ビンテージウォッチの魅力を〝持ち続ける〟プリム「スパルタク」/気ままにインプレッション

FEATUREインプレッション
2020.07.06

今回はチェコ共和国の時計メーカー、プリムより「スパルタク」を借り受けてレビューする。このモデルにはプレスリリースが添えられるような驚くべき新機構や新素材はなく、また超絶技巧が与えられている訳でもないが、魅力ある1本に仕上がっている。その魅力とは、ビンテージの雰囲気に“寄せている”のではなく、“持ち続けている”ことであり、この時計の所有者であるクロノス日本版広田編集長の言葉を借りれば、「まんま1950年代の時計」なのである。

チェコ「スパルタク」

プリム,スパルタク

プリム「スパルタク」
手巻き(Cal.94)。17石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径36mm)。50m防水。27万6000円(税別)。Photograph by Masanori Yosie
佐藤心一:文・写真 Text by Shinichi Sato
[2020年7月初出]

インプレッション概要

 プリムの「スパルタク」はデザインだけではなく、古典的な構成を持つ手巻きムーブメントやダイアルの製造方法、操作感に至るまでヴィンテージの雰囲気を持つモデルだ。現代基準ではコンパクトな直径36mmのケースに、搭載する25.6mm径のムーブメントをトランスパレントバックから楽しめる点も評価したい。

 性能面は約48時間のパワーリザーブとハック機能、さらに50mの防水性能など現代的なスペックを持っているため、ビンテージウォッチらしい雰囲気を楽しみつつ、気軽に日常使いしたい人にとって価値がある1本だ。

 ビンテージ感を損ねる可能性がある点を挙げるならば、着用感に問題はないものの少しケースに厚みがある点と、振動数が1万8000振動/時ではなく2万1600振動/時である点だが、減点対象にはならないだろう。

時計愛好家がビンテージウォッチに興味を持つポイントとは?

 時計愛好家がビンテージウォッチに興味を抱くポイントとはどのようなものだろう? ケース径に対して大きなムーブメントを載せるモデルが多いことや、手巻きモデルが多いこと、あるいはコンパクトで素朴なデザインが多いことではないだろうか。

 では、逆にどんなところをネガティブに思うか考えてみると、トランスパレントバックを採用するモデルが少ないためムーブメントが気軽に楽しめないことや、今後のメンテナンス、防水性能が維持されているか、さらにはムーブメントの磨耗などの要素があげられる。

 もしあなたがビンテージウォッチに対して思うポジティブな部分やネガティブな部分が上に挙げた例に合致しているのならば、プリムのスパルタクがお勧めだ。なにしろ、“新品で買えるビンテージウォッチ”と呼びたくなる構成と雰囲気を持ち、かつビンテージウォッチを所有する際の心配なポイントを払拭するスペックを持っているからだ。

プリム「スパルタク」について

 プリムは、1949年創業のチェコ共和国を代表するマニュファクチュール(ブランド名の商標登録は57年)であり、ブランド名は“端正”を意味する。本社および自社工場はポーランドとの国境近くの町ノヴェー・メスト・ナト・メトゥイーに置き、そこでムーブメントやケース、文字盤、針の製作および組立を行っている。また、風防にチェコ製の「ボヘミアンサファイアクリスタル」を用いていることが特徴。ダイアルに示した「CZECH MADE」の文字の通り、ヒゲゼンマイをドイツ、主ゼンマイとアンクル、インカブロックをスイスから仕入れているが、その他のムーブメントに関するパーツは自社製造によってまかなっている。

 なお、自社ムーブメントの開発と製造は1965年から90年頃まで行っていたが、その後一時休止。2009年に手巻きムーブメントCal.94を搭載したスパルタクの製造を開始したことによって復活した。よって、プリムにとってスパルタクはマニュファクチュールとしての復活の象徴と言える。

 スパルタクが搭載するCal.94のスペックは、手巻きで2万1600振動/時、17石、パワーリザーブは公称約48時間である。ムーブメント直径25.6mm、厚さ5.0mmで、部品配置に類似点が見られるプゾー7001(現ETA7001。直径23.3mm、厚さ2.5mm、スモールセコンド)よりも大きくて厚く、グラスヒュッテの趣のある大きなプレートを採用している。

 このムーブメントの歴史をひもとくと、1965年発表のプリム初の自社ムーブメントCal.50が、フランスのLIPのR25-3(25は直径25mmを意味し、スモールセコンド機で、プレートは分割されている)をベースにしたものであり、R25-3とCal.94にはサイズと部品配置に類似点が見受けられるため、プリムはCal.50を独自に発展させてきたと推察される。

 ムーブメントには回転状のジュネーブ仕上げが施され、青焼きネジが用いられており見栄えがする。面取りは最低限であるし、地板の仕上げもないのはコストを考えれば致し方ないとして、ケース径36mmのモデルにしては大きくて厚みもある手巻きムーブメントを、この価格で楽しめるのは価値がある。

 プリムにとって復活の象徴たるスパルタク。“民衆”を意味しするモデル名が与えられた同作は、フラッグシップモデルに位置付けられている。日本導入モデルにおいてスパルタクより高価なモデル(ビンテージダイバーズの趣のある「オルリーク」等)は存在するが、それでもスパルタクをフラッグシップとしていることに、思い入れの強さをうかがい知ることができる。

プリム,スパルタク

腕での存在感はビンテージウォッチのそれで、袖への収まりが良い。また、表面を荒らしたダイアルは光に針が埋没することなく、屋外でも視認性が良い。