水のきらめきを蒔絵仕上げで表現したカシオ最新オシアナスの"粋"

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2021.07.15

オシアナスを次なる進化へ導いた薄型化への執念

 もっとも、プラチナ蒔絵が生み出す幻想的な世界は、オシアナス マンタ S5000シリーズが持つスリムなプロポーションがあるからこそ活きてくる。ベースとなるS5000シリーズが発表されたのは2019年。この年はオシアナスがデビューしてから15年の節目にあたり、カシオではこのタイミングで新たなモジュールを搭載した時計をリリースするべく、2015年から準備をスタートさせた。

黒羽晃洋

ベースとなったS5000シリーズのモジュール企画を担当した黒羽晃洋氏。「世界で活躍するビジネスパーソンに使って欲しいという願いから、標準電波だけではなくBluetoothも搭載し、スマートフォンがあればどこでも正確な時刻情報が得られる利点をキープしたうえで薄型化を実現した」と、薄型化と高機能維持の両立を重視したという。
OCW-S5000ME搭載モジュール

電子部品を片面に集積させる片面高密度実装をはじめ、メインプレートやカレンダー、歯車、リュウズを新規に設計し、それぞれ0.01mm単位でのサイズダウンを図った。

 新モジュールの搭載機種に選ばれたのは、オシアナスのメインコレクションであるマンタ。2007年に誕生して以降、スリムなクロノグラフ搭載モデルのコンセプトを貫いているが、同コレクションのさらなる薄型化を実現するために、すべての部品や構造を一から見直したという。

モジュール

写真左がS4000シリーズで使われていたモジュール。右のS5000シリーズに搭載されたモジュールと比べると、明らかに薄くなっていることが分かる。

 なかでもモジュールの薄型化に最も寄与したのが、片面高密度実装技術だ。これまでは基板の両面に各種電子部品を配置していたが、新モジュールでは電子部品を基板の片面に集約。ただし、これを実現させるためには、各部品を小型化した上で、限られたスペースに最適に実装する必要がある。また、搭載する機能が増えれば実装も複雑になり、これについてはカシオも「デイト表示なしの3針で、電波受信機能もBluetoothも搭載しないシンプルな仕様の方が片面にまとめやすい」と説明するが、当然のことながら同社はそれを選ばなかった。基本機能である電波ソーラーはもちろんのこと、S4000シリーズに搭載されたBluetoothによるスマートフォンとの連携機能や10気圧の防水性能といった、オシアナスに求められる高機能を確保したままでの薄型化を目指したのだ。

カレンダー

カレンダーの薄さも従来モデル(左)と比較すると一目瞭然。このように、各モジュール部品を新規設計することで、モジュールのみで従来比1.41mmもの薄型化を実現させた。

 そしてこの基板に配置する各種部品については、まず、電波ソーラーウォッチに適したパーツを製造するメーカーを探し出すことから始まり、さらに各メーカーにパーツの小型化を依頼するなど、いくつものハードルをクリアして実現に至った。例えばカレンダーはもともと樹脂製だったが、新しいモジュールでは従来よりもはるかに薄く、しかも耐熱性にも優れるPETシートに変更した。

ベゼルとミドルケース

ケースの薄型化に大きく貢献したのが、ベゼルとミドルケースの接合方法。従来はこのふたつをかしめて接合していたが、新たにレーザー溶着で接合する手法を開発。堅牢製や気密性を維持しながら、ケースは2.2mmもスリムになった。

 一方、外装の薄型化におけるカギとなったのが、ベゼルとミドルケースとの接合方法だ。従来、このふたつのパーツはかしめるように接合しており、耐久性や気密性を確保するためにも厚みを持たせた形状が必要だったが、接合方法を模索した結果、新たに両パーツをレーザーで溶着する技術を開発して薄型化を実現。これに伴いデザイン変更も必要となり、オシアナス マンタに共通する薄いながらも存在感のある意匠をさらに追求。インダイアル、ダイアル、インデックスの各パーツに高低差を設け、さらにケースからバンドに連続感を持たせて流麗なシルエットに仕上げることで、薄さを際立たせつつも主張の強いルックスを完成させた。

 部品や構造を細かく見直すことでモジュールはS4000シリーズで使用されていたものより29%も薄型化でき、結果、11.7mmだったケース厚もわずか9.5mmにまでサイズダウンすることに成功。阿波藍を用いたシリーズ第2弾も、主要モデルはS5000シリーズをベースにしていたが、最新作の「OCW-S5000ME」では、薄さを追求したこのケースがプラチナ蒔絵の繊細な表情を一層引き立たせることとなった。

オシアナス マンタ OCW-S5000ME

(左上)上部に向かってグラデーションのようにプラチナ粉を施す“蒔きぼかし”によって水の流れを表現。抜描の部分にはあえて数粒の粉入れを施し、情緒性のあるデザインに。(右上)ベゼルとダイアルは別々に蒔絵を施しているにも関わらず、一体感を持たせているのが見事。精度を追求する山形カシオの高い技術力がうかがえる。(左下)ケースのみならず、中ゴマの一部にもザラツ研磨を施し、ブレスレットにもアクセントを添えている。(右下)ケースは約9.3mmの薄さをマーク。上品なプロポーションを見せるのみならず装着感も高めている。

 薄く、流麗なプロポーションを実現したケースに数々の実用的機能を備えたS5000は、現時点におけるオシアナス マンタの最高峰シリーズである。それだけでも十分に所有欲をくすぐられるが、「伝統と革新の融合」というテーマを加えることで、S5000シリーズはさらなる魅力を手に入れた。もちろん、2018年の江戸切子や2020年の阿波藍も、従来の“伝統技を取り入れた時計”にはない新しさを備えていた。しかし、プラチナ蒔絵を用いた最新作はベースとなる時計との完璧な調和を見せ、完成度はさらなる高みに到達。機能、フォルム、そして下出氏の手作業によって生み出された幻想的な世界が一体となった「OCW-S5000ME」は、まさにオシアナスの“粋”と呼ぶにふさわしい。

オシアナス マンタ OCW-S5000ME

OCW-S5000ME-1AJF
プラチナ粉の蒔絵を採用した1500本の限定モデル。繊細かつモダンな雰囲気を放つ一方で、オシアナスらしく機能面も充実。Bluetoothを用いたスマートフォンリンク機能を搭載し、アプリケーションとの連携によって世界約300都市の時刻設定が容易に行える。タフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Ti(直径42.3mm)。10気圧防水。1500本限定。27万5000円。
オシアナス マンタ OCW-S5000MES

OCW-S5000MES-1AJF
「蒔きぼかし金線波紋」をデザインコンセプトに、プラチナ粉が付着しない部分に線状の金粉を施した限定300本のスペシャルモデル。ケースはブラックDLC加工を施したチタンを採用。ブラックで統一した精悍な佇まいのなかで、プラチナとゴールドが上品にきらめく。タフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Ti(直径42.3mm)。10気圧防水。300本限定。35万2000円。

Contact info: カシオ計算機お客様相談室 Tel.03-5334-4869
https://oceanus.casio.jp/collection/manta/OCW-S5000ME

 

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