ビンテージウォッチの魅力を〝持ち続ける〟プリム「スパルタク」/気ままにインプレッション

FEATUREインプレッション
2020.07.06

着用してみて

 スパルタクのケース厚は、風防を含めて実測11mmである。ベゼルを細く、ダイアルを広く取っているので、ケース径の数値よりも大きく感じる。また、風防のふくらみが僅かであるため、厚さ11mmのほとんどはケースとケースバックの厚みと考えて良い。

 実際に手にして装着してみた感想は、大雑把に言って、現行では選択肢の少ないコンパクトさがあり、50~60年代の多くのビンテージドレスウォッチよりやや大きく感じ、厚みがある。その感覚はビンテージウォッチの普及モデルそのもの。現代の高級機のようなハッとする凄みはないが、スパルタクは素朴でカワイイ親しみやすさにあふれている。

 文字盤のアラビア数字インデックスはエンボスで、表面部分にゴールドカラーでプリントが施されている。かつての普及機にはエンボスが多く、高級機にはアプライドインデックスが多かったため、筆者は最近までアプライドの方が必ず優れると思っていたが、単純な優劣ではないのがスパルタクを見ると良く分かる。

 というのもアプライドインデックスは取り付けが適切でなかったり衝撃が加わったりすれば落下する恐れがある。そして、スパルタクのような“キレ”の良いエンボスインデックスは視認性と外観品質にも優れている。なにより、エンボス特有の素朴な良さがあるので、ぜひ実物を見てほしい。

 なだらかな曲線をつなげた形状を持つケースおよびラグは全体がポリッシュ仕上げで、シンプルな造形はビンテージ普及機の趣を残している。時分針は立体感のある細身のリーフ針で繊細な印象を受ける。また、針はポリッシュ仕上げがされており、エンボスのインデックスとのマッチングが良い。ケースおよび針の仕上げは、自社ムーブメントを搭載してこの価格であることを考えれば丁寧である。

 プリムの特徴である風防の「ボヘミアンサファイアクリスタル」は、他では採用されていない物であるので、何か“クセ”があるのかと思う人もいるかもしれないが心配不要だ。品質に由来する歪みなどなくて非常にクリアであり、筆者から見て普通のサファイアクリスタルクリスタルと判別がつかなかった。また、ドーム状の風防を斜めから見た際にも歪みが小さくて視認性が良い。

 一般的なコニャックカラーより少し濃い色合いのクロコダイルのレザーストラップは質感が良く、時計とのマッチングも良い。スーツスタイルに間違なくマッチするし、カジュアルスタイルにも良い。筆者は粗野な雰囲気のあるツイードのカントリージャケットに合せてみたいと感じた。

プリム,スパルタク

やや黄色味掛かったダイアルに、クッキリと浮かび上がったエンボスのアラビア数字インデックス。ポリッシュされたリーフ針の仕上がりも良い。


操作感

 性能や耐久性が安定した自動巻きモデルが手に入る現代において、わざわざ手巻きモデルを検討するならば、その巻き味も気になるポイントである。巻いてみると、コハゼがチリチリと動く感触はやや角が取れて丸みがあり、その間隔は中庸から少し広めで、巻き上げのトルクは中庸といったところだ。

 筆者所有の中で比較したところ、IWCのCal.89の巻き味が近かった。次点はシチズンのスーパーデラックスか。巻き上げ音は少しくぐもった感じで、50mの防水性能を持って厚みのあるケースが影響していると考えられる。

 時間合わせは、進みと戻りの間の遊びが小さめで、軽めの感触である。リュウズの操作量に対して分針の動きがやや大きく、軽めの感触も相まって少しナーバスさがある。なお、ハック機能が備わっているのはうれしい点だ。


最後に

 ここまで見てきたとおり、50年代の時計の持つ要素を“持ち続けた”時計である。現代の多くのモデルでも、それら要素のひとつぐらいは継承していたりするだろうが、それをこれほど多く持ち続けたことによって、結果的に稀有な存在となったと言える。

 ここまで古風な雰囲気を持つモデルならば、搭載ムーブメントは1万8000振動/時のロービート機でも良かったのではないか? と思う人もいるかもしれない。しかしプリムはこの古典的な構成のムーブメントの振動数を2万1600振動/時とし、ハック機能を持たせた上で、約48時間のパワーリザーブを与えるなど、比較的現代的な仕様を持たせている。

 この点に、現代でも通用する実直な実用機として世に送り出そうとしているプリムの気概を感じるので評価したい。筆者の想像でしかないが、プリムは、変にビンテージ感を演出するのではなくて、自分の時計作りに真面目に取り組み続けているから、親しみやすい素朴な魅力を持つに至ったのではないか? と考える。

 さて、プリムであればビンテージウォッチと違って新品で購入できるので、中を開けてみたらボロボロだったなんて心配もないし、正規メンテナンスも受けることができる。50mの防水性能に過信は禁物であるが、日常使用に安心感もある。

 ビンテージウォッチにあって、プリム スパルタクにない最も大きな要素といえば、実際に長い年月を刻んでいるか否かくらいではないだろうか。この点を、自分の手元で歴史を刻めばよいと考えられるなら、プリム スパルタクは魅力的な1本となりえる。


Contact info: ブレインズ Tel.03-3510-7711


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