【インタビュー】A.ランゲ&ゾーネ商品開発ディレクター「アントニー・デ・ハス」

FEATURE本誌記事
2020.09.20
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

「決して立ち止まらない」を体現した新しいタイムゾーン

「決して立ち止まらない」を社是に掲げるA.ランゲ&ゾーネ。それを最もよく体現するのがプロダクトだ。モデルチェンジのたびに新機能を追加してプロダクトを進化させていく。その開発を牽引するのは、アントニー・デ・ハスである。新しい「ランゲ1・タイムゾーン」も、やはり進化版だ。メインダイアルとサブダイアルの昼夜表示が見直されたほか、24都市の時刻に連動するサマータイム表示が加わった。ケースの8時位置にあるボタンを押すと都市表示リングが動き、それに連動して時刻が切り替わる。その際、時刻を表示する都市がサマータイムを採用しているならば、サブダイアルの小窓が赤く表示される。

アントニー・デ・ハス
A.ランゲ&ゾーネ商品開発ディレクター。1967年、オランダ生まれ。スイスの時計学校を卒業後、セイコーオランダに入社。97年、IWCでアフターサービスを担当した後、2002年、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ)に入社。「トゥールボグラフ」開発にあたって、A.ランゲ&ゾーネに招聘され、04年に入社。05年以降、すべての製品の開発を統括する。モットーは「過去の焼き直しはしない」こと。

「サマータイムの仕組みは難しくない。24の都市を表示するリングの内側に切り欠きを設けている。そこに当たったガイドが動くことで、サマータイム表示を左右に動かして色を切り替える」とデ・ハスは説明する。仕組みはシンプルだが、実際はもう少し複雑だ。「ガイドが動くと、それに連動した歯車が回転して、サマータイム表示を記した扇状の部品を動かす」。都市表示の切り替えは明確な手応えを伴うが、そこに連結したサマータイム表示は、トリッキーな動きを見せない。A.ランゲ&ゾーネらしい「安全機構」と言えそうだ。また、このメカニズムは、もうひとつの利点がある。

「前作のランゲ1・タイムゾーンは、時差の変更に伴い都市表示リングに変更を加えた。新しいタイムゾーンも同じだ。都市表示リングを替えるだけで、サマータイムの変更に対応できる」。新しいランゲ1・タイムゾーンは、見た目にも少し手が入った。

「サブダイアルと針のクリアランスを詰めたほか、タイムゾーン針の中心も小さくした。前作はメインとサブで大きさが変わらなかったからね。文字盤上のフォントも新しく変わっている」。確かに、新しいタイムゾーンの文字は、前作に比べて細身だ。

「2015年からA.ランゲ&ゾーネは文字盤上の書体を少し変えた。新しいタイムゾーンは、それに従った変更を加えている」

 しかし、この新作が本当の意味での「決して立ち止まらない」理由は、ベースムーブメントにある。なぜベースにグランド・ランゲ1用のムーブメントを選んだのか、と尋ねたところ彼は「違う」と即答した。

「これはグランド・ランゲ1用ではなく、一から作り直したムーブメントだ。共通するのは脱進機とテンプのみ。香箱はグランド・ランゲ1に同じだが、主ゼンマイのトルクが違う。タイムゾーン表示を動かすにはトルクが必要なためだね」

 大きく変わっていないようで、まったく別物になったランゲ1・タイムゾーン。「決して立ち止まらない」を体現する快作だ。

ランゲ1・タイムゾーン

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1・タイムゾーン」
新型ムーブメントとサマータイム表示を備え、刷新されたランゲ1・タイムゾーン。特徴的な昼夜表示をメインとサブダイアルの中心に移した結果、視認性も向上した。サイズは前作にほぼ同じだが、ケースが0.1mm薄くなった。なお、ムーブメントはまったくの新規設計である。手巻き(Cal.L141.1)。38石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPG(直径41.9mm、厚さ10.9mm)。30m防水。予価551万円。8月以降発売予定。



Contact info: A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080


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