機械式とクォーツ式、どちらの時計を買うべきか?

FEATURE良質な時計の選び方
2020.06.21

市場に並んでいる腕時計は、基本的にゼンマイで動く機械式か、電池で動くクォーツ製のムーブメントを搭載する。愛好家が注目するのは機械式。しかしクォーツのメリットも見逃せない。それぞれのメリット、デメリットを比較する。

シチズン 2035
シチズン 2035
クォーツムーブメントの業界標準。今までに数十億個生産されている。極めて安価なムーブメントだが、主要な部品には金属を採用。そのため分解掃除が可能である。

広田雅将(クロノス日本版):文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

クォーツ式時計と機械式時計は何が違うのか?

 1969年以降広まったクォーツ時計は、機械式時計に比べて時間が正確(高精度という)だった。当初の価格は高価だったが、製造体制の自動化により、低価格で買えるようになった。一方1990年代にリバイバルした機械式時計は、クォーツほど精度が高くない。しかし機械としての面白さなどが注目され、今や高価格帯の時計はその多くが機械式ムーブメントを載せるようになった。また、機械式ムーブメントのほとんどは、分解修理が可能である。そのため知られたメーカーの物だと、資産価値があり、長期の使用に耐えると考えられている。


クォーツ式時計の特徴

力は弱いが燃費が良く、狂いにくいのが特徴である。

クォーツ時計のメリット・デメリット

メリット:正確。最低3年以上は動く。また磁気帯びに強い
デメリット:針を動かす力が弱い。また修理不可能な物が多い。機械式に比べて資産価値が乏しいと考えられている。

 現在腕時計の標準となっているのが、電池を動力源とするクォーツムーブメントである。針などを動かすのはステップモーター、そして時計に正確さをもたらすのは、電圧で振動する水晶振動子である。そのメリットは高精度。安価なクォーツでも一月の遅れ進み(月差という)が30秒から15秒程度以内と、機械式よりはるかに正確である。また発表当初1年程度しかなかった電池寿命も、今では5年以上と長くなった。しかも日本のメーカーは電池の保ちをよくするため、太陽電池を備えた「エコドライブ」(シチズン)や「ソーラー」ウォッチを発表した。これらの光発電クォーツは、光がある環境ならば、理論上永遠に動き続ける。加えてクォーツムーブメントは、磁気の影響を受けても狂ったり止まる可能性が少ない。仮に止まっても、磁気から外せば動く場合が大半だ。

 万能なクォーツムーブメントだが、弱点もある。まずは機械式時計に比べてトルク(=力)の弱いこと。そのため多くのクォーツ時計の針は、機械式時計に比べて短く薄い。また力が足りないため、かつてクォーツ時計の多くは、機械式時計のように複雑な機能を載せられなかった。

 しかし日本のメーカーを中心に、クォーツの弱点を補う試みがある。「グランドセイコー」が載せるキャリバー(ムーブメントの型番を指す)9F系や、セイコーのダイバーズウォッチが載せる7C系は、機械式ムーブメント並の強いトルクを持っている。また最近日本のメーカーは、クォーツ時計の針の素材を軽くし、平たく成型することで、針を太く、長く作るようになった。ただし薄くて軽い針は、修理のたびに交換の必要がある。そのため、長く使える時計には向かない。

ロンジン コンクェスト
ロンジン コンクェスト V.H.P.
2017年に発表された時計。ETAと共同開発した年差クォーツE56を搭載する。また高い耐衝撃性や、自動的に日付を調整してくれる永久カレンダー、ショックを受けると針ズレを直す機能などを載せている。

 クォーツムーブメントのもうひとつの弱点は、修理の難しさにある。とりわけ安価なクォーツムーブメントは、機械で大量生産するため、基本的には分解できる構造を持っていない。そのためムーブメントが壊れたら、交換するしかない。また歯車などに金属ではなくプラスチックを使うため、長くは使えない。クォーツを載せた時計は長く使えないと言われる理由だ。ただし大量生産されたクォーツムーブメントであれば、仮に生産中止になっても、交換用のムーブメントが手に入る可能性は高い。

 一般論を言うと、そのクォーツ時計が太くて長い針を持っていたり、分解修理が可能なムーブメントを載せていれば、高級品と考えていいだろう。そういったムーブメントには、ブライトリングのクォーツ、グランドセイコーやクレドール用のクォーツ、ジャガー・ルクルトやパテック フィリップ、パルミジャーニのクォーツ、ETAのスリムライン、シチズンのザ・シチズン用クォーツなどが挙げられる。

 なお、高級なクォーツムーブメントの中には、年に5秒から10秒しか狂わない物もある。これらを「年差クォーツ」という。現行品で例を挙げると、「ザ・シチズン」クォーツモデルのA660、1950、グランドセイコーの9F系、そしてロンジン「コンクェストV.H.P.」のE56、57などである。これらの多くは、より精密な水晶振動子と、温度補正機能により、普通のクォーツよりはるかに高い精度を実現している。

超絶クォーツ、ザ・シチズン キャリバー 0100、渾身の使用レポ!
2019年に発売した「年差クォーツ」を搭載した、ザ・シチズンの着用レポート記事 https://www.webchronos.net/features/38061/