクトのある素材や色があしらわれたものが多い。そのため、結局控えめな片面だけを着ている、というケースも存在するが、この「スターリング」は両面ともに実用性、汎用性に申し分ない。

 アナログレコードで言うなら、両A面仕様といったところ。いずれも末永く着続けられる素材ながら、裏返せば、印象はがらりと代わり、新鮮さを感じることができる。真の一生モノとは、着る者に飽きを感じさせない、かくなるものを言うのだ。

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