手巻き時計と自動巻きの違いを知ろう。手巻きの魅力と使い方

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2020.11.10

毎日身に着ける腕時計にとって実用性は重要だが、手間が掛かるはずの手巻き腕時計もまた、依然として高い人気を誇る。クォーツ式でも自動巻きでもなくなぜ手巻きなのか、その魅力を探るとともに、リュウズ操作やメンテナンスについても解説する。


駆動方式の違いを理解しよう

ほぼすべての腕時計のムーブメントは、クォーツ式か機械式のいずれかだ。クォーツ式時計は実用性に優れるが、IC制御に頼らない機械式時計にはロマンがある。中でも手巻き腕時計には、それでしか味わえない深い魅力があるのだ。

まずは機械式とクォーツ式、自動巻きと手巻きの違いを見ていこう。

機械式とクォーツ式の違い

機械式時計は、主ゼンマイの動力を輪列(歯車のつながり)に伝え、ガンギ車、アンクル、テンプ、ヒゲゼンマイからなる調速脱進機で精度をコントロールする。

一方のクォーツ式時計は、電池を動力源として水晶振動子を発振させ、IC回路が正確に1秒周期でステップモーターを運動させる。ステップモーター内のローターが連結する歯車を1秒ずつ送り、輪列がそれに連動する仕組みだ。

クォーツ式時計は自動組立の大量生産品でも月差±20秒ほどの高精度を得られるのに対し、機械式時計は手組立の少量生産品でも日差±20秒程度になるモデルもある。

世界初のクォーツ式腕時計「クオーツアストロン 35SQ」が誕生してから約50年後の2018年、グランドセイコーはGMT機能を搭載したクォーツムーブメント9F86を発表。1969年当時、月差±5秒だった精度は、9F86で年差±10秒にまで向上した。

自動巻きと手巻きの違い

ETA2892A2

汎用自動巻きムーブメントのなかでスタンダードなETA2892A2。写真右に見られる、大きく弧を描いたプレート状のパーツがローター(回転錘)。このローターが着用者の腕の動きに合わせて回転することにより、主ゼンマイを巻き上げる。

機械式時計は、主ゼンマイの巻き上げ方法によって、自動巻きと手巻きに分けられる。

自動巻きムーブメントに取り付けられるローター(回転錘)は半円状のプレートであり、着用時の姿勢変化に合わせて自由に回転する。この運動が歯車を通じ、自動的に主ゼンマイを巻き上げるのだ。

手巻き式はローターを持たず、リュウズ操作によって主ゼンマイを巻き上げる。自動巻き腕時計は着用する限り運針を止めないが、ローターによるムーブメントの重みや厚みがデメリットだ。

ムーブメント・アルファ

代表モデルの「タンジェント」をはじめ、「テトラ」や「クラブ」などにも搭載される、ノモス グラスヒュッテの手巻きムーブメント・アルファ。ムーブメントの厚さはわずか2.6mmで、表面にはグラスヒュッテ・ストライプが施される。


手巻きの魅力とは

ローターを持たない手巻き腕時計は、自動巻き腕時計よりデザインや装着感、さらに耐久性にも優れる。あえてリュウズ操作を行うという、通好みな魅力にも触れよう。

巻き上げる感覚

手巻き腕時計は、リュウズを巻き上げないと数日で止まってしまう。手間は掛かるが、毎日のように巻き上げることで腕時計と向き合う時間が増える。

これは腕時計に対して愛着が湧く効果を生み出すうえに、日々巻き上げることで不具合に気付きやすいというメリットもあるのだ。

さらに、巻き上げる際の指先から伝わる心地よい振動とカチカチという駆動音も味わい深い。腕時計と対話するような感覚は、時計好きにはたまらない魅力である。

手巻きならではの美しさ

自動巻き腕時計はローターによってムーブメントを大きく覆ってしまうが、手巻き腕時計では遮蔽物が少ない。トランスパレントバックのモデルに限られるが、ムーブメントの美しさを堪能できることも手巻きのメリットだ。

また、ローターがないことで薄型モデルを設計しやすく、すっきりとした手元を演出しやすい。自動巻きの利便性はあえて捨て、デザインや装着感を優先するのも一興だ。

L141.1

ダイアルの4時位置にも小さな時刻サークルをレイアウトし、ホームタイムと第二時間帯をひと目で確認できるA. ランゲ&ゾーネの2020年の新作「ランゲ1・タイムゾーン」。搭載するのは新開発の手巻きキャリバーL141.1。シースルーバックからは洋銀製の3/4プレートや、美しい手彫りの装飾が眺められる。手巻き(Cal.L141.1)。38石。2万1600振動/時。パワーリザーブ72時間。18KPG(直径41.9mm)。3気圧防水。551万円(税別)。(問)A. ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080


手巻き時計の使い方とメンテナンス

手巻き腕時計は日々リュウズ操作を必要とするため、機械的な故障に対する意識をもって接することが重要だ。無理なく適度に毎日巻き上げ、不調に気付いたらすぐにオーバーホールをしよう。

巻く方向と回数に注意

リュウズは時計回り(右回り)に回転させることで主ゼンマイを巻き上げられる。多くのモデルは、反時計回りでは巻き上がらない。

何回転で最大まで巻き上げられるかはパワーリザーブによるが、おおむね20〜30回転は必要だ。1回転を繰り返してもいいが、リュウズをつまんだまま時計回り、反時計回りを繰り返す操作に慣れよう。

リュウズが硬くなり巻き上げられなくなったら動きを止める。巻き上げ過ぎると故障を招くからだ。また、腕時計の長寿命のためには、毎日決まった時間に巻き上げるのが好ましい。

巻けない場合の原因

防水性の高いモデルでは「ねじ込み式」のリュウズを採用しているケースがある。この場合は反時計回りにリュウズを回してロックを解除してから、時計回りに回転させて巻き上げよう。

ねじ込み式でないのに巻けない場合は、目詰まりや錆び、あるいは油切れが原因かもしれない。リュウズ内にはごみや水分が侵入することがあり、腐食した防水パッキンが絡み付く場合もある。

オーバーホールの必要性

リュウズ操作ができない場合、ムーブメントに何らかの故障が発生しているケースが考えられる。内部洗浄をすれば解決することもあるが、無理にリュウズ操作をすると部品が破損する恐れもある。

リュウズの動きが悪くなったり、巻き上げの効率が落ちたりした場合は、オーバーホールが必要だと考えよう。オーバーホールでは、腕時計の分解、洗浄、注油、調整を行い、防水パッキンの交換も受けられる。

オーバーホールは3年に1度程度の周期で行うのが望ましいとされるが、大切な腕時計を守るためには、異変に気付いたらすぐに対処するのが肝心だ。


手巻きの醍醐味を味わおう

手巻き腕時計には、デリケートな機械式時計を日々手入れするという、通好みな魅力がある。理由もなくクロノグラフを操作したくなるような、メカニズムを愛でる人には特におすすめだ。

不調を起こさないよう微調整に気を遣い、具合が悪そうならオーバーホールをして、内部から健全な状態に戻してあげよう。

川部憲 Text by Ken Kawabe


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