スイスもスイス時計産業も、ついに非常事態に!

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2020.03.25

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

スイス政府は3月16日に、4月19日までの非常事態を宣言。ロレックスの工場閉鎖はこの宣言を受けて、翌日の3月17日から暫定10日間の予定で行うと記事は伝えている。だがスイスの感染拡大状況は、イタリアほどではないが、フランスなど周辺諸国と変わらぬ深刻なもので、工場閉鎖はおそらく延長されるだろう。
スウォッチ グループも3月20日以降、約7割の雇用者の就業時間短縮を実施することや、オーデマ ピゲも工場と各国の支社をクローズ。LVMHグループのウブロも工場を休止したと伝えている。他の時計ブランドも同様の休止に入っているはず。スイスの時計ブランドは一斉休業に近い状態だ。

3月20日、スウォッチ グループがオンライン形式で開催したメディアカンファレンス。記者席には90体のテディベアが並べられた(写真はYouTube上で公開、同カンファレンスの映像より)。
渋谷ヤスヒト:取材・文・写真 Text & Photographs by Yasuhito Shibuya


「ロレックスはすべての工場を閉じて『かつてない最悪の年』に備えている」

 これは2020年3月19日(木)に配信された「ブルームバーグ」の経済ニュースの見出しだ。新型コロナウイルスの影響は、時計フェアの中止・延期に留まらず、ついに時計の生産・流通体制にまで及んできた。

 スイス政府は3月16日(月)に、4月19日(日)までの非常事態を宣言。ロレックスの工場閉鎖はこの宣言を受けて、翌日の3月17日(火)から暫定10日間の予定で行うと記事は伝えている。だがスイスの感染拡大状況は、イタリアほどではないが、フランスなど周辺諸国と変わらぬ深刻なもので、工場閉鎖はおそらく延長されるだろう。

 非常事態宣言の結果、スイス国境は特別な場合を除き閉鎖されている。その結果、記事は「フロンタリエ(越境通勤者)」、つまり毎朝、国境を越えてスイスの時計工場で働くフランスの人々が職場に行けないという問題にも触れている。

 記事はまた、スウォッチ グループも3月20日(金)以降、約7割の雇用者の就業時間短縮を実施することや、オーデマ ピゲも工場と各国の支社をクローズ。LVMHグループのウブロも工場を休止したと伝えている。他の時計ブランドも同様の休止に入っているはず。スイスの時計ブランドは一斉休業に近い状態だ。

 もちろん日本からの渡航・入国も特別な場合を除き、不可能になった。前回、このコラムで取り上げた4月末のジュネーブでの時計イベント「ジュネーブ ウォッチ デイズ 2020」も当然のことながら、8月26日(水)~29日(土)への延期が決定した。

スイス大使館の公式ウェブサイトの新型コロナウイルス情報。特別な事情がない限り、現在、日本からスイスへの入国はできない。
https://www.eda.admin.ch/countries/japan/ja/


“リーマン・ショック”を超える厳しい年になるか?

 時計産業にとって2020年は、このコラムの見出しのように、2008年から09年の“リーマン・ショック”をはるかに超える厳しい年になるだろう。辛いことだが、これは間違いのないことだろう。最低でも今年いっぱいは。

 現在、スイスでは5人以上の集会は禁止されているため(違反したら100スイスフランの罰金)、3月20日(金)にオンライン形式で行われたスウォッチ グループの「メディア カンファレンス2020」でも、ニック・ハイエック最高経営責任者(CEO)はこの厳しい状況への覚悟を語っている。

カンファレンスで語るスウォッチ グループのニック・ハイエックCEO(中央、写真は同カンファレンスの映像より)。同グループの2019年の時計&ジュエリーの売上高は前年比マイナス3%であった。
https://www.youtube.com/watch?v=SyR1tc4Rl3I

 今、トヨタを筆頭に自動車メーカーの工場休止が伝えられているが、時計の世界では、1月からすでに部品供給の問題が起きている。スイスも日本も時計ブランドは部品の一部を中国で生産している。そのため、すでに部品不足で製品の製造が遅れる事態になっているのだ。

 新作の生産もデリバリーも開発も、この状況では大幅に遅れることは必至で、2020年の新作をそのまま2021年の新作として扱う時計ブランドも少なくないだろう。働く人の労働環境を考えれば、それはこの危機へのひとつの適切な対応だと思われる。

 今年上半期、ラグジュアリービジネス全体の収益は約30%以上低迷する。スイスのある銀行のアナリストはこう推測している。

 この影響が長引くことは必至だろう。その結果、これまでのラグジュアリービジネスは根本的な構造変革を迫られる可能性もある。

 とはいえ、いちばん気になるのは、時計の消費がいつ、どのくらい回復するのか? そして、時計ブランドが危機を乗り越えられるか、だ。

 スイスやその他の海外では新型コロナウイルスによる外出自粛の結果、また日本の場合は消費税増税の結果、時計のセールスはこれまでにないほど厳しい状態にある。

 この状態をどうすれば早く抜け出せるか? そしてどうすれば、より多くの人が時計を楽しめるような世界が作れるのか?

 今はじっくり考えるしかない。そして、考える時間はたっぷりある。


渋谷ヤスヒト

渋谷ヤスヒト/しぶややすひと

モノ情報誌の編集者として1995年からジュネーブ&バーゼル取材を開始。編集者兼ライターとして駆け回り、その回数は気が付くと25回。スマートウォッチはもちろん、時計以外のあらゆるモノやコトも企画・取材・編集・執筆中。