世界最大規模の時計売買プラットフォーム「Chrono24」日本に本格進出

FEATUREその他
2020.08.28
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

2003年に始まったChrono24(クロノ24)は、オンラインで時計を売買するプラットフォームとしては、世界最大級の規模に成長を遂げた。取り扱う時計は6割が中古で、4割が新品。同社のビジネスは非常にシンプルだ。Chrono24が直接時計を売るのではなく、時計を売りたい小売店や個人と、購入希望者に安全な環境を提供するというものだ。事実、CEOのティム・シュトラッケはこう語る。「私たちはパートナーがオンラインで販売するのを助けることを目指しています」。

Chrono24 公式ページ : https://www.chrono24.jp/


年間の取引額は約15億ユーロ

同社は本社をドイツのカールスルーエに構えるほか、サテライトオフィスを、ベルリン、香港、ニューヨークに設けている。2020年8月24日時点で、Chrono24に登録した販売者は約6万3000人、出品される時計は49万9663点で、その総額は約40億ユーロ、一日の訪問者数は約50万人である。現在、Chrono24に類似したビジネスは多くあるが、Chrono24ほど成功を収めたものは他にないだろう。2019年に約15億ユーロもの取引高を記録したChrono24を、シンガポールのジャーナリストであるSJXは「世界最大の時計売買のプラットフォーム」と評した。

Chrono24 CEO

Chrono24でCEOを務めるティム・シュトラッケ。長期的なビジョンにより、同社を世界最大の時計売買のプラットフォームに成長させた。


ユーザーフレンドリーなサービス

2003年に創業されたChrono24は、あくまで、売り手と買い手を繋ぐ広告サイトでしかなかった。しかし、2010年に同社を買収したシュトラッケは、このサイトを「買い手と売り手をつなぐテクノロジーを備えたサービスを提供する市場」に変容させた。売り手と買い手に場を提供することに変わりはないが、そこに物品を売買する際に取引の安全性を保証するエスクローサービスを加えたのである。

Chrono24がこれほど短期間に、しかも多くの愛好家から支持を集めた理由は、エスクローサービスに代表される、ユーザーフレンドリーな姿勢を貫いたため、と言える。同社が設けた条件は6つだ。

1.販売業者の厳格な審査
2.エスクローサービスでの支払い(可能な場合)
3.保険付き発送
4.返金対応付きの純正品保証
5.個人に合わせた多言語によるサポート(日本語にも対応)
6.スムーズな返品処理

これが嘘でない実例をひとつ挙げたい。筆者は数ヶ月前に、オーストリアのセラーからChrono24で一昔前の時計を購入した。コロナ禍で出荷は3ヵ月遅れたが、Chrono24からは、注文した時計は届きましたかという確認のメールがひんぱんに送られてきた。そして、売り主には時計が届いた後に金額が払われたのである。正直、時計をオンラインで購入して、こういうケアを受けた記憶は他にない。オンラインセールス、しかも海外のサービスだと敬遠する人は少なくないが、Chrono24の信頼性は極めて高いと言える。日本語が使えるのも大きな強みだ。

筆者のChrono24アカウント画面。今まで購入した時計、購入した時計の現在の金額、チェックする時計などが一目でわかる。

多くのオンラインサイトの運営者と異なり、シュトラッケはオンラインで買うという行為に対して、明確な哲学を持っている。彼は海外の時計サイトであるWatchprositeのインタビューでこう述べた。「時計を買うという行為は、クリックして購入するだけではないのです。それはしばしば、数か月、あるいは数年を費やす旅のようなものです。時計を買いたい人は、時計のフォーラムやブログを検索し、友達やそのソーシャルネットワークに質問し、店舗に行き、やっと時計を購入します。購入の前に、当社のサイトまたはアプリで平均30〜40からの異なるユニークアクセスが見られます。そして、私たちはユーザーが正しい決定を行えることを手助けできるのです」。個人的な意見を言うと、無理に買わせないというスタンスには大賛成である。だからこそ、一日に50万人もの愛好家が訪問するようになったのだろう。


今の価値が分かる、Chrono24 Watch Collection

時計の購入を数か月、または数年を要する「旅」と考えるChrono24は、その旅を充実させるツールを提供してきた。ひとつはデータや記事の提供。同社は、時計の関する記事に加えて、価格を簡単に比較するための多くのデータを提供している。そしてもうひとつが「Chrono24 Watch Collection」だ。これは、購入した、あるいは所有する時計のポートフォリオを追跡するというもの。購入した時期と金額を入れると、現在その時計がいくらになっているかが一目でわかる。持っている時計、あるいは購入した時計をデジタルコレクションに追加して、長期的に財務実績を監視できるというのは、一部の時計コレクターには朗報だろう。

このサービスは、プラットフォームで毎月行われる何万もの取引から推定されるデータに従っており、かなり正確な金額を表示してくれる。過去の販売価格と、Chrono24の現在の販売価格が含まれるこの値は毎日更新されており、現在、時計取引、とりわけ中古時計の取引を行う上でのひとつの指標となりつつある。関係者は明言しないが、Chrono24 Watch Collectionを参考にする人たちは少なくない。

Chrono24 Watch Collection : https://www.chrono24.jp/info/watch-collection.htm


Chrono24は、なんと記事の提供も行っている。現在5か国語で掲載されており、その中には日本語も含まれる。


約1万8000のモデルを自動的に識別するウォッチスキャナー

加えて、Chrono24は、ふたつの新しい機能をChrono24のアプリに追加した。まずは「バーチャルショールーム」。これは、人気のある12のモデルを仮想的に試すことができるARツールだ。現在用意されているのは、ロレックスの「サブマリーナー」、オメガの「スピードマスター・プロフェッショナル」、パテック フィリップの「ノーチラス」、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」などだが、今後増える予定だ。

また、「ウォッチスキャナー」を使用すると、ユーザーは任意の時計をスキャンして自動的に識別し、Chrono24 Watch Collectionに追加などができる。これは非常に巧妙なもので、撮影した時計の写真をChrono24にある約200万点の画像と比較し、リファレンスや現在の推定市場価格などをユーザーに提供するというものだ。同社曰く、現在このツールは、約1万8000(!)の異なる時計モデルを識別できるとのこと。加えて同社はフィードバックを反映した改良版を、近々リリースする予定だ。

アプリは下記の公式ページより入手可能だ
https://www.chrono24.jp/info/apps.htm

Chrono24のアプリには、新機能としてウォッチスキャナーが追加された。時計をカメラにかざすだけで、約1万8000モデルの名称やリファレンスなどが分かる。


目指すのは新しいプラットフォーム

シュトラッケはこう語る。「私たちの役目は業界を変えること、とりわけ人々が時計、特に中古時計やヴィンテージ時計を購入する方法を変えることです。世界的な透明性、膨大な在庫、市場データと時計販売サービスの低コストを考慮すると、私たちは時計の売買のための新しいプラットフォームを作成していると言えるでしょう」。

正直、多くの時計愛好家にとって、海外のオンラインサービスはなかなか利用しづらい。しかし、長年利用してきたひとりとして言うと、Chrono24は国内外のオークションサイトよりはるかにユーザーフレンドリーだし、信頼できる。それに、買った時計の今の値段が分かるChrono24 Watch Collectionは、それだけで利用する価値がある、と言えるだろう。自分のコレクションの資産管理をしたい人は、このサービスを使うことを強くお勧めしたい。

今後、好むと好まざるとにかかわらず、時計のオンラインセールスは拡大するだろう。その中にあって、ユーザーフレンドリーかつ信頼性の高いサービスを作り上げたChrono24の手法が広まれば、ウォッチビジネスのあり方も、大きく変わっていくのではないだろうか。


Contact info: Chrono24
https://www.chrono24.jp/