東京都江戸川区の「宝石・時計 ハナジマ」花島素人氏に聞く/時計の賢人、その原点と「上がり時計」

FEATURE時計の賢人その原点と上がり時計
2020.07.24
安堂ミキオ:イラスト

時計の賢人たちの原点となった最初の時計、そして彼らが最後に手に入れたいと願う時計、いわゆる「上がり時計」とは一体何だろうか? 本連載では、時計業界におけるキーパーソンに取材を行い、その答えから彼らの時計人生や哲学を垣間見ていこうというものである。今回話を聞いたのは、東京都江戸川区にある「宝石・時計 ハナジマ」(株式会社ハナジマ)の花島素人社長だ。花島氏が挙げた原点時計はクレドール「エントラータ」、「上がり時計」はコルム「ゴールデンブリッジ」のオリジナルモデルである。その言葉を聞いてみよう。

今回取材した時計の賢人

花島素人

花島 素人 氏
株式会社ハナジマ/代表取締役社長

1957年に現在地の東京都江戸川区松江に創業した「宝石・時計 ハナジマ」(創業当時は「花島時計店」)の2代目社長。小学生の頃から店の手伝いを開始する。時計の商品選定から仕入れ、陳列までを手掛けた高校時代には店の売上げを10倍に導いたという逸話を持つ。「何事もやるからにはいちばんを目指す」がモットー。2002年より現職。同店は1972年にラザール・ダイヤモンドを日本で最初に輸入し、82年に日本ダイヤモンドクラブを設立、2019年にも日本ジュエリーショップ大賞を受賞するなど、ハイジュエリーを扱う宝飾店としても有名。

「宝石・メガネ・時計 ハナジマ」公式サイト https://www.hanajima.com/


原点時計はクレドール「エントラータ」

Q. 最初に手にした腕時計について教えてください。

A. 平成元年にお店を全面改装し、そのリニューアル記念として行ったのがクレドールフェアでした。この頃の当店は時計よりもジュエリーの方が主力だったこともあり、ブランドに対して「フェア用に100本まとめて仕入れしたい」と持ちかけた際に「50本くらいが現実的ではないですか?」という受け答えがあったことを覚えています。ですが、蓋を開けてみれば1カ月半で364本を販売することができました。なお、そのうち4分の1が金無垢モデルでした。「エントラータ」はフェアの成功を記念して、いちばん多く売り上げたモデルを自分へのご褒美として購入した時計です。ここから当店の時計販売の快進撃が始まりましたから、これが私の原点時計と呼べるものです。この後、さまざまなブランドからも取り扱いの依頼を受けましたし、クレドールとも何千万円級のジュエリーウォッチを何本もコラボレートして手掛けてきました。 
 1992年、クレドールの販売成績ベスト15の、全国の有名時計店さんたちとバルセロナオリンピックへ出掛ける機会がありました。この時にエントラータを着けて参加したことも良い思い出です。

クレドール

花島素人氏が原点時計に挙げたのは、クレドール「エントラータ」。セイコーが1974年から手掛けるドレスウォッチブランド「クレドール」をハナジマでは1989年より取り扱い開始し、その初年で売上げ日本一を記録する。Ref.GKJW030。クォーツ(Cal.6579)。SSケース(直径34.2)。3気圧防水。1987年発表。


「上がり」時計はコルム「ゴールデンブリッジ」のオリジナルモデル

Q.いつしか手にしたいと願う憧れの時計、いわゆる「上がり時計」について教えてください。

A. ハナジマで取り扱うブランドは、良質なプロダクトを認められることはもちろん、あらゆる哲学を分かち合える時計ブランドに絞っています。流行やネームバリューは関係ありません。そして取り扱うからには全力で販売します。その中でも過去30年来深い関係を築いてきたのがコルムです。お店の2階にコルムのインショップを設けており、販売実績、フロア面積、常時60本以上の在庫数ともトップレベルと自負しています。
「上がり」時計とのことですが、私は良い時計を見付ければすぐに仕入れ、その中でも気に入った物は憧れに留めず自分用にも購入し続けています。例えば2019年にはコルムの「ゴールデンブリッジ」を2本、シチズン「エコ・ドライブ」を1本、家族用にクエルボ・イ・ソブリノスの「トコロロ」を3本買いました。このように気になればすぐに購入しますから「念願のこの1本」と心に置き続けているものはありません。ただ、しいて挙げるならばやはりコルムから選びます。いつか「ゴールデンブリッジ」とコラボレートを手掛けてみたいですね。フルスケルトンダイアルと一列のムーブメントが見事な時計です。例えばこの機構部分に、ジュエリーメーカーでもある私どもが選んだ宝石を散りばめられたら、美しい時計になると思いませんか。デザインのイメージが近いのはRef.B100/01509です。この思いを遂げられたなら、その時計を私の「上がり時計」といたします。

ゴールデンブリッジ

時計師ヴィンセント・カラブレーゼの構想により1980年に誕生したコルムの「ゴールデンブリッジ」。イラストのモデルとしたRef.B100/01509は12時位置にフライングトゥールビヨンを配し、18Kホワイトゴールドのケースを2.41ctのフルカットダイヤモンドと5.04ctのバケットダイヤモンドが飾る。
Ref.B100/01509。手巻き(Cal.CO 100)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KWGケース(縦56.00×横37.50mm、厚さ12.35mm)。4200万円(税別)。


あとがき

 江戸川区の住宅街にあり、最寄り駅からの所要時間はバスで約10分、徒歩だと20分。それに対してマイカーを持つ地元住民は銀座など中心部まで15分ほどもあれば出られてしまう。時計やジュエリーを販売する上で、決して好立地と呼べぬこの場所で強い存在感を放ち続けるのが「宝石・メガネ・時計 ハナジマ」だ。同店のウェブサイトをのぞくと「10年保証」「100回無金利」と目立ったサービスが並ぶ。しかしこれらのアピールポイントは魅力のほんの一角に過ぎない。花島素人氏が何よりも大切にしていることは「顧客や友人、家族、誰であっても関わる人へ最大限に心を尽くす」ことだ。顧客との関係性を知る上で印象的だったエピソードがある。数カ月ほど前、当店の主力ブランドであるコルムの時計を求め、はるばる名古屋からマイカーでやってきた若い男性がいた。彼は接客を担当した花島氏を慕い、2度目には、自身のプロポーズ用の指輪を特注するために同店を再訪した。一度訪れればその吸引力は理解できる。

高井智世

【2020新作時計】コルム「アドミラル」コレクション

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