タフネスを追求したボールウォッチ、その謎に迫る「エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP」

FEATUREその他
2021.08.03

高い耐衝撃性と防水性能、そして耐磁性能を兼ね備えたボール ウォッチの「エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP」。これらハイスペックはどのようにして実現しているのか。ボール ウォッチ特有のテクノロジーをひもときながら、その魅力に迫る。

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi(estrellas)
広田雅将:文
Text by Masayuki Hirota
2021年8月3日掲載記事


なぜボール ウォッチはこんなにもタフなのか?

 アメリカの鉄道時計を祖に持つボール ウォッチ。しかし、近年は自発光するマイクロガスライトを皮切りに、タフさを強調するようになった。それを象徴するのが、ハイエンドモデルの「エンジニア ハイドロカーボン」だ。同モデルはマイクロガスライトがもたらす高い視認性に加えて、耐衝撃性・耐磁性・防水性を大きく高めたモデル。ボール ウォッチはこのモデルをベースに、一層性能を向上させたダイバーズウォッチの「サブマリン ウォーフェア」を完成させた。今回はそんなサブマリン ウォーフェアの日本限定モデルを紹介する。


圧倒的な耐衝撃性能

 ハイドロカーボン以降、ボール ウォッチが取り組んできた課題に、耐衝撃性の向上がある。もちろんこれは各社とも取り組むものだが、ケースだけでなくムーブメントにも手を入れるのが、“ボール流”だ。例えば、ヒゲゼンマイの変形を抑える「スプリングロック耐震システム」。強い衝撃を受けてもヒゲゼンマイが緩急針などに絡まないようにするこの仕組みは、今や唯一無二のものだ。

エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP

「スプリングロック耐震システム」や「セーフティロック・クラウンシステム」によって7500Gsという高い耐衝撃性を獲得した「エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP」。ブレスレット も1400ニュートンまでの荷重に耐えられるバックルを採用するなど、まさにタフウォッチとも言うべきハイスペックを誇る。

 このシステムを内蔵することで、ボール ウォッチの時計は、フリースプラングテンプ付きの時計と理論上は同等の耐衝撃性を誇る。また、ムーブメントを支えるリングには弾力性のあるエラストマー素材を採用することで、1.5mの高さから木の床に落としてもダメージを受けない。この7500Gsという耐衝撃性は、機械式時計の中では最高レベルだ。

 300m防水を誇る「エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP」は、そんなボール ウォッチの取り組みを象徴する1本である。300m防水を実現するため、あえてエラストマー素材付きの中枠は省かれ、ケースは頑強に仕立てられた。またムーブメントの構造をシンプルにするため、スプリングロック耐震システムも省かれた。もちろんボール ウォッチの開発したさまざまなシステムは非常に頑強なものだ。しかし、同社はこれがダイバーズウォッチであることを考慮して、あえて機構をシンプルにしたのである。にもかかわらず、耐衝撃性は従来に同じ7500Gsを実現している。

 簡潔な構造にもかかわらず、高い耐衝撃性を持てた理由はいくつかある。ひとつは、リュウズ(クラウン)をカバーする「セーフティロック・クラウンシステム」だ。時計が強い衝撃を受けると、リュウズからショックが伝わってムーブメントにダメージを与えてしまう。そのため、一部のスポーツウォッチは、リュウズとムーブメントの連結をカットするジョイント式の巻真を採用する。対してボール ウォッチは、リュウズ周りの部品点数を減らし、しかし同等以上の耐衝撃性を与えるため、ジョイント式の巻真に変えて、リュウズに強固なカバーを与えたのである。

 加えて、ブレスレットを固定する弓管も2点留めとなっている。普通は1点留めだが、衝撃を受けると外れる可能性がある。そこでボール ウォッチは2点留めに変更しただけでなく、専用工具でなければ外せない構造に改めた。

 時計全体の耐衝撃性を高めるというアプローチは、ユニークなエクステンション機能付きバックルにも見て取れる。普通のバックルは、ロック時に25kgの荷重に耐えられれば良い。対して本作が採用したバックルは、なんと約140kg(1400ニュートン)もの荷重に耐えられる。しかもこのバックルは、片側11mmずつ、合計22mmのエクステンション機能が付いているのだ。普通、エクステンションを付けるとバックルは壊れやすくなる。しかしボール ウォッチは多機能を盛り込むだけでなく、頑強なバックルを完成させたのである。


300m防水を実現するセーフティロック・クラウンシステム

セーフティロック・クラウンシステム

耐衝撃性能と高い防水性能の実現に寄与する「セーフティロック・クラウンシステム」。物理的なリュウズへの衝撃を抑えるだけではなく、リュウズのねじ込み忘れというヒューマンエラーを防ぐ役割も持つ。

 エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェアは、ダイバーズウォッチにふさわしく300mという高い防水性能を誇る。従来のエンジニア ハイドロカーボンに比べてケースを2mm拡大し、加えて耐衝撃リングを省くなどにより、防水性能を100m向上させた。またこのモデルは、サファイアクリスタル風防も異なる。無反射コーティングが施されたサファイアクリスタル製風防の厚みは3.8mmと、500m防水ダイバーズ並みに分厚い。防水性能を考えれば過剰とも言える厚さだが、高い性能を求めるボール ウォッチらしい仕様と言えるだろう。

 なお、耐衝撃性のところでも説明した「セーフティロック・クラウンシステム」は、防水性の改善にも寄与している。リュウズは標準的なねじ込み式。しかし、最後までねじ込まないと、リュウズがカバーに干渉して、きちんと締めることが出来ないのが、普通とは異なる。当たり前のように思えるが、こういった配慮を加えたカバーは、セーフティロック・クラウンシステム以外に存在しない。これにより、ねじ込み式のリュウズで問題になる、確実に締め込まないという問題はまず起こらないのである。

セーフティロック・クラウンシステム 仕組み

セーフティロック・クラウンシステムの特許資料。リュウズの固定方法やシステムの狙い、効果などが記載される。特許番号はCH701884A2。

 事実、セーフティロック・クラウンシステムの特許資料(スイス特許CH701884A2)には、「本発明によるボックスの特性により、リュウズがねじ込まれていない場合、保護レバー10は必然的に開いた状態になる」と記されている。単に防水性能を高めるだけでなく、それを確実に機能させるような構造を与える。そこまで考えるのが、今のボール ウォッチなのだ。


ミューメタルのもたらした8万A/mという高い耐磁性能

エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP

8万A/m(1000ガウス)の高い耐磁性能は、ムーブメントを耐磁ケースが覆うことで実現する。試み自体は古くからある一般的なものだが、素材は他社が用いる軟鉄製ではなく、磁気シールドなどにも使われるミューメタル。薄くて加工性に優れるため、ケース径は42mmに抑えられている。

 加えてこのダイバーズウォッチは、8万A/mという高い耐磁性能を持っている。もっとも、その手法は古典的でムーブメント全体を耐磁カバーで覆い、磁気を逃がす構成だ。この仕組はごくありふれたものだが、ムーブメントそのものに手を加える必要がないため、標準的なエボーシュを使った場合には非常に有効な手法だ。しかし、ケースの中に耐磁カバーを加えるため、どうしても時計は重くなってしまう。

 ところが、ボール ウォッチの開発したミューメタルは、一般的な軟鉄と異なる特性を持つ。そのため、高い耐磁性能にもかかわらず、耐磁ケースを薄くできる。この300mという防水性能と、8万A/mという耐磁性能を持つダイバーズウォッチが、直径42mmという標準的なサイズに収まった一因である。仮に、標準的な軟鉄製のインナーケースを持っていれば、ケースの厚さは45mmを超えてしまっただろう。高性能を、実は使えるサイズに収めたところが、本作の非凡な点なのだ。


〝ハイスペック〟は最良の相棒の証し

エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP

ボール ウォッチ「エンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP」
自動巻き(Cal.RR1102-C)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径42mm、厚さ16.5mm)。300m防水。日本限定100本。31万9000円(税込み)。

 7500Gsという高い耐衝撃性能に、300mの防水性能、そして8万A/mという耐磁性能を両立させた本作は、間違いなく、現行品を代表するタフウォッチだ。加えてC.O.S.C.クロノメーターをクリアする高い精度と、ボール ウォッチならではの高い暗所視認性は、この時計の魅力を一層増す。

 とはいえ、単なるタフウォッチでないのは、すでに述べたとおり。直径42mmという大きさは普段使いが可能だし、MOPを張り込んだ文字盤やセラミックス製のリングを張り込んだ回転ベゼルも、価格以上の質感を見せる。わずか30万円ちょっとという価格で、これだけの内容を盛り込んだエンジニア ハイドロカーボン サブマリン ウォーフェア ブラック MOP。タフで楽しめる時計を探している人には、うってつけの1本だ。

ボール ウォッチ・ジャパン Tel.03-3221-7807



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