2017年の創業以来、トゥールビヨンウォッチの製作に注力し続けてきたスイスのインディペンデントブランド、ビアンシェ。2023年には早くも自社工房を設立し、その2年後には自社開発・製造ムーブメントを搭載したタイムピースを完成させた。このビアンシェが最新作「ウルトラフィーノ・ロトンド」を携えて、日本への本格上陸を果たした。初のラウンド型である本作には、自社開発ムーブメントをはじめとする、ビアンシェの妥協なきクリエーションが随所に見て取れる。

ブランド初のラウンド型ケースを採用した、2026年の新作。耐衝撃性能を備えた自社開発・製造の自動巻きトゥールビヨンムーブメントに加え、ケースとブレスレットには特別開発の高密度カーボンを採用するなど、アクティブなシーンでも着用できる1本に仕上げている。ラバーシームと同色の交換用ラバーストラップが付属。自動巻き(Cal.UR01)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。高密度カーボンケース(直径39.5mm、厚さ8.9mm)。10気圧防水。1485万円(税込み)。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
竹石祐三:編集・文
Edited & Text by Yuzo Takeishi
[2026年8月8日公開記事]
創設からわずか6年で自社工房を構えた気鋭ブランド
スイスのラ・ショー・ド・フォンを拠点とするビアンシェは、イタリア出身のロドルフォ・フェスタ・ビアンシェとフランス出身のエマニュエル・フェスタ・ビアンシェ夫妻によって2017年10月に設立された、新進気鋭のブランドだ。夫であるロドルフォは、もともと情報テクノロジーを駆使した金融サービスを創出するフィンテック業界の起業家として成功した人物である。しかし、熱心な時計コレクターでもあった彼は、自身の時計ブランドを立ち上げるという、長年抱いていた夢を叶えるべく事業を売却。ビアンシェを立ち上げ、妻、そして3人の息子と共に機械式時計の分野でファミリービジネスをスタートさせた。
ビアンシェが最初のプロトタイプ「G5000 アクティブ トゥールビヨン」を披露したのは、創業から2年後の2019年。これはオープンワークのダイアルとトノー型ケースを組み合わせたモデルで、プロトタイプの段階ですでに、ブランドの柱である5000Gの耐衝撃性能を備えたフライングトゥールビヨンと1:1.618の黄金比を設計に取り入れていた。このプロトタイプは、2020年のコロナ禍によって開発期間が延びたため、この間にムーブメントを大幅に改良。こうして2021年に発表されたのが、初の市販モデルとなる「トゥールビヨン B1.618 オープンワーク」である。
その後もトゥールビヨンを軸に、ビッグデイトやGMT機構を搭載したモデルを展開する中、2023年にはラ・ショー・ド・フォンに自社工房を設立。時計師や装飾職人、ムーブメント設計者、CNCマシンのオペレーターを擁して生産体制の垂直統合を推し進め、2025年には自社開発・製造の自動巻きトゥールビヨンムーブメントを搭載した「ウルトラフィーノ・トノー」を完成させた。

創業以来、一貫してトゥールビヨンウォッチの製作に注力しているビアンシェだが、ロドルフォによるとその目的は、単に「トゥールビヨンを作る」ことではなく、「現代の時計製造技術を駆使してトゥールビヨンの性能を再定義する」ことにあるという。「そこで私たちは5000Gの耐衝撃性を持つトゥールビヨンを製作し、さらに超薄型の設計とハイレベルな手仕上げをも追求しました。このアプローチは、優れた美観と伝統的な高級時計製造に先進の技術を融合させるという、ブランドの哲学を体現するものなのです」。
また、こちらも創業時より徹底している黄金比だが、これは建築や絵画のみならず、銀河の構造や貝殻の渦巻き、人間のDNAなど、自然界のあらゆる場所にも確認できる理想的な比率。これまで、多くの建築家や芸術家がこの黄金比を取り入れてきたのも、人が本能的に“調和が取れている”と感じられるプロポーションを生み出すためだ。ビアンシェもまた、調和を感じられやすい黄金比をブランドの設計思想に据え、その黄金比を時計全体に一貫して反映させるために、黄金比と関係の深いフィボナッチ数列を設計の指針として積極的に採用してきた。
「ビアンシェを創業したとき、妻と私は黄金比を単にデザインの基準として取り入れるだけではなく、もっと深いところにまで活用したいと考えました。時計ブランドの中には、文字盤のレイアウトやケースのサイズに黄金比を取り入れているところもあります。ですが、私たちはムーブメントからケースの構造まで、時計全体の設計そのものに黄金比を取り入れることを目標としたのです」

哲学である黄金比に基づいて生み出された端正な新作
これまで、トノー型のタイムピースを展開し続けてきたビアンシェだが、2026年に発表された新作「ウルトラフィーノ・ロトンド」は、ブランド初となるラウンド型のケースを採用した。腕時計においては普遍的フォルムであるラウンド型だが、ブランドのベースとなる哲学やデザインコードは本作でも踏襲しており、ビアンシェらしい、機構美を主張しながらも均整の取れた佇まいにまとめている。
これを強く感じ取れるのが、正面からの表情だ。ベゼルやケースからは視覚的なノイズを排し、さらにオープンワークのデザインを採用することによって、本作の主役であるトゥールビヨンをしっかりと際立たせている。ロドルフォは「オープンワークでムーブメントのすべてを見せるということは、すなわち、設計の緻密さと丁寧な仕上げによって生まれる、モダンかつ艶やかな表情を余すところなく堪能していただくこと」であると説明。事実、ビアンシェでは装飾職人が長い時間をかけて面取りなどの仕上げを行なっており、これらの部品が組み合わせられることで奥行きが生まれ、時計の存在感を高めることにつながっている。

さらに、ケースとブレスレットはエッジの利いた稜線と多面で構成。緻密でありながらシンメトリックなレイアウトを意識して組み上げられたムーブメントと相まって、本作に現代建築のような力強さを生み出している。その一方で目を引きつけるのが、ベゼルとケースとの接合部にインサートされたラバーシームだ。これはデビュー作のトゥールビヨン B1.618 オープンワーク以降、歴代のモデルに採用されてきたアイコニックなデザインエレメントで、ブラックまたはシルバー色に統一されたソリッドなケースの中で、シリアスな印象を和らげる役割を担っている。
もちろん、デザイン面においては、時計製作の柱となっている1:1.618の黄金比が取り入れられている。本作を手にした瞬間に感じられるバランスの良さは、ケースのみならず、ムーブメントやブリッジ、ローターに至るまで、すべてのデザインに黄金比を徹底しているからにほかならない。ロドルフォは次のように説明する。

「これを実現するためには、エンジニアとデザイナーが密接に協力する必要がありました。ムーブメントのブリッジや各パーツ、構造を形づくるすべてのラインを、この数学的な考え方に基づいて設計しなければならなかったからです。一般的な時計製造よりもはるかに手間のかかるプロセスですが、結果、時計を構成するすべての要素が自然に調和したモデルを完成させることができました」
軽量化と先進性を追求したマテリアル選定
ウルトラフィーノ・ロトンドを手にした際にもうひとつ驚かされるのが、その軽さだ。ビアンシェではデビュー作から一貫して、ケース素材は高密度カーボンまたはグレード5チタンを中心に展開してきた。2025年のウルトラフィーノ・トノーからは一体型ブレスレットにも同様の素材を組み合わせられるようになり、本作でもこのクリエーションを踏襲。これにより、高密度カーボンのモデルはわずか48g、グレード5チタン製のモデルでも75gの軽さを実現した。

しかも、ビアンシェが使用しているのは、市場で入手できる標準的なカーボン素材ではない。ヨーロッパを代表する先進複合素材専門の企業と協業し、ビアンシェの腕時計のために特別に設計された独自の高密度カーボンである。それは500もの薄層で構成されるカーボンコンポジットを高圧力で圧縮成形したもので、高い剛性と耐傷性、耐久性を実現しているという。
ロドルフォは「優れた耐衝撃性と耐傷性、そして個性的な美観を実現するように最適化された高密度カーボンはビアンシェ専用の素材です。そしてこの素材は、現代的な高級腕時計において高性能を追求するというブランド哲学の中で、中心的な役割を担っています」と説明するが、確かに、この高密度カーボンが見せる有機的な表情は、ウルトラフィーノ・ロトンドを現代的なルックスにまとめ上げるうえでも不可欠な要素と言えるだろう。
また、加工難易度の高い高密度カーボンを高精度で切削している点にも注目したい。シャープな稜線と平滑面を複雑に組み合わせたケースとブレスレットは、黄金比を駆使した本作のデザインにさらなる心地よさをもたらしている。つまり、ビアンシェは黄金比やトゥールビヨンのみに注力しているのではなく、素材選びにも一貫した思想を持つことで、日常で身に着けられる高性能トゥールビヨンを具現化しているのである。

厚さ3.85mmのムーブメントがかなえる美観と耐衝撃性
そして、ウルトラフィーノ・ロトンドにおけるもうひとつの要が、自社開発・製造のムーブメントCal.UR01である。そのベースとなったのは、2025年のウルトラフィーノ・トノーに搭載されたCal.UT01。単純に薄いムーブメントを作るのではなく、“毎日安心して使えるスポーツウォッチ”に求められる薄さと堅牢性、信頼性を共存させるべく、ムーブメントの設計を見直し、その研究開発には2年以上を要したという。

マイクロローターを使えば、確かにムーブメントの薄型化は容易になるものの、ビアンシェではあくまでもセンターローターの高い巻き上げ効率を重視し、主要パーツの大半をイチから設計した。吊り下げ式香箱を開発し、従来のラチェットホイールをなくすとともに、輪列のレイアウトも再考。これにより、厚さ3.85mm、トゥールビヨンケージも2.66mmという超薄型ながら、約60時間のパワーリザーブを実現する自動巻きトゥールビヨンムーブメントCal.UT01の開発に成功した。そして、このムーブメントが持つ性能とプロポーション、設計思想をベースに、Cal.UR01は開発された。

自社開発ムーブメントのCal.UT01とCal.UR01はともに、特別設計の巻き上げ・時刻調整機構が搭載されている。これらムーブメントには一般的なセッティングレバー(おしどり)を用いておらず、代わりに逆回転防止機構を備えた直交ギア伝達機構による、独自開発の巻き上げ・時刻調整システムを搭載。これにより巻き真は常に正確な位置をキープし、巻き上げや時刻合わせを行う際にも不要な摩擦が減り、滑らかな操作感を実現した。
そしてもうひとつ、独自の耐衝撃システムも搭載されている。メインプレートにはふたつのスパイラル形状のパーツが備わっているのだが、時計が強い衝撃を受けた際には、このパーツがローターを保持するとともに、その質量によって生じる慣性エネルギーを吸収し、ムーブメントに加わるダメージを抑制する。また、調速機構には大型のキフ耐震装置を軸とした一体型の耐衝撃システムを採用しているのも、特筆すべき点だろう。
こうしたムーブメントのアイデアはロドルフォのビジョンからスタートし、家族との話し合いを経て開発が進められるが、一部の特殊な機構については、旧ルノー・エ・パピで勤務経験のある外部の設計者チームとも連携するという。「彼らと長きにわたって築いてきた協力関係が、最新のムーブメント開発を実現させ、自社工房における専門技術の精度を高めることにもつながりました」(ロドルフォ)。
機構、外装素材、デザインのすべてにおいて完成度の高い新作を携え、日本での本格デビューを果たしたビアンシェ。創業者の時計に対する情熱と、そこから湧き上がるアイデア、そして自社工房の稼働が本格化することを踏まえると、今後の展開にも期待は高まる。
アクセントカラーとマテリアルで選ぶ、ウルトラフィーノ・ロトンドのラインナップ
ウルトラフィーノ・ロトンドは全6モデルをラインナップ。外装素材は高密度カーボンとグレード5チタン、18Kローズゴールドから選ぶことができ、カーボンとチタンにはラバーシームも2色を用意している。素材の違いはもちろん、ラバーシームの色によっても印象が異なるので、着用するシーンや服装を踏まえ、納得のいく1本を手にしてほしい。

外装素材に高密度カーボンを採用し、ラバーシームをビビッドなレッドで彩った、力強さを感じさせるモデル。ラバーシームと同色のラバーストラップが付属。自動巻き(Cal.UR01)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。高密度カーボンケース(直径39.5mm、厚さ8.9mm)。10気圧防水。1485万円(税込み)。

グレード5チタン製の外装にブラックのラバーシームを組み合わせる。ベーシックな佇まいのため、服装やシーンを選ばずに着用しやすい。ブラックのラバーストラップが付属。自動巻き(Cal.UR01)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径39.5mm、厚さ8.9mm)。10気圧防水。1375万円(税込み)。

グレード5チタンの外装にライトブルーのラバーシームを組み合わせ、軽快な印象を与えるモデル。ラバーシームに合わせたライトブルーのストラップが付属。自動巻き(Cal.UR01)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径39.5mm、厚さ8.9mm)。10気圧防水。1375万円(税込み)。



