ピアジェ初の女性CEOが語る、技術と発想力が育んだ独自性

FEATUREWatchTime
2020.06.13

スイスのウォッチメーカーであり、ジュエラーでもあるピアジェで2年前から指揮を執っているシャビー・ノウリ。WatchTimeのシニアエディター、マーク・ベルナルドが行なった今回の独占インタビューで彼女は、世界最薄の機械式時計を製造し商品化するまでの長い道程や、競合の多いメンズラグジュアリースポーツウォッチにおける優位性、さらには時計とジュエリーのデザインの共通点について語ってくれた。

シャビー・ノウリ

2018年にピアジェのCEOに就任したシャビー・ノウリ。
Originally published on watchtime.com
Edit by Yuzo Takeishi


「アルティプラノ アルティメート コンセプト」商品化への道

マーク・ベルナルド(以下MB):2020年のピアジェの最大のニュースは、2018年のSIHHで発表された「アルティプラノ アルティメート コンセプト」がついに商品化されたことです。このモデルを市場に展開するにあたり、技術者チームにとって越えなければならないハードルはどのようなことだったのでしょうか?

シャビー・ノウリ(以下CN):商品化を実現できたことにとても興奮しています。(2014年発表の900Pから)6年来の夢でしたから。ご存じのように、私たちは1957年発表の極薄の手巻きキャリバー9P、その後、60年に発表した極薄自動巻きキャリバー12Pの60周年を有意義な方法で祝いたいと考えていました。そこで思いついたのが、(キャリバー9Pと同じ)厚さが2mmの時計を作るというクレイジーなアイデアです。それからというもの、私たちはこのアイデアを実現するために真剣に取り組みました。5つの特許を取得し、2年前に発表したプロトタイプはすでに機能する時計に仕上げていたのです。でも、私たちはそれをより完璧なものにして日常使いできる時計にしたかった。そのためにこの2年間を費やしたのです。価格設定はもちろんのこと、常にユニークでレアな時計を目指し、結果、「限りなくパーソナルな(Infinitely Personal)」というコンセプトを掲げ、お客さまに1万パターンを超える選択肢を提供することにしたのです。それはつまり、ケースとムーブメントに非常に高い耐久性のあるコバルトを使用することに加え、ブリッジにさまざまなカラーを採用したり、地板に細かなエングレービングや多彩な仕上げを施したりするといった内容です。

アルティプラノ アルティメート コンセプト

ピアジェ「アルティプラノ アルティメート コンセプト」
「アルティプラノ アルティメート コンセプト」は史上最薄の2mmを実現。手巻き(900P-UC)。13石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。コバルト合金(直径41.0mm、厚さ2.0mm)。2気圧防水。4280万円。

MB:確かに、あの薄さの時計を作るためには使える素材が限られるので、コバルトに着地したことはうなずけます。最大の課題は、さまざまなカラー展開が可能な素材を見つけることだったのでしょうか?

CN:その通りです。耐久性があり、時計業界ではあまり使われてこなかった素材で、しかも日常使いできる素材を選ぶ必要がありましたから。素材に合った工具を開発することから始め、素材を切り出し、さらにブリッジをさまざまな色に仕上げるための特殊な技術が必要になったのです。

MB:ブリッジのカラーのほかに、どんなところをカスタマイズできるのでしょうか?

CN:ブリッジ、ケース、そして一部のネジがカスタマイズできますし、ムーブメントにはシンボルやイニシャルを入れられる部分もあります。また、フルブラック、ブルー、ブルーとホワイトのコンビネーションという、3つの新しいカラーレザーも開発しました。時計の本数は限定されていますが、すべてカスタマイズ可能です。そして、ムーブメントは167点のパーツで構成されているのですが、いずれもこのサイズに収めるために困難を極めました。これらはラ・コート・オ・フェの歴史ある工房で製造しています。


「ピアジェ ポロ」の展開プラン

ピアジェ「ピアジェ ポロ」
2019年に発表されたポロ。こちらはすでに完売だ。自動巻き(Cal.1110P)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径42mm)。世界限定500本。完売。

MB:ピアジェは2016年に「ピアジェ ポロ」を発表して以来、メンズウォッチのカテゴリーでは目立った展開を行ってきませんでした。現在、ブレスレット一体型のラグジュアリースポーツウォッチに代表される、1970年代スタイルの時計がリバイバルされていますが、近い将来「ピアジェ ポロ」を大々的に展開するプランはあるのでしょうか?

CN:ええ。「ピアジェ ポロ」については継続的に取り組んでいて、2020年は一体型のブレスレットにグリーンのダイアルを採用した新しいモデルを発表しました。数カ月後には最新の限定モデルを発表する予定ですが、これについてはもう少ししたら詳しくお話ししたいと思います。

ピアジェ「ピアジェ ポロ」
2020年もグリーンカラーで展開される「ピアジェ ポロ」。グリーンダイアルモデルとしては初めてブレスレットが採用された。自動巻き(Cal.1110P)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径42mm)。世界限定888本。131万2000円(税別)。


時計とジュエリーとピアジェ

MB:ピアジェはウォッチメーカーとして創業し、のちにジュエラーとして名を馳せ、歴史的にもジュエリーと時計の両方に貢献しています。あなたのポジションから見てピアジェは、時計を作るジュエラー、それともジュエリーを手掛けるウォッチメーカー、またはその融合のどれに映っているのでしょう?

CN:私にとってピアジェは、非常に力強く、他とは異なる道程を歩んできた特別な存在です。ご指摘の通り、時計のムーブメントを作る技術は私たちのルーツです。私たちはこの技術を薄型化の分野だけではなく、フルパヴェやオフセンターデザインといった、革新的で大胆な発想にも活かしてきました。長い歴史のなかでこの技術を習得し、それを用いてジュエリー作品を生み出したのです。つまり、目的は常に時計とジュエリーの両方にあるのです。現在、ピアジェはメンズとレディス両方のプレシャスウォッチを手掛ける重要なブランドになっています。そして、この“プレシャス”にはコンプリケーションも含まれます。ピアジェはウォッチメーカーとしてスタートし、受け継いできたものを大切にし続け、歴史のなかで常に革新的な製品を生み出そうとしてきました。加えて1950年代からは、ジェムセッティングの工房と他のジュエリー工房をすべて統合し、ユニークな存在となっています。

MB:ジュエリーデザインの専門知識は、時計のデザインにどこまで影響を与えていますか? また、それらのチームは分かれているのでしょうか、それとも共同で作業するのでしょうか?

CN:さまざまな部門が連携し、ピアジェがこれまで習得してきた技術は共有されているのです。宝石は時計とジュエリーの両方で使用していて、例えば、彫金のノウハウについても双方で用いています。それに、クリエイティブ部門では、毎年の新作で時計とジュエリーに共通したテーマを設定。常にメンズとレディスのプロダクトに込めたメッセージとのバランスをとり、内容に一貫性を持たせているのです。現在、世界を取り巻く状況は厳しいものですが、今年は新作をさらに前進させるために、より大きな努力をしています。今年の後半には多くのコンプリケーションをご紹介できることでしょう。

ノウリによれば、コンプリケーションは時計を「プレシャス」なものにする要素であるという。

Contact info: ピアジェ コンタクトセンター Tel.0120-73-1874


ピアジェ「アルティプラノ アルティメートコンセプト」厚さ2ミリへの挑戦、ついに市販化へ

https://www.webchronos.net/features/43504/
2020年 ピアジェの新作時計

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/45300/