2018年の名作を通してセイコーのダイバーズウォッチの歴史を堪能しよう。「1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン」

FEATUREWatchTime
2020.09.16

セイコーのダイバーズウォッチは2000年に復活して以降、15年にはハイビート搭載機を発表するなど、そのDNAを受け継ぎながら進化を遂げている。今回は1968年の忠実な復刻モデルSBEX007が発表された2018年の記事を振り返る。執筆者はアメリカWatchTime編集長のロジャー・ルーガーだ。2020年の今年も、ブルーカラーをまとったこの色違いモデル「SBEX011」が注目を集めた。発表時の興奮を時間をさかのぼって感じられるだろう。

Originally published on watchtime.com
Text by Roger Ruegger
2020年9月16日掲載記事

セイコープロスペックス「1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX007」

 セイコーのダイバーズウォッチの歴史は、1965年に発表した150m防水性能のファーストモデル「62MAS」から始まる。その3年後の1968年に発表された、300mの防水性能とハイビートムーブメント搭載モデルの「6159」もまたセイコーのマイルストーンに刻まれた名作だ。2018年にはこの50周年を祝う「1968 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX007」が発表され、大きな話題を呼んだことが記憶に新しい。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン

2018年に発表されたSBEX007。1968年のファーストモデルを再現しながら、細部は現代的にアップデートされた。


マリーンマスター

 2000年、セイコーは300mの防水性能を備えるダイバーズウォッチを復活させた。Ref.SBDX001、モデル名は「マリーンマスター」だ。300mの防水性能を引き継ぐプロフェッショナル向けで、毎時2万8800振動、約50時間のパワーリザーブを保持する自社製キャリバー8L35を搭載して発表された。ブレスレットモデルだったこのSBDX001に対し、まもなく追加投入されたのがラバーストラップ仕様の「SBDX003」である。これは1968年のダイバーズウォッチに特徴的だったゴールドのインデックスと針の要素を備え、かつ世界限定500本という希少性も相まってたちどころに完売となった。

SBDX300

1968年のダイバーズウォッチのデザインを踏襲したマリーンマスター、SBDX001。自動巻き(Cal.8L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径44.3mm、厚さ14.6mm)。300m飽和潜水防水。25万円(税別)。2000年発売。製造終了。

 一方SBDX001は、世界のダイバーズウォッチファンへじわじわと知名度を上げていく存在になっていた。その特徴には前述の自社製ムーブメント、直径44.3mm、厚さ14.6mmのワンピース構造のケース、ダイバーズウォッチでは初となるフォールディングバックルの採用などが挙げられる。価格は日本円で税別25万円。発表当初は日本限定モデルだったが、この10年後となる2010年、海外まで販売が拡張されることが決まった。マリーンマスターは修理や点検の際に専用工具を必要とするが、現在、セイコーブティックは世界展開しており、またそれぞれに熟練修理工も抱えるため、おおむね販売された国内での対応が可能である。アメリカの場合、旗艦店はニューヨーク、マイアミ、ロサンゼルスの3箇所だ。

 2015年、セイコーはSBDX001の後継機として「SBDX017」を投入。外観的にはほぼ同じだが、新作への変更点には蓄光塗料の改良、ムーブメントの脱進機を構成するガンギ車とアンクルの製造方法が電気鋳造のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)へと変更されたこと、自社の新しいケース表面加工「ダイヤシールド加工」の採用、リュウズにプロスペックスのロゴがレーザーエングレービングされたこと、価格が約10%上昇したことなどがあった。同じ年、2000年に行われたように、セイコーはより高価格帯の1000本限定モデル「SBDX012」を、文字盤とロゴにゴールドのアクセントを加えたダイバーズウォッチ発売50周年記念モデルとして投入している。その後、セイコーはヨーロッパ限定発売の200本のリミテッドエディションで、アイスブルーダイアルの「SLA015」も発表した。

 国際的に成長を続けるセイコーはさらに2017年、ヒストリカルなダイバーズウォッチの忠実な復刻版を投入した。1965年のファーストダイバーズウォッチ62MASをベースとした3モデルだ。3400USドルの通常モデルのほか、グランドセイコーからブラックダイアルにゴールドのアクセントを施した文字盤デザインの「SBGH255」(9600USドル)と、当時のグランドセイコーのダイバーズでは最高価格となる9800USドルのブルーダイアルの限定モデル「SBGH257」である。この3モデルから風防にはハードレックスに代わってサファイアクリスタルが採用された。またセイコーが新しい価格帯で国際的な時計市場へ挑む起点となった。


マリーンマスターの終わりとハイビート・ダイバーズの帰還

 2018年には、2015年のSBDX017の後継機となる、グリーン文字盤の「SBDX021」が世界限定1968本モデルとして投入された。サファイアクリスタル製風防とグリーンセラミックインレイのベゼルが採用され、3年前のモデルよりも価格は上がり、3250USドルで販売された。なお、本機より文字盤の「MARINEMASTER」の文字は消えた。

SBDX021

2018年に発表されたSBDX021。自動巻き(Cal.8L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径44.3mm、厚さ15.4mm)。300m防水。世界限定1968本。完売(発売時の税別価格32万円)。

 2018年にはグリーンモデルのほかにもう1本が発表された。「1968 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX007」だ。同年の主役は、間違いなくこの1本だった。見た目には前年のモデルと同じくオリジナルに忠実であるが、よく見ると細部はわずかにアップグレードされている。ベゼルはより高く、インレイは薄くなり、文字盤上の文字や針の幅、インデックスのサイズはわずかに小さくなって、レイアウトをすっきりとさせている。

SBEX007

Ref.SBEX007。自動巻き(Cal.8L55)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径44.8mm、厚さ 15.7mm)。300m飽和潜水用防水。世界限定1500本。55万円(税別)。2018年発売。製造終了。

 わずかに大きくなったケースのラグには、オリジナルモデルを想起させるサテン仕上げとシャープなエッジが復活した。ラグにある穴を好まない向きもあるかと思うが、これはストラップ交換作業をしやすくするものだ。この穴は、ストラップを装着すると見えなくなる。セイコーは伝統的にブレスレットやストラップ装着に太いバネ棒を使用してきた。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン

SBEX007にはエクストラロングのブラックシリコン製ストラップがピンバックルと共に付属している。ラグ幅は19mmだ。

 ケースの鏡面仕上げはザラツ技法によるもので、「ダイヤシールド」によって保護されている。ダイヤシールドはセイコー独自の表面仕上げであり、通常のステンレススティールよりも2倍から3倍の硬度を与えることで、細かい傷や腐食から時計を保護する。同時にコーティングによって外観や素材の質感も少し変化するため、好みが分かれるところであろう。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン

ゴールドのインデックスとコントラストを成すマットブラック文字盤のクローズアップ。

 復刻版の文字盤はオリジナルに忠実である。丸と四角で構成されるアワーマーカーには高輝度な蓄光塗料のルミブライトが塗布され、マットブラックの文字盤上で美しいコントラストを見せる。3時位置にはゴールドカラーで縁取りされたデイト表示、12時位置にはセイコーのロゴとその下に「AUTOMATIC」、「HI-BEAT」の文字、6時位置には「PROFESSIONAL」と「300m」の記載が見られる。文字盤外周にはわずかに角度のついたミニッツリングがある。それを指すゴールドカラーの秒針の先端にはレッドカラーのアクセントがあしらわれている。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン

ルミブライトは10分程度の短時間蓄光が可能で、3~5時間程度の長い時間で発光が持続する。放射性物質は含まない。

 ケースはオリジナル同様のワンピース構造だ。フラットなケースバックにはシリアル番号が刻印されている。総重量は147gと手首で存在感がある。付属するラバーストラップの耐久性もそれまで以上に高まった。

BEX007

プロスペックス誕生50周年の節目に作られたSBEX007。

 SBEX007で特筆すべきは、1968年の6159に搭載されたキャリバー6159Aへのオマージュとして、毎時3万6000振動の自動巻きムーブメントが復活したことだ。搭載されるのは自社製キャリバー8L55で、岩手県雫石町の雫石高級時計工房で作られている。ここはグランドセイコーの機械式時計の生産も行われている場所だ。キャリバー8L55は2009年発表のグランドセイコーのキャリバー9S85から派生したもので、異なるのは仕上げとグランドセイコーモデルほどには厳しくない検査基準だけである。キャリバー8L55はまた、MEMSで作られたガンギ車とアンクルを採用する。ヒゲゼンマイには「スプロン610」を、主ゼンマイには「スプロン530」という、弾性が高く、温度変化に強く、また磁場の影響を受けにくい合金を使用している。セイコーによると「スプロン530によって従来比+6%のパワーを確保でき、約5時間長いパワーリザーブを実現できた」ようだ。ハイビート化によって必要になったパワーに対し、十分なトルクを供給しているのである。スプロン610はというと、「耐衝撃性は2倍に、耐磁性は3倍になった」ようだ。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン

モノブロック構造のケースのエッジはシャープな仕上がりだ。表面はサテン仕上げである。

 グランドセイコーのキャリバー9S85と同様に、キャリバー8L55はシングルバレルで約55時間のパワーリザーブを保持する。これはハイビート機の中では長いパワーリザーブだ。ハイビートであることは、精度の高さや、ロービートよりも滑らかに見える秒針の動きに貢献する。

毎時3万6000振動、約55時間のパワーリザーブを保持するキャリバー8L55は2015年に開発されたセイコーの自社製ムーブメント。

 セイコーはキャリバー8L55の精度について、+5℃から+35℃の環境下で日差+15秒から-15秒であると公表している。グランドセイコーの9Sムーブメントの精度は+4秒から-2秒、C.O.S.C.の求める平均日差が+6秒から-4秒である。キャリバー8L55をより高精度にしていくことは可能だろう。ただ、これゆえに価格を抑えていることは考えられる。単純比較は意味をなさないが、同じ価格帯の腕時計を挙げると、例えばIWCの「アクアタイマー・オートマティック」Ref.329001がある。搭載されるベースキャリバーは毎時2万8800振動のETA2892A2であり、ケースは9時半位置にリュウズ状の圧力コンバーターを備えた複雑な構造のものだ。

 セイコーが自社のダイバーズウォッチの歴史に光を当てた2000年以降、プロスペックスを進化させたことでブランドの評価と価値を飛躍的に向上させたことは評価に値する。

SBEX007

SBEX007はヘリウムエスケープバルブなしに、300mの飽和潜水に使用することもできる。

 最後にSBEX007の着目するべき点として、ブラック文字盤にゴールドのカラーリングなど、デザインが1968年製のダイバーズウォッチにかつてなく忠実に復刻されたことを挙げる。見た目の再現性や搭載するムーブメントの品質などは、現代において復刻モデルを手に入れる楽しさを存分に味わわせてくれるだろう。

 結論から言うと、セイコーになじみのない人にとっては、SBEX007は価格が高かったり、オリジナルに忠実過ぎることがネガティブポイントに映るかもしれないが、これを手にする世界1500人のコレクターにとっては確実に、セイコーの最高のダイバーズウォッチを再び手にする最高の喜びが与えられるだろう。

 おかえりなさい、6159!


Contact info: セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012


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