熟成された永久カレンダーを 載せた「使える」複雑時計 IWC/ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42

FEATURE本誌記事
2020.08.26

リュウズだけで操作できるIWCの永久カレンダー。その最新版が、2020年にリリースされた新しい「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42」だ。ベースムーブメントにはCal.82000系を採用。Cal.52000系のタフさと精度はそのままに、サイズを縮小したムーブメントだ。そこに熟成した永久カレンダーを加えた結果、本作は実用性をさらに高めた。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

熟成された永久カレンダーを強固なムーブメントが駆動する

 今年、刷新された新しいポルトギーゼ。大きな改良点は新型ムーブメントの搭載だ。「ポルトギーゼ.クロノグラフ」の69000系、「ポルトギーゼ.オートマティック40」の82000系共に大変完成度の高いムーブメントである。とりわけ後者は、52000系の構成を受け継ぎつつも、直径を30㎜に抑えることで、ポルトギーゼのタフネスと高精度はそのままに、ケース径を40㎜に抑えることに成功した。この基幹ムーブメントを搭載したのが、新しい「ポルトギーゼ.パーペチュアル.カレンダー42」である。既存のパーペチュアルとの大きな違いは、ベースムーブメントとケースサイズだ。〝小さな〞82000系の採用により、直径は42.4㎜、厚さも13.8㎜に抑えられた。

 ベースである82000系について改めて述べたい。このムーブメントは、52000系からペラトン自動巻きを、89000系から一部の駆動輪列を転用したものだ。82000系が採用するペラトン自動巻きは、基本設計を1950年のキャリバー85までさかのぼる。IWCは85系の自動巻き機構を、ほぼ変えることなく使い続けているが、一度大きな改良を加えた。52000系では、自動巻きを巻き上げる爪と中間車、そしてローターを支えるおむすび状の偏心カムがセラミックスに置き換わったのである。この変更により、理論上は自動巻き機構の摩耗が起こらなくなった。つまり、長期間使用しても自動巻きの巻き上げ効率は変わらない。また、手巻きをしても自動巻きが摩耗しないというメリットもある。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42

 82000系はそれを転用している。しかし、自動巻き機構の慣性を下げるためにセラミックス製の中間車は肉抜きされ、理論上の巻き上げ効率はさらに改善された。また、緩急針を持たないフリースプラングテンプには、89000系同様に、ヒゲゼンマイの変形防止ガードが追加された。テンワの慣性モーメントは、12㎎.㎠。巻き上げ効率が高いだけでなく、耐衝撃性能にも優れるこのムーブメントは、当然ながら携帯精度も優秀だ。

 このムーブメントに重ねた永久カレンダーモジュールも、やはり熟成されたものである。そもそも85年のダ・ヴィンチ用に設計された永久カレンダーモジュールは、「GSTパーペチュアル」の採用に際して、耐衝撃性を高めた。このモジュールはムーブメントに応じてサイズを変えてきたが、基本的な構造はまったく同じである。 他の永久カレンダーが日車から動力を取るのに対して、IWCの永久カレンダーは、1日に1回動くデイトリングにピンを立て、その力ですべてのカレンダーを進ませる。ダ・ヴィンチを設計したクルト・クラウスが「リュウズを回すだけで、すべてのカレンダーを早送りできる」と語った通りだ。永久カレンダーの動力源がデイトリングのため、カレンダーの作動時にもテンプの振り角は落ちにくい。その抵抗の少なさは、クォーツムーブメントでも動かせるほどだ。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42

 その最新版が、ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー42の搭載するキャリバー82650である。研究開発部門の責任者であるステファン・イーネンは語る。「搭載する永久カレンダーは、主に89000系に基づいている。ムーンフェイズ表示の位置を変更したほか、スペースがないため、4桁の西暦年表示をうるう年の表示に改めた。また、技術的な改良も加えている」。IWCの永久カレンダーモジュールは、ベースこそ同じだが、82650の採用に際して、部品が肉抜きされたほか、バネなどの追加によって耐衝撃性をさらに高めている。このムーブメントがベースであれば、本作の信頼性は文句なしだろう。

 屈強なムーブメントに、熟成された永久カレンダーを搭載した新しいポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー42。サイズはもちろんのこと、これは普段使いに最適な永久カレンダー搭載機だ。複雑時計を決して飾り物にしない。この誠実さこそ、IWCのIWCたるゆえんだろう。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42

IWC/ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42
新しい基幹キャリバーを搭載した永久カレンダーモデル。小ぶりになった結果、使い勝手が向上したほか、兄貴分譲りの耐衝撃性や精度を持つ。リュウズひとつですべてのカレンダーを操作できるという特徴は、すべてのIWCに共通する利点である。文字盤や自社製ケースの質感も申し分ない。自動巻き(Cal.82650)。46 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径42.4mm、厚さ13.8mm)。3気圧防水。342万円。

Contact info: IWC TEL:0120-05-1868


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