時計の石数が持つ意味。必要な理由やムーブメント開発の歴史を知る

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2020.06.27

時計の性能を示す項目の中には、「石数」と記載されている部分がある。選ぶ際に重要視されにくい項目だが、意味が分かると時計選びがより楽しくなるだろう。時計のムーブメントに石が必要な理由や、石数が示す意味を解説する。


機械式時計の石数とは

ムーブメントに使用されている石は、どのような役割を果たしているのだろうか。設置されている部分や素材について解説する。

軸受けのために使われる穴石

機械式ムーブメントは、ガンギ車など回転する歯車に軸を通し、「地板」と「受け」で上と下から挟み込むような構造となっている。

歯車が回転する際、軸は地板と受けに接しながら、回転・往復運動を繰り返す。接している部分に摩擦が起こると磨耗し、動作に不具合が発生しかねない。

そこで、正確な軸の動きを長く保つために、地板と受けの両方に、軸と接する部分へ軸受けとなる「穴石」を設置している。

軸以外に、アンクルの爪など磨耗しやすい部分にも、石を使用するケースが多い。

現在は人工ルビーが多い

機械式時計の軸受けには、古くからルビーやサファイアが素材として選ばれていた。それぞれ、ダイヤモンドに次ぐモース硬度を誇り、しかも、靭性(じんせい、材質の粘り強さや外からの圧力への壊れにくさを示す)ではダイヤモンドを上回り熱にも強い特性もある。

18世紀末に人工宝石の生成に成功してからは、ルビーやサファイアも人工石が作られるようになった。

現在、ほとんどの機械式ムーブメントと一部のクォーツムーブメントには、軸受けとして人工ルビーが使われている。


石数の表す意味

ムーブメントの耐久力を増す意味で備えられている石は、時計ごとに数が異なっている。どのような意味があるのかを知り、選ぶ際の参考にしよう。

年代で増える

時計のカタログなどに記載されている石数を見ると分かるように、時計によって石数には大きな差がある。

一般的に、高級時計に使用されている石数は、製作された年代が新しくなるほど増える傾向にある。

例えば、1950年代に作られた高級時計の中には、23個もの石が使われているモデルがある。23という数字は、3針自動巻ムーブメントの構造では、意味がある石数の上限とされている。

石数の確認方法

時計ごとの石数は、カタログやWebサイトに記載されている性能の項目のうち、「石数」や「JEWELS」などと書かれた部分を見ることで確認できる。

例えば、「17石」や「石数:17」と記載されていれば、その時計のムーブメントには、17個の石が使われていることになる。

ムーブメント本体に書かれている場合があることも覚えておこう。下の画像のように受けの外側部分などに、「(54)JEWELS」のように刻印されている。

多ければ良いわけではない

ムーブメントに使用されている石は、数が多いほど耐久力が増すようなイメージを持たれやすい。

しかし、高級時計に搭載されているムーブメントには、手巻き式で17個、自動巻きで21~25個の石があれば、十分に役割を果たすとされている。

これまで解説してきたように、軸の回転による地板と受けの磨耗を減らすことが、石の持つ本来の役割だ。機能が増えれば石数は増える。しかし時計によっては、複雑機構であれば100個の石を備えたモデルも存在する。

必要数の上限を頭に入れておき、時計を選ぶ際の参考にしたい。

Cal.HW4601

ハリー・ウィンストン Cal.HW4601
手巻き。124石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。


石数とムーブメントの歴史

高級時計に使われる石数は、時代の流れとともに増えている。どのような変遷をたどってきたのか、石数の歴史を見てみよう。

初期は7石が主流だった

機械式時計の耐久性を高いレベルで保つためには、テンプ・アンクル・ガンギ車の耐摩耗性を高めることが重要である。

良質な機械式時計に搭載されるムーブメントにおいて、テンプ・アンクル・ガンギ車それぞれに最低限必要な石数の合計は7個だ。

高級機械式時計の歴史で、1930年頃に製作された時計の石数は、7石が主流である。

アンティーク時計の石数を確認し、使われている数が7石であれば、クォリティの高い時計であると判断できる。

15から19へ増えていく

1940年代頃になると、15石のムーブメントが増えている。15石は、7石のクォリティを1段階高めた石数である。当時、スイスの高級時計に多く見られた石数だ。

さらに、石を2個追加した17石を経て、50年代頃には19石のムーブメントが数多く作られている。

15石までは、石を使用する箇所がどの時計でも決まっていた。しかし、17石や19石になると、追加する石の配置により、いくつかの種類に区別される。

21石以上はメーカーのこだわり

Cal.4409

オーデマ ピゲ Cal.4409
自動巻き(Cal.4409)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。

さらに時代が進み、高級時計の贅を競い合うようになると、機能的に必要のない石を備えたムーブメントが登場し始めた。

前述したように、実質的に意味のある石数は、23個程度までとされている。

しかし、23石のムーブメントは、そのうち2個が香箱に使用されるなど、もはや石が必要なさそうな部分にまで使われていることも多い。

1965年に発表された「オリエント・グランプリ100」は、国産時計史上最多の100石を誇る時計として話題を集めたモデルだ。多くの石が、装飾として施されている。


石数を理解すると見方が変わる

ムーブメントに使用される穴石は、地板と受けの磨耗を抑えるために、軸受けと油留まりして施されている。

石数には意味があり、最低限必要な数は7石、最大でも21石程度あれば十分と言われている。それ以上の石は、時計をより贅沢なものにしている付加価値と言える。

高級時計を選ぶ際は、石数にも注目してみよう。耐久性を確認できるだけでなく、メーカーごとのこだわりも楽しめる。


川部憲 Text by Ken Kawabe


世代交替が進む最新ムーブメント事情

https://www.webchronos.net/features/42508/
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