『クロノス日本版』の編集部員が話題のモデルをインプレッションし、語り合う連載。今回はユリス・ナルダン「フリークX」を好き勝手に論評する。フリークシリーズでは200万円台と“エントリー”に位置する同作は、しかしコレクション内で最も使い勝手に優れたモデルだった。フリークの初登場から約20年。“オタク時計”だったフリークは、同作の登場で見て楽しい、触って楽しい、着けて楽しいへと進化を遂げている。
阿形美子:文 Text by Yoshiko Agata
2022年12月17日公開記事

フリークの“エントリーモデル”の使い勝手はいかに?
細田
ユリス・ナルダンの「フリークX」は皆さんご存知の通り、カルーセルウォッチであり、シリシウムの脱進機を使ったモデルです。
広田
そうですね。「フリーク」はトゥールビヨンではなくって、カルーセルで針に脱進機とテンプがくっついている時計の先駆者です。基本のアイデアは(ルートヴィヒ・)エクスリン博士によるもので、設計者のキャロル・カザピ女史が作り上げた時計です。そして現在でもユリス・ナルダンの技術的なアイコンです。新しい技術は、全部ぶち込むというコレクションになってます。
鈴木
シリコン脱進機もフリークからでしたよね。
細田
そうでした。明らかにシリコン脱進機を見せるために作っていますよね(笑)。

自動巻き(Cal. UN-230)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径43mm、厚さ13.2mm)。50m防水。299万2000円(税込み)。
鈴木
オリジナルモデルはムーブメントの裏側全面が香箱で、リュウズがなくてベゼルで針合わせをするっていう、なかなかの異端児でした。
細田
オリジナルが登場したのは、2001年でしたね。今回着用したフリークXは19年に登場した、わりと新しいモデルです。これまではベゼルで時分針を調整していましたが、リュウズを付けたのが新しいですね。初代は分針上に輪列も載せていたんでしたっけ?
鈴木
細かく言うと、輪列のブリッジ自体が分針の役割をしたんです。
細田
その輪列も、今回は文字盤側に移ったんですよね。
鈴木
そう。しかも、フリークXはリュウズもあるので、ベースが普通の時計になってます。
細田
2018年には「フリーク アウト」という、フリークシリーズでは初の自動巻きを発表しているんですけども、あれは本当に特殊な自動巻き機構でした。
鈴木
一方で、今回のはマジックレバー式で普通の自動巻き。Cal.UN-230って118 系の改ってことですよね。
広田
そう思います。
細田
価格も大きな違いです。今までのフリークって 1000万円に近いものもザラにあったんですけども、フリークX はかなりお求めやすくなってる。とは言っても、200万円台ですが(苦笑)。ということで、我々がこうやって長期で借りてインプレッションができるようになったので、今回選んでみました。
土井
多くの人にとって、現実的なモデルになりましたね。
鈴木
良い意味で普通に近づいたけど、ちゃんとケレン味だけは残してくれているところがフリークXの魅力だと思うなぁ。
“オタク専科”だったフリークが使いやすく進化
広田
ほんと、良い時計だと思いました。身も蓋もないことを言ってしまうと、フリークって基本的に“オタク専科”でしたから。オタクしか喜ばない時計だったんですけども、これは普通に使えるサイズで、自動巻きもちゃんと巻くし、分針にテンプが付いているにも関わらず、視認性も悪くないし。
鈴木
この個体自体はやや進み気味だったけど、精度も悪くなかったよね。

土井
この個体は、オーバーホール後に組み上げて歩度調整する前のものをお借りしたんです。
鈴木
じゃあさらに調整されるんだね。でも、インプレッションで使っている間も、体感的には普通に問題なく使えました。
土井
秒針がないし、分針もこれだけ太いので、ズレは気になりにくいですね。
広田
Cal.UN-118 から転用した、このマジックレバー式の自動巻きもよく巻いたので、使っていて全然不安がなかった。まぁ、オモシロ時計ではあったけれども、普通に使えるという点では、フリークの完成型とは言わないまでも、実用版になったなと思います。
鈴木
パワーリザーブも約72時間ありますしね。
細田
それから、これまでのフリークはワンショットでなくなるものが多かったですけど、こちらはレギュラーモデルがあり、なおかつ限定モデルも今後出てくるということで、ナルダンとしても本気でコレクションに据えようとしているのを感じます。
土井
最近は毎年必ずバリエーションを増やしていますよね。今年の春頃に出たのはアベンチュリン文字盤でケースがゴールドで。
細田
本当にバリエーションが豊富になってきました。
広田
最初に出たフリークは、僕は何回か触る機会がありましたけど、ガンダムで例えるとジオングみたいな感じだったんですよ。
鈴木
分かる分かる(笑)。そうなんだよね。すごいんだけど、実用性がなくて戦えない、みたいな。
細田
分かる人にしか分からない例えですね(苦笑)
鈴木
ジオングはサイズがすごく大きい設定で、予算が足りなくて足まで作れなかったやつなの。
広田
対して、フリークXは、ゲルググみたいな感じですよ。
鈴木
ゲルググ、カッコいいよね。ケレン味たっぷりだけど、ちゃんと使えるしね。例えが素晴らしいけど、世代的に細田と土井がついて来られてないね(笑)
細田
ちょっと分からないです(苦笑)
鈴木
でも、うちの読者は分かるから(笑)。ゲルググまで来たか!って。じゃあ今後、赤いモデルも出てきたらいいなぁ、なんて。
広田
(笑)
