リシャール・ミル「RM 27-04 トゥールビヨン ラファエル・ナダル」軽さと強さの相関関係

FEATURE本誌記事
2020.12.17

2020年は、リシャール・ミルとラファエル・ナダルの“共同開発”がスタートしてから10周年。ナダルのアナザースキンと評された、あまりにも軽量なエクストリームウォッチは、軽さ=新しいラグジュアリーの概念というパラダイムシフトまで引き起こした。しかし最新のナダルモデルは、圧倒的な軽さを凌駕する、強さを求め始めた。

鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
(2020年12月発売 1月号掲載記事)

RICHARD MILLE TECH 2020
[RM 27-04 TOURBILLON RAFAEL NADAL]

 衝撃の大きさを表すG値は、その重量と密接な関係にある。物体が受けるダメージは、重量×衝撃値(G値)で求められるが、一般的に言えば、時計を頑丈に作るほど重量は増えるため、結果的に大きなダメージを受けてしまうということになる。デビュー以来、多様なアプローチで〝エクストリーム・トゥールビヨン〞を作り続けてきたリシャール・ミルで言えば、ポロプレイヤーのパブロ・マクドナウモデルが、直接的な耐衝撃性を高める試み、テニスプレイヤーのラファエル・ナダルモデルが、軽量な時計を作る試みだった。しかし実のところ、このふたつは表裏一体の関係にあり、両者は先進的なテクノロジーを共有しながら、個別の進化を遂げてきた。その現時点における最終進化形が、8代目ナダルモデルとなる「RM27-04トゥールビヨン ラファエル・ナダル」だ。

RM 27-04 トゥールビヨン ラファエル・ナダル

RM 27-04 トゥールビヨン ラファエル・ナダル
ラファエル・ナダルとのパートナーシップ10周年を記念する新作。軽さよりも強さを追求したモデルで、シリーズ最大値となる1万2000Gを実現。手巻き(Cal.RM27-04)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。TitaCarb®(縦47.25×横38.4mm、厚さ11.4mm)。50m防水。世界限定50本。予価1億1500万円。

 ムーブメントをワイヤーで宙吊りにする「ケーブルサスペンションシステム」が最初に試みられたのは、2013年に発表された「RM27-01トゥールビヨン ラファエル・ナダル」だった。しかし以降のナダルモデルではケーブルサスペンションの搭載は見送られ、14年の「RM56-02トゥールビヨン サファイア」を経て、18年の2代目マクドナウモデル「RM53-01トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」で一気に進化を遂げることになる。平面方向のテンションのみでムーブメントをフローティングマウントしていたRM27-01、RM56-02に対し、RM53-01のケーブルサスペンションは、斜張橋のように立体的なワイヤーの取り回しに改められていた。この複雑な設計理論をそのままに、もう一度平面形状へと戻したものが、新作RM27-04のシステムだ。一見テニスラケットをそのままデザインしたようにも見えるが、ガット張りと同じ原理をムーブメントに組み込むためには、RM53-01を経て培われた、ケーブルサスペンションの技術が必要だったのだ。

 ナダルモデルの初作となった「RM 027」(2010年)の時点では、開発目的は間違いなく軽さの追求だったはずだ。試作機はストラップ込みで約20g。しかしケーブルサスペンションを初採用したRM27-01以降、フォーカスポイントは軽量さから耐衝撃性の高さへとシフトしていった。カーボンTPT®でミドルケースと地板を一体成形した前作「RM27-03」(18年)では、ついに耐衝撃性が1万Gに達している。新作RM27-04ではこの記録を1万2000Gへと更新。ストラップ込みで約30gという重量は、歴代ナダルからすれば決して軽量級というわけではなく、むしろ10gほど増えている。それでも耐衝撃性を向上させているということは、いかにケーブルサスペンションの性能が上がったかという指標になるはずだ。

 RM27-04のケーブルサスペンションは、位置関係で言えば、ちょうどダイアルに相当する位置に組み込まれている。ムーブメントの外枠となるグレード5チタン製のインナーベゼルに、直径0.27㎜の編み上げスティールケーブルを通し、そこに地板を吊り下げる構造だ。ケーブルの通し方は、テニスラケットで言えばガットの1本張りと同じだからノット(結び目)は2カ所。実際にはPVD処理された5Nゴールド製のテンショナーふたつでケーブルを固定している。インナーベゼルに38回通されるケーブルの総延長は569㎜で、これを縦横に編み込むことで855㎟の面積を構成しているのだ。ケーブルの目の向きに沿ってムーブメントが吊り下げられるため、香箱は1時位置、キャリッジは7時位置にくる。一般的なトゥールビヨンの輪列を、斜めに配置した格好だ。

Cal.RM27-04

Cal.RM27-04に搭載されるトゥールビヨンキャリッジ。厚みを抑えた設計は、姿勢差誤差を大きくしないためのセオリー。内装されるテンプはフリースプラング仕様。

 興味深いのはケーブルに編み込まれた独自の耐震装置だ。ムーブメント側の香箱真、2番真、キャリッジセンターの3カ所にパイプ状のシャトンを立てて、赤い耐震装置で受ける。これにはムーブメントをケーブルサスペンションに懸架させる際の位置決め(センタリング)を補助する効果もある。支えられるムーブメントの総重量は、3.4gに過ぎない。 新しいナダルの〝アナザースキン〞となるケース本体にも、独自素材が盛り込まれた。リシャール・ミルが、スイスのBiWi社と共同開発した「TitaCarb®」は、高性能ポリアミドの一種。少し紛らわしいが、これは仏デュポン社の商標であるナイロンやケブラーと同様のエンジニアリングプラスティックであり、金属のチタンとは無関係。しかし38.5%のカーボンファイバーを含有させることで約370MPa(約3700㎏/㎠)の引張強度を持ち、ポリマーの中では最高水準の耐久性を持つ素材となっている。その他、ケースにした際の剛性や、熱膨張係数の低さ、温度と湿度への優れた耐性なども、ナダルの激しいプレイに寄り添う、エクストリーム・トゥールビヨンのケースとしては好適だ。

 2020年は、ラファエル・ナダルとリシャール・ミルがパートナーシップを締結してから10周年。かつて超軽量こそが新しいラグジュアリーの概念というパラダイムシフトを打ち立てたリシャール・ミルだが、その最先端を走ったナダルモデルは、再び強さを追い求め始めた。


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