セイコー アストロン「Nexter」シリーズの新作に、デュアルタイム・クロノグラフ「HAB001J」が登場した。GPS衛星電波受信機能をはじめとする高い実用性で知られるセイコー アストロン。だが、その魅力はそれだけではない。快適に日常使いできるように設計され、なおかつ腕時計としての造形美をセイコーの持つ技術力で実現した。技術者たちの工夫が込められた本作の魅力をひもとく。

GPS衛星電波受信、ソーラー発電、クロノグラフを搭載したセイコー アストロン「Nexter」の新作。純チタン製ケースに多角形ベゼルを組み合わせ、力強い造形と軽快な装着感を両立した。また、新開発の「スマートスイッチ®」によってストラップを容易に着脱できるなど、細部まで使いやすさと美観を追求している。GPSソーラー(Cal.5X63)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径43.4mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。30万8000円(税込み)。
Photograph by Masanori Yoshie
髙井智世:文
Text by Tomoyo Takai
[2026年9月18日公開記事]
なぜここまで作り込むのか? 「HAB001J」の設計思想を読み解く
セイコー アストロンの「Nexter」シリーズの新作「HAB001J」は、実用時計のひとつの完成形とも言える、高度なスペックを誇る腕時計だ。世界中のタイムゾーンに瞬時に適応するGPS衛星電波受信機能、定期的な電池交換の手間を省くソーラー発電。加えて、海外渡航時に便利な2拠点の時刻表示とクロノグラフという機能を備えている。
そのデザインは、Nexterらしい力強い多角形の造形によって、先進的な印象を与えるものだ。だが、その実現には技術的な制約がのしかかり、決して容易なものではなかった。例えば文字盤は、ソーラー発電と衛星電波受信に対応する造形と素材でなければならない。加えて、毎日身に着ける腕時計として、その操作性や軽快な着用感、ブレスレットやストラップの交換しやすさといった要素も意匠に関わってくる。
HAB001Jの見どころは、デザイン上の制約となり得るこれらの要素に妥協で対応するのではなく、むしろそれらを魅力へと転換している点にある。
「樹脂」で魅せる品格。素材の可能性に挑んだ文字盤
HAB001Jでまず目を引くのが、半透明の樹脂系素材製のブルーグレーの文字盤だ。三角形で構成された幾何学模様が全面に広がり、光を受けるたびに細かな陰影が浮かび上がる。遠目には端正で落ち着いた印象だが、ルーペで拡大すると、その模様の緻密さに驚かされる。

樹脂系素材を文字盤に用いた理由は、ソーラー発電に必要な光の透過性を確保するためだ。しかしながら、金属文字盤とは異なり、素材そのものの質感だけで高級感を表現することは容易ではない。そこで鍵となるのが、樹脂成型によって形成された文字盤上の三角形のパターンだ。規則的な幾何学模様によって安定感を与えながら、表面に生じる凹凸によって光と影のコントラストを生み出し、立体的な表情を与えている。
さらに、これらの三角形の表面には「円周挽き目」と呼ばれる、円周方向にごく細かな筋目を刻む仕上げの模様が施された。これによって光が局所的に反射し、樹脂系素材でありながら単調な印象に陥ることなく、繊細な輝きが生まれている。

純チタンで両立した、軽快さと力強い造形
ケースとブレスレットには純チタンを採用。軽量で耐食性に優れるが、ステンレススティールに比べて切削や研磨、そして仕上げが難しい素材だ。
だが、ケースに注目してみると、ヘアラインとポリッシュ仕上げが面ごとに見事に使い分けられている。基本的にはヘアライン仕上げが施されているが、ベゼルの稜線など光を受ける部分にはポリッシュ仕上げを与え、鋭いエッジを際立たせた。チタン特有の軽快さを保ちながら、光のコントラストによって金属としての存在感を引き出している。

ブレスレットは、多角形ベゼルの迫力に負けない3列構造。駒の上面にはヘアライン、斜面にはポリッシュ仕上げを施し、多角形のケース形状と呼応するソリッド感を演出した。また、外駒にはテーパーが施されており、ケースの稜線とつながることで一体感を引き立てるとともに、バックルにかけて細くすることで、軽やかで洗練された印象に仕上がっている。
このように、ケース、ベゼル、ブレスレットの面構成や面積、角度まで設計段階から十分に吟味し、Nexterらしいソリッド感と高級感が生み出された。
二体構造で制約を克服したベゼル
GPSソーラーウォッチの外装設計には、一般的な機械式時計とは異なる制約がある。衛星電波を受信し、文字盤を通して光を取り込んで発電するため、内部のアンテナやソーラーセルを考慮しながら、風防と文字盤の間にも一定のクリアランスを確保しなければならないのだ。さらにCal.5X63は、デュアルタイム表示や1/20秒計測のストップウォッチを備える多機能ムーブメントである。
こうした条件の下で、Nexterらしい力強い外観と装着性を両立するために採用されたのが、アストロン初となる二体構造のチタン製ベゼルである。

従来の3X系では、「SBXD013」などに見られる多角形状のベゼルを一体構造の金属ベゼルとして成立させていた。この造形を5X系にもそのまま継承しようとすると、風防の高さを起点に多角形の斜面がそのまま下へ落ちる形となり、ベゼル自体が高くなる。
その結果、時計の重心が上がって腕なじみが悪くなるだけでなく、横から見た際にも重厚な印象が強くなってしまう。そこで採用されたのが、ふたつのチタンパーツからなる二体構造だ。ベゼルを分割することで、多角形の飾り縁だけを独立させ、その高さを抑えることが可能になった。これにより、必要なクリアランスを確保しながら、低重心で腕なじみのよいケースを実現。さらに、横から見た際の重たさも軽減している。
使いやすさと一体感を両立した「スマートスイッチ®」
そして、HAB001Jを語るうえで欠かせないのが、新たに開発された「スマートスイッチ®」である。ケース裏側に設けられたプッシュボタンを押すだけで、ユーザー自身がストラップを容易かつスピーディーに交換できる独自機構だ。

対応するオプションとして、ケースの造形に合わせてデザインされたシリコン製ストラップもブラックとホワイトの2色がレギュラーで用意されている。ケースの形状に沿ってストラップが自然につながるため、交換後も腕時計全体の造形的な一体感が損なわれない。

さらに、バックルを締めた際に余るストラップの先端をバックルの内側へ収める「剣先内潜り」を採用。手首回りをすっきりと見せるとともに、ストラップの先端が外側に出にくく、快適な装着感にも配慮している。
だが、「簡単に外す」ことができても、意図せず外れてしまったら意味がない。そこで、ケースバックに配されたスマートスイッチ®着脱用のボタンにはガードを設け、腕への干渉を抑え不用意な操作を防いでいる。

加えて、12時位置に取り付けるブレスレット、もしくはストラップに「12H」のマーキングを施すことで、6時方向と12時方向それぞれの取り付け方向を直感的に分かるようにした。装着時には「カチッ」という音と感触によって、正しく取り付けられたことを触覚だけでなく、聴覚でも確認できる点もポイントだ。
「使われ続ける」ことを想定した完成度の高さ
日常使いを支える外装にも、細やかな配慮が施されている。ケースとブレスレットに採用されている純チタンは軽量だが傷が付きやすい素材だ。だが、セイコーが誇る表面加工技術であるダイヤシールドを施すことで、傷への耐性を高めている。
風防に用いられているサファイアクリスタルにはスーパークリア コーティングを施し、光の反射を抑えて視認性を確保。10気圧防水や耐磁性能も備えている。
そしてもちろん、GPSソーラーウォッチとしての実用性も高く、日々の使用で求められる耐久性と利便性を、外装からムーブメントまで隙なく追求した。機能性はもちろん、造形や使い勝手まで妥協したくない人にこそ、その作り込みが響く1本だ。
表情の異なるブラック文字盤のバリエーション
Nexterの文字盤は、微細な凹凸が生む光と影のコントラストに加え、虹挽きやポリッシュ仕上げを使い分けたインデックス、太くマッシブな針によって、立体感と高い視認性を両立している。その仕上げの妙を、よりシャープに楽しめるのがブラック文字盤モデルだ。
「HAB001J」と同じく、純チタン製のブレスレットと組み合わされたモデルだ。GPSソーラー(Cal.5X63)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径43.4mm、厚さ12.4mm)。Tiブレスレット。10気圧防水。30万8000円(税込み)。
シリコン製ストラップを備えたこのモデルは、随所に取り入れられたゴールドカラーのアクセントが特徴的だ。GPSソーラー(Cal.5X63)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径43.4mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。29万7000円(税込み)。
深い黒を背景にインデックスや針の金属による質感が際立ち、全体が引き締まった印象となる。いずれもNexterらしい力強い造形と高い視認性を備えながら、色によって異なる表情を楽しめるカラーバリエーションである。



