Fitbitが気付かせる“健康を取り戻す”ために必要なたったひとつのこと

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2021.10.25

テクノロジーの分野で知らぬ人はいないほどのジャーナリストが、本田雅一氏だ。その本田氏が、ウェアラブルデバイスについて執筆する本連載。今回は「自分を知る」ことにフォーカスしたスマートデバイス、Fitbitについて語る。

fitbit

本田雅一:文
Text by Masakazu Honda
2021年10月25日掲載記事

Fitbit「Sense」

 中年になってくると、多少お腹が出ていても「みんな同じだよね」と、半ばあきらめている読者もいるのではないだろうか。「在宅ワークで運動する機会が少ない」「年齢的に代謝が落ちたから」「もう見た目を気にする年齢じゃないし」「仕事が優先だから」

 ダイエットできなくても仕方がない理由は、探せばいくらでも見つけることができる。しかし「このぐらいならまだ大丈夫」「いつか帳尻を合わせればOK」「このところ食べてないから」と、ほんの少しのつもりの甘えが積み重なり、もう後戻りできないところまで来てしまったと半ば諦めている方も多いのではないだろうか?しかし、諦める必要はない。健康を取り戻すために必要なことはたったひとつ。“自分を知る”ことだけ。

 今や腕時計の世界ではメジャーな存在になったApple Watchも自分を知るための機能を提供しているが、先日、Googleによる買収が米連邦政府に認められたFitbitはまさに自分を知り、それを健康に生かすために生まれてきたデバイスだった。

50代でもライフスタイルは変えられる

 こんなことを書いているのは、筆者が50歳の誕生日に最大時からマイナス50キロの減量を果たした経験があるからだ。体重の最大値は142キロ、体脂肪率は約45%。2016年9月から減量を始め、17年9月、50歳の誕生日にマイナス50キロを達成。さらに18年4月には体脂肪率18%、体重で84キロにまで落ちた。

 体重の4割を減らし、身体の体積は半分になった。毎日の生活、仕事が楽チンになったことは言うまでもない。減量していく中で、自分自身に合った運動や生活習慣、新しい楽しみを見つけ、体重の数字には一喜一憂せずに体型をキープしながら筋肉量を増やして格闘技を嗜むようになり、人生を楽しんでいる。

 人は「本田さんはよほど我慢強いらしい」というが、そんなことはない。僕自身は自分に厳しいライフスタイルなどまっぴらごめんだと思っている。そんな僕が自分を変えられた理由はひとつだけ。「自分を知る」ことだ。

 多くの読者は“体重を減らせばダイエットは成功”だと思っていないだろうか。しかしダイエットの成功とは、適正体重を“維持していく”ことに他ならない。何キロ落としたところで、しばらくしたら元に戻っているようでは意味がないからだ。

 ではどうすれば適正体重が維持できるのだろう?

 体重を落とすときにも、維持するときにも、どちらの場合でも重要なことが「自分の状態を知ること」。自分の状態をよく知れば、自分自身の行動や食事、生活パターンと体重や体調の変化を実感できるからだ。

 自分の変化を実感する。すなわち、自分の身体の変化を知れば、それを「楽しみ」に換えていくことでモチベーションへとつなげることができる。我慢を続けて減量しても、いつかその我慢は限界を迎える。“我慢ではなく、楽しんでダイエットする”ためにも、自分を知ることがとても重要なのだ。

 自分を律して清く正しい生活を送る仙人のような生活ではなく、自分らしく楽しみながら健康的で活動的な生活リズムを作っていく。


Fitbitの製品はなぜユニークなのか

 さて、まるで健康雑誌のような書き出しになってしまったが、Fitbitがユニークなのは、まさに“自分を知ること”にフォーカスしていることだ。他の機能もないわけではないが、基本的に彼らは利用者の1日を記録し、振り返り、情報を与えることに特化している。

 腕時計型でもフィットネスバンドでも、ハードウェアの形態は異なるもの。そのどれもが、その日を振り返ることにフォーカスしており、さらには1週間、あるいは1ヶ月といった単位での生活習慣に気づきを与えてくれる。

 この気付きは直接の利用者だけではなく、健康保険組合や健康保険会社などがFitbitの製品を多く採用していることからも分かる。彼らはまた、食生活など一般的な生活習慣の記録機能をハードウェアを利用する際に必要となるスマホアプリで提供するなど、総合的な生活習慣や健康管理までも包含しようとしている。

 何でもないことのようだが、ここまで徹底するとユニークな存在となるGoogleが買収したのも納得だ。この会社は2009年に設立されたが、現在では1億2000万台を超えるデバイスが100カ国以上で使われている。彼らのデバイスはこれまで、 275兆もの歩数と150億時間以上の睡眠を記録し、これらを健康管理とウェルネスに活用しようとデータを研究してきたのだ。

“自分を知る”

 シンプルなようではあるが、手首に巻きつけるだけのデバイスでどこまでできるかと言えば、多くのユーザーが「???」とクエスチョンマークを出すだろう。しかし、彼らが発売している腕時計型デバイスの「Fitbit Sense」は、歩数や心拍数、睡眠状態だけでなく、血中酸素飽和濃度やストレスと相関する微弱な電流のセンサーまでを包含している。

Sense

Fitbit「Sense」
Fitbitが展開するスマートウォッチカテゴリの中の上位機種で、さまざまなセンサーを搭載している。基本的な心拍計やGPSに加え、皮膚温度や睡眠状況を観察することにより、着用者のストレス管理が可能。カタログ値では6日間のバッテリーライフをうたっており、約1週間充電する必要がない。SS(縦40.4×横40.4mm)。50m防水。バッテリー寿命約6日間。写真左:3万9990円(税込)。写真右:2万9990円(税込)。

 その多くはApple Watchや他のスマートウォッチでも使えるじゃないかと思うかもしれない。しかし、Fitbitはあくまでも健康管理を第一にしたメーカーである。彼らの製品は一般的なスマートウォッチよりも電池が長持ちし、しかも小型・軽量のため装着感がよく、睡眠時に取り外したくなることもない。


生活リズムの変化を、自分の楽しみに

 自分の生活リズムが、身体にどのような影響を及ぼしているのか。記録を続けることの意味は“自分自身を知ること”で気付きを得るものだが、さらに踏み込めば「自分が行った結果」を客観的に知る機会にもなる。

 なぜ痩せたのだろう?なぜ太ったのだろう?

 例えば「以前よりも運動量が増えているのは体重が落ちたおかげだな。身体が軽くなったから、疲れにくいし活動的になって毎日が楽しい」とポジティブな体験を繰り返すために、電子デバイスが客観的に自分の行動を見つめてくれているのだ。

 活動量の変化が体調や体重の変化に相関することに気付き、始める頃には思いも寄らなかったことを考えるようになる。例えば、ランニングをしたいなどと一度も思わなかった私が、突然ランニングを始める。それは義務としてやっているのではなく、変化した身体を感じ「試しにやってみよう」と好奇心を持って始めてみると、案外走れる上、走った後の爽快感を感じたりするのだ。

 もし、以前なら階段を観るだけでも尻込みしていたのが、ほんの少しだけ楽だと感じたなら、それが「次のステップ」への入り口だ。デバイスは気付きを与えてくれるが、その気付きから自分の歓びへとつなげるのは自分の発想力だ。ダイエットの成功は「減量したあとの身体の変化」が、いかに自分自身の喜びに変えられるかにかかっている。


世界から集めた情報が医療も変える

 そんなFitbitの自分を知る機能は、時にもっと大きな気付きをもたらす。近年のFitbit製品には手首表面の温度を計測する機能がある。これは主に睡眠の質を推察するための機能なのだが、当然ながら体温との相関性がある。体温が高ければ、手首の表面温度も上がるからだ。

 Fitbitは新型コロナウイルスが流行し始めてから、ユーザーがどのぐらい運動をしなくなったのか、体温や酸素の血中飽和濃度と共に記録し続けている。そのデータを用いることで、新型コロナウイルスを発症する前の段階で血中酸素飽和濃度が下降することが分かった。

表

「世界中の人々をより健康にする手助けをすること」をミッションとするフィットビットでは、コロナウイルスによるパンデミックが人々の健康にどのような影響を与えるかについて、世界中のユーザーの匿名データを継続的に分析している。そのデータから、以下の傾向が見られた。
・安静時の心拍数が改善(低下)した。また、特に若い世代で顕著な結果となった
・歩数は低下傾向、アクティブな心拍ゾーン時間は増加傾向が見られる国が多かった。(日本では歩数は低下したものの、アクティブな心拍ゾーン時間も低下した。)
・睡眠時間は増加
・就寝時間のブレは低下
・相乗効果が見られ、複数のよりよい行動をとったユーザーでは、さらに高い改善効果が見られた
この他にもパンデミック状況下での様々なデータを記録し続けているFitbit。コロナウイルス感染症の検出、追跡、抑制するため、研究機関と情報を共有して終息へ向けて取り組んでいる。

 これらのセンサーを内蔵するFitbitのデバイスは限られているが、安静時心拍数など一般的なデータの変化からも、新型コロナウイルスに感染した予兆を読み取る研究が臨床研究として進んでいる。

 NASAは150人の宇宙飛行士を含む1000人の従業員に、Fitbitのデバイスを提供しているという。従業員はウェアラブルデバイスを装備した上で、毎日体調を記録するチェックインアプリを使って職務に入る。この際、Fitbitデバイスから相対的な体温変化やその他のバイタルデータも蓄積される仕組みだ。

 もちろん、NASAはかなり厳格な感染管理と可能な限りのリモートワーク体制を構築はしているのだが、就寝時の体温変化や血中酸素飽和濃度、安静時心拍数や心拍数の変動、呼吸数などのバイタルサインの履歴を取得することで、予防的に新型コロナウイルスへの感染を察知できる。無論、100%の精度ではないものの、その日、職場に行くべきか自宅に止まるべきかのガイドラインとはなる。

 ダイエットの話とは乖離しているって?

 いやいや、そんなことはない。ダイエットは健康のために行うべきであるが、この話は大げさなものではなく、判断の基準を持つという実にシンプルなものだからだ。

 Fitbitは健康のための判断基準となる数字を引き出すことに特化し、そのために長時間のバッテリー持続時間や多くのセンサーを内蔵させ、それを可能な限り継続的に取得し続ける。一般的なスマートウォッチとの違いは、機能やデザインではなく、その目標設定とそれに伴う開発ポリシーなのだ。


本田雅一
本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。


Contact info: https://www.fitbit.com/jp/home


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